第二十八話 兄弟
「呪い?」
キョトン、としている鈴子とは対照的に、アナビスは驚愕の表情を浮かべている。ゼンはクルスに向き直ると、言った。
「全部じゃないが、解いたぞ。あんたの体に掛けられてた鎖は外したから、もう少しマシになるだろう」
ゼンによると、クルスには幾重かの術が施されており、病弱なのはそのせいだとの事。
「ね? 言った通りだったろう?」
何故かクルスが自慢げにアナビスに言う。これも予知夢で知っていたのだろうか。
「しかし、大魔導士のかけた呪いを指一本で解いてしまうなど、そんなことが、」
未だ信じられないといった風なアナビスに、鈴子が言った。
「ゼンちゃんはすごいのよっ。なーんでも出来ちゃうんだから」
「……いやスズ、なんでもじゃないぞ」
褒められるのは嬉しいが、嘘は正すゼンなのである。
「聖女様、お会いできて光栄です。私はユーリル国、皇太子クルス。次期、国王です」
キッパリと言い放つ。
「しかし、そのためにはもう少し、ご協力をお願いしなくてはなりません」
申し訳なさそうに、しかし、ハッキリとした物言いで、そう告げた。
クルスの話によると、ランスとクルスの兄弟は元々、仲が良かったのだそう。しかし、彼らの父である前国王が病に臥せった頃、城に新しく魔導士が入り、どうもその辺りからおかしくなったようだ。
「その魔導士はランスにべったりでね。父が亡くなるとすぐ、私はここに追いやられたんだ。体の調子が悪くなり始めたのも同じくらいの時期だったかな」
「じゃ、その魔導士が裏で糸を操ってるってことなの?」
何故か声を潜めて、鈴子。
「少なくとも関わってはいるだろうね。私は弟が…ランスがそこまで酷い人間だとは思っていない。思いたくないだけかもしれないが」
「わかるわ~、身びいきってやつよねぇ」
鈴子がしみじみ言ってのける。
「私もねぇ、あるわよ。余所んちの子が褒められてるの聞くと、あ~ら、うちの子なんかねぇ! って言っちゃうもの。親バカねぇ」
「お子さんが?」
クルスが訊ねる。
「ええ、男の子が一人。ゼンちゃんよりちょっと下くらいかしらね」
「……おいスズ、俺は二百を越えてるぞ?」
「あらやだ、ゼンちゃんたら私よりずっと年上! なのにお肌すべすべねっ!」
関係ないところに喰いつく鈴子なのだった。




