第三十話 聖女様に、私はなる!
「スズ、こいつが言ってるのは、こういうことだぜ」
ゼンがパチン、と指を鳴らした。
ふわ、と鈴子の周りを風が駆ける。
「おおおお!」
「なんと!」
「きゃぁぁ~」
その場にいた屋敷の面々が驚きの声を上げた。クルスはニコニコしながら鈴子を見、近衛隊長のリンドルは何故か顔を真っ赤にしている。メイドたちからは黄色い声援。鈴子はわけがわからなかった。
「いやねぇ、なんなの?」
発せられた声に、驚く。自分の声ではなかったからだ。サラリ、と銀色の長い髪が頬に掛かる。
「ええ?」
自分の体を見る。そこに、見知った肉はない。そして見慣れない肉がある。
「ええええええ?」
ウエストがある! 随分長いこと行方不明だったウエストが!
「私、痩せた? でも、なにこのでっかいおっぱいは!」
ぼいーん、なのだ。
「ゼンちゃん、なにしたのっ?」
「私の思考を読んだのです。そうでしょう?」
ゼンに訊ねると、ゼンが頷いた。
「俺好みにしておいたぞ、スズ」
銀色の長い髪。華奢なのに健康的な体。甘く、優しい声色。琥珀色の瞳。とびっきりの、美女である。
「あらやだ、まさにファンタジーねっ! そうよねぇ、やっぱり美人じゃないとお話は面白くないってことなのねぇ。あらー、こりゃすごいわ。私が読んだ小説もこんな感じだったもの! まつ毛、長いわ~! 白髪もこうやって見ると綺麗なもんねぇ」
壁に掛けてあった小さな鏡を覗き込み、自分の姿を堪能する。
白髪ではなく、銀髪…なのだが。
「こんな顔だったら私の人生、違ってたかしらねぇ……」
頬に手を当て、物思いに耽ってみる。
「ねぇゼンちゃん、元に戻せるのよね?」
憂いを帯びた顔で、鈴子。
「戻せるが?」
「ああ、それならよかったわ~。とっても綺麗だけど、これは私じゃないものね。こんな姿で帰ったら、夫がなんて言うか」
そりゃ、戸惑うだろうよ。喜びそうでもあるが……。
「その姿で、わが弟を誘惑していただきたいのです、聖女様」
クルスは作戦の全貌を詳しく話し始めた。




