第二十話 意思疎通
ミルデロが納得したところで、いよいよ本題へと切り込む。
「…というわけで、ユーリルからの宣戦布告、王様はいかが考えますかしら?」
「ふむ。ユーリルとガイアールは友好国平和協定を結んでいる。そう簡単に破られては困るのだが」
「では、やはりただの脅しだと?」
「いや、そうとも言い切れん。ユーリルの国王は野心家だからな。大陸統一まで狙っているかはわからんが、領土拡大、支配地拡張をまったく考えていないとも限らん。知っての通り、わが国は農業国。大した軍事もないし、戦に巻き込まれでもしたら目も当てられん」
大きく息を吐き出す。
「実際、我が国は亜種に対しての戦も乗り気ではなくてな。鈴子殿が戦争を回避しようとてくれていることは救いだった。戦など、何の利もない」
「あら、嬉しいわ。同じこと考えてくださる方がいるなんてっ!」
鈴子が手をパン、と叩く。
「鈴子殿、万が一、ユーリルが仕掛けてくるようなことがあったら、ミリールはどう出るつもりだ?」
深く眉間に皺を寄せ、ミルデロ。
「そうねぇ、話し合いで何とかしたいのだけど、最終手段はゼンちゃんかしらね」
チラ、と、傍らのゼンを見上げる。
「ぅん?」
ゼンがあくびをかみ殺しながら鈴子を見る。
「彼は…?」
ミルデロが改めてゼンに目を向けた。整った顔立ちの青年、只者ではなさそうだと思ってはいたが。
「ああ、ゼンちゃんは言の葉の精霊さんなのよ~。とーっても強いの」
息子を自慢するかのように、鈴子。
「せっ、精霊っ?」
ミルデロが驚いて立ち上がる。しかも言の葉の……。いつか何かの本で読んだことがある。凶悪かつ力の強い精霊である彼は、大分前に何人も魔導士たちによって封印されたと。
「あら、ここでもゼンちゃんたら有名なのね。王様、ゼンちゃんはいい子だから大丈夫よ。今ね、私と契約中なの」
サラッと言ってのける。
「なんと…、言の葉の精霊を契約下に置くとは…鈴子殿、一体どんな、」
驚愕するミルデロをよそに、鈴子はきょとん、とした顔で言った。
「私? ただのおばちゃんだけど?」
ミルデロは目の前のババアと精霊を交互に見比べ、ただ首を捻るしかなかったのである。




