虫
「なんかおる」
先生の声につられて視線をずらすと、そこそこの大きさの虫が壁にはりついていた。
ーーこわっ
不運なことに、今の席は虫から一番近い位置だ。
ーーうぅ、気づきたくなかった…いや、でも気づけたから警戒できるし…でもこれじゃ虫の方に意識がいっちゃって授業に集中できないよ…
授業が進むが、案の定、虫が気になってしっかりと集中できない。そうこうしているうちに、虫が飛び立ち、私の側を通っていった。
「っ…」
びっくりして固まっていると、その虫は先生の方に飛んでいって…
「邪魔だな」
はたき落とした。先生が、手で。
「?!」
バランスを崩した虫を、ドスンっと踏んだ。先生が、スリッパ履いた足で。
まだ生きていた虫が弱々しく飛び立つも、先生が壁際に追い詰め、再びドスンっとやった。
動かなくなった虫を蹴落とすと、何事もなかったかのように授業を再開する先生。一部始終を見ている間、ずっと開いた口が塞がらなかった私を始めとする生徒、なんか爆笑している生徒、先生と同様、何もなかったように勉強している生徒…
ーーうん、カオス。
遠い目をしていると、
「なんか邪魔だな」
先生が虫を摘み上げて窓からポイっと投げ捨てた。
やっと閉じた口がまたぽかーんとなる。
しかも…
ーー先生!確かに近かったかもしれませんが、私の目の前に虫ぶら下げて、すぐ脇の窓から捨てなくてもいいじゃないですか!
授業に向き直りつつ、先生を恨めしい視線で見やる。
ーーやっぱり、この席ハズレだ。