第二十六話 アンダーカバー
「そのような危険な真似、させるわけにはいきませんぞ、鈴子殿!」
フィンノが額に青筋を立て、怒鳴る。
「そうですぞ! 国境の様子を見る、という我が国王からの命からも外れております!」
ガイアール軍近衛隊長リンドルもまた、反対のようだ。
彼らの言わんとしていることはわかる。要するに、上からの指示がないのに勝手な真似は出来ない、ということだ。
しかし、これはチャンスだと鈴子は考える。相手の懐に入ってこそ、真実に近付けるというもの。
「ゼンちゃん、彼の話に嘘偽りはある?」
念のためゼンに訪ねると、ゼンは首を振った。
「いいや、全部真実だな」
と言うことは、罠ではないと言うこと。
「なら、決まりね。行きましょうよ」
花見にでも出掛けるノリで、鈴子。
「鈴子殿!」
フィンノが止めに入る。
「だって、これってチャンスじゃないの。国王への謀反がうまくいけば、少なくとも大陸間の不穏な空気は排除出来るんじゃなくて?」
「それはそうかもしれませんが、」
フィンノが渋る。鈴子は腰に手を当て、フィンノを見上げた。
「謀反だなんて言われると大事だけれど、今のままおかしな緊張状態が続くのも困るし、戦争になっちゃうのはもっと困るし、何とかしなきゃいけないのが現実でしょう?」
「それはそうですが」
「私とゼンちゃんだけなら、ミリールもガイアールも関与なしになるでしょう? 文句言われても私が勝手にやったことだ、って言い逃れ出来るじゃない。ね?」
部外者だからこそ動ける。それは確かにそうかもしれない。フィンノは唸った。
「煮え切らねぇオッサンだな。スズが行くって言ってんだから、行くんだよ!」
ゼンが口を挟む。
「……致し方ありません」
肩を落とし、フィンノ。
「決まりね! そうと決まったら、どうやって潜り込むのっ? 兵隊に化ける? それとも夜中に忍び込む?」
ワクワクな鈴子への返答は、しかしあまり楽しいものではなかった。
「お二人には、食材になっていただきます」
地味な潜入方法だった。




