第二十一話 ユーリルの国王
「では、いざとなったら彼を使ってユーリルを叩く、と?」
ミルデロが腕を組み、鈴子を見た。
「うーん、私、争いごとは嫌いなのよねぇ。でもね、綺麗事だけで全部が上手くいくとも思ってないの。だって人間て愚かでしょう?」
おばちゃん独特の、手をパタパタさせる動きを見せながら、鈴子。
素敵だけど愚か。それが鈴子の、人間への印象である。儚いけどしぶとい。馬鹿だけど可愛い。いつだって世界は二律背反なのだ。
「だから、ゼンちゃんの力を借りることになりそう。でもそれはユーリルを叩くとかそんなんじゃなくて、他の方法を考えたいわねぇ」
「というと?」
「それは追々。少なくとも今日、王様とお話出来て、戦に反対してくださってるってわかってホッとしたわ」
鈴子、胸をなでおろす。
男が全員血の気が多いとは思っていないが、権力者という生き物はとかく自分の力を誇示したがるものだ。だからユーリルに乗っかってミリールを討つような思惑が少しでも感じられたらどうしようかと思っていた。
「ねぇ、王様、ユーリルの国王ってどういう方なの?」
「うむ、私も一度会った事があるだけでそんなに詳しいわけではないのだが、年は確か三十六、」
「あらら! 随分お若いのねっ」
血気盛んなお年頃、か。
「先代が亡くなったのが五年前でな。即位式で顔を合わせたのが最初で最後だ。先代はどちらかというと学者肌だったが、息子は軍人上がりなせいか、血の気が多い」
「軍人さんだったの?」
「実は彼には兄がいてな。本来は兄が王座を継ぐはずだったのだよ。だが兄は体が弱いようで、ずっと床に臥せっているのだとか」
「あら、そうだったのねぇ」
「即位から五年。自分の力を周りに認めさせたい気持ちもあるのだろうが」
ミルデロが溜息をつく。
と、慌しく謁見の間の扉が開かれる。
「陛下、申し訳ありませんっ、至急のお話がございますっ」
息を切らし駆け込んできたのは城の近衛隊長だった。鈴子がいることをわかっていて飛び込んできたのだ。只事ではあるまい。
「何事かっ」
「お客人にもお話を聞いていただきたい。実は先程、北の国境近くにユーリル軍と思われる兵士を数十名発見しましたっ」
「なんだと!?」
「まだ領内に足を踏み入れてはいないようですが、武装しているとの情報があり、」
一気に緊張が高まった。




