体育祭でクラス一の美少女と二人三脚することになったが……
俺は体育祭が嫌いだ。
その理由は単純。運動が苦手だからである。
中学生の頃は散々笑われたのを思い出す。
リレーではいつもビリっけつだったし、踊りなんか恥ずかしくてまともに踊れたものじゃなかった。
それに俺は集団に入るのもあまり得意ではない。
ブス顔のせいか気が弱いせいなのか、とにかくいじられキャラだった。そんな俺が集団行動をした時どうなるかはお察しの通りでとにかくハブられた。
だから俺は体育祭が近づく季節がだるかった。
そう、高校一年生の秋になるまでは――。
「近藤くん、よろしくねっ!」
「は、はい」
今、俺の元に信じられない奇跡が訪れている。
体育祭の二人三脚のペア決めが行われたのだが、その相手がなんとクラス一の美少女、広瀬さんだったのだ。
広瀬さんは男子なら誰もが片想いしていると言っても過言ではない、憧れの女子。
美人で、可愛くて、優しい。もはや完全無欠と言ってもいい人だと思う。
そんな彼女と組むなんて夢じゃなかろうか。
でも喜びに打ち震えていた俺は、すぐに正気に返る。
二人三脚で組んだところで何なのだ。たかが互いの足を紐で縛り、肩を組むだけの競技だろう。
いやいや、ちょっと待て。それはつまりかなり密着してしまうということでは?
無理だ。俺のような男がそんなことをしたら、周りからどんな視線を浴びることかわからない。
だがすでに決まってしまったことだ。今更覆せない。
俺は一気に憂鬱な気分になりながら広瀬さんと足を結んだ。
――最高だった。
なんなのだ、あの笑顔。あまりに眩し過ぎて三度も転んでしまったくらい、可愛かった。
俺のすね毛が当たっても文句一つも言わずにやり切ってくれた。むしろ「また明日やろうね」と輝くような笑顔まで残して。
これは好きにならずにはいられないだろう。いくら彼女とは釣り合わないとはわかっていても、平常心でいることはできなかった。
あれほど恨めしく思っていた体育祭に感謝してしまうくらい舞い上がって。
他の男子からどれほど睨まれようとも明日の練習も頑張ろう、などと呑気なことを思ったのだった。
そして本番。
体育祭は見事成功を収め、俺たちは優勝した。
「やったね近藤くん!」
「広瀬さんのおかげですよ。……それで、優勝したら言おうと決めてたことがあるんですけど」
「何?」
「付き合ってください!」
しかし。
「ごめんね。私、彼氏いるんだ」
夢は砕けた。
この日から俺は体育祭のことが大大大嫌いになった。
二度と出てやるもんか。