第三十一話 誘惑作戦
「そなたは本当に美しいな」
ユーリル国王、ランスが熱っぽい視線を向け、鈴子の顎に手を掛けた。
「あら、出会ったばかりですのに?」
鈴子が頬を染めて返す。
はっきり言って五十八年生きてきて、一度たりとも『男性を誘惑したこと』などない。誘惑しろと言われた時も、どうしたらいいのかわからなかった。
しかし!
鈴子、昼メロが大好きなのである。
「どうだ、この国に留まるつもりはないか?」
「あなた様はそんな風に女性を口説くのですね。答えはNO、無理ですわ。私は聖女なのですもの」
スルリ、とランスの腕をすり抜ける。この時の『スルリと』の塩梅が難しいのだ!
「私には勤めがございます。ここへ参ったのもそのため。お分かりでしょう?」
小首を傾げ、ランスを見上げる。
傾げる、角度!!
ランスはそんな鈴子の手を取り、グッと引き寄せる。すっぽりとランスの胸の中に捉えられ、身動きが出来なくなる。
「世界は日々動いている。私は常に王でなければならない。そなたにわかるか?」
「わかりますよ。私だって、常に聖女でなければならないのですから。人々を導き、平和を祈る。だからこそ、ここに参ったのです」
グイッとランスを押し戻し、顔を見上げる。
「何故そこまで戦にこだわるのです? 私は平和な世の方が好きです」
目をキラキラさせ、迫る。そして物憂げにスッと視線を逸らせる。大事なのは、間、だ。お芝居はすべて、メリハリと間なのだ!
「それは…だな、」
銀色の髪をさらりとかき上げる。色気たっぷりに、顔を見上げる。
「陛下。……いいえ、ランス様…、」
鈴子がランスの体にそっと触れる。そろそろだろう。
パンッと、何かが弾け、ランスの体がぐらりと揺れた。
「あら大変!」
鈴子が抱きとめようとするも、いかんせん、重い……。
「おっと」
ドアの外から駆け込んだゼンが慌てて倒れこんだランスの体を支えた。
成功か?
「スズは芝居もうまいな。こいつ、メロメロだったぞ」
「いやぁねぇ、ゼンちゃんが素敵に変身させてくれたからよぉ。あとは、昼メロ見てたからかしらね。参考にしたの」
恥ずかしかったが、褒められて嬉しくなる鈴子なのだった。




