第十六話 戸惑い
もはや会場の空気は一変していた。士気を高め、戦いに向かうはずだった空気を鈴子がぶち壊したのだ。集まった要人たちは一様に顔を曇らせ、どうしていいかわからないといった感じである。
「お集まりの皆様」
国王ハースが声を上げた。
「今、我々が見た光景は、我々の妻や子、孫たちの姿です。今一度、踏み止まり別の道を模索するというのも悪くない話だと私は思っております」
国王自らが鈴子を肯定する。
「我々が願うのは、国の平和。繁栄。そのための手段が戦ではなく、和平に変わるということ。そうではありませんか」
いいぞ、国王! と、心の中で応援する鈴子であった。
「今日のところはここまでにし、改めて計画を練り直したく思っております。まずは皆様、国へのご帰還を果たし、この話を詰めていただきたい」
どう、報告をするのか、そしてこの話をどれだけの国が支持してくれるのか、それはやってみないとわからない。
それでも、と鈴子は思う。
「ゼンちゃん、ありがとねぇ。嫌な映像だったわよねぇ」
鈴子のイメージを全員に見せる、という人ならぬ力を借りられたのは、とても大きかったと思う。
「スズ、あれってお前のいた世界のことか?」
ゼンが眉間に皺を寄せ、訊ねる。
「ええ、そうよ。馬鹿げてるでしょ?」
「そうだな。なんか……俺、反省したよ」
神妙な面持ちで、ゼン。
「あら、どうして?」
「だって俺、結構な数の人間殺してきたし」
サラッと恐ろしいことを言う。
「だからあんな鉄瓶に封印されたわけだし」
鈴子の背中を、変な汗が伝う。
「でも、スズが見せてくれた映像見て思ったんだ。これは違う、って。俺の思う通りにならないからって俺の好き勝手にやってたら駄目なんだ、って」
「あら、ゼンちゃん偉いわ。誰に言われるのではなく、自分で気付けたってことね」
鈴子は褒めるべきところはちゃんと褒めるのである。
「これからは、ゼンちゃんの力を正しいことのために使えるようになるといいわね」
「俺を導いてくれるか? スズ」
ゼンが真面目な顔でそう聞いてきた。
「もちろん、私はゼンちゃんを見捨てたりしないわ」
精霊って、敵に回しちゃダメな種族なのね。
鈴子は今更ながら、気付いたのである。