君のいなくなった城2(クラウド視点)
「ふふっ」と力なく笑う彼女。
体に障るからこれ以上喋らないでほしいと言おうとした。
その時…
「覚えておりますか…?セレスティア王国にお越しになられた時、小さな森に入って魔物に襲われたこと…あの時は怖い思いをさせてごめんなさい…でもあなたと過ごせたあの時間はとても楽しかったです…」
…え
何故彼女がそのことを知っているんだ。
最初に思ったことがそれで、頭をフル回転させてから俺は自分の最大の過ちに気付いた。
…彼女…リーティアが俺の最愛だったのだ…。
それに気づいた瞬間目の前が真っ白になった。
いつの間にか救護班が駆け付け彼女の治療に当たってくれていた。
リーティアが治療を受け自分に割り当てられた部屋で眠っていた時、俺はグルグルとこれまでのことと今後の事を考えていた。
今まで彼女にひどいことをしてきた…とても謝って許されることではない。
謝罪はもちろんするが今後は彼女に最大限尽くそう、今まで蔑ろにした分、いやそれ以上の熱量で大事にしようと心に誓った。
それからの俺は必死だった。
今までのことを挽回したかったのが大きかった。
少しでも挽回したくてリーティアと共に過ごす時間が自然と多くなっていった。
だが彼女は俺と距離を置こうとしているのが手に取る様に分かった。
学院に共に行こうと言った時は「私といては俺に迷惑がかかる」と今まで通り別々の馬車で行くことを勧めてきたし(同じ行先だから1台で抑えてコストを抑えると言って一緒に行くことを納得させたが)同じ馬車に乗ってもリーティアは俺と目を合わせようともしない。
街へ一緒に遊びに行こうと言っても首を縦にふらず、公務の一環で付き合ってほしいと言えば渋々ついてきた。
リーティアに少しでも近づきたくてお茶会の頻度を増やそうとすればリーティアの表情は曇り、「そこまでする必要はない、今まで通りで良い」と言われ(公務関係の話し合いもしたいからと言えばこれまた渋々了承してくれたが)お茶会をしてもリーティアの心からの笑みを見ることができなかった。
嫌われていて当たり前だと分かっているが辛かった。俺に傷つく権利などないのだが。
お茶会のちょっとした会話でも、あぁ…やはり君はあの時の最愛だったのだなの思い知る。
話していても噂のような頭の悪い女ではなく聡明さがにじみ出ていて、リーティアが興味ありそうな話題を振れば彼女本来の好奇心旺盛な性格が目の輝きとなって表に現れる。しかしそれすら隠し決して会話に食いついてこないのが悲しい。
そんな彼女との距離をなんとか縮めようという目的のお茶会が何度かやったある日、いつもの様に中庭でリーティアと共にお茶会をした後、リーティアを部屋まで送った。
いつも部屋まで送れば俺に挨拶を済ませすぐに部屋に入るのだが、その日は何故か俺が見えなくなるまで見送ってくれた。
その事に多少の違和感を感じたが、今日のディナーも誘ったことだし数時間後にまた会うわけだからと、あまり深く考えずに自分の執務室に戻った。
まさかそれがリーティアと最後のお茶会になるとは夢にも思わなかった……。
執務室でデスクワークをこなし今日処理した書類を纏めていた時、ノックの音が響いた。
一瞬リーティアが自ら来てくれたのかという淡い期待を抱いたが、俺の好感度は地の底まで落ちていることで思い直した。
案の定リーティアではなかったのだが、来客の顔を見た時別の意味で驚いた。
「…父上…?」
国王である父上が険しい顔つきで部屋に入ってきた。
その時、衝撃的なことを耳にした。
「リーティアが婚約を解消したい旨を私達に伝え城から出ていった」
「……え?」
「だからお前には日頃から誤解があるようだから話し合えと言ったではないか…確かに最近のお前は彼女に歩み寄ってはいたが…全てが遅すぎたのだよ…」
「…嘘だ…だって先程リーティアと共にディナーする約束を…」
いや…あれは約束というより俺が勝手に取り付けた話だ。
呆然としている俺に父上がそっと何かを渡してきた。
上質な封筒に入った手紙だった。
『クラウド王太子殿下へ
殿下がこの手紙を読むころには、私はこの王宮にいないでしょう。
この様な形でのご挨拶になりまして申し訳ございません。
こちらでは大変お世話になりました。しかし私では王太子妃の大役は務まらないと感じ婚約を辞退させていただきました。
殿下が真に愛する我が妹と結ばれること、殿下の幸せを遠くから願っております。
さようなら。
リーティア』
手紙を持つ手の震えが止まらなかった。
恨みつらみが書かれていてもおかしくない手紙には一切そういったことは書いていない。
だが彼女にはまだ本当に好きだったのは君だと言う事も、今でも君を愛してるということも何も伝えていなかった。彼女を蔑ろにしていた俺は気持ちを伝えることよりも彼女に寄り添うことが必要だと思っていたから。
だが彼女は今でも俺の好きな人はリーティアの妹だと勘違いをさせたままになっていたという結果になってしまった。
手紙にぽたっと水滴が落ちるまで自分が泣いていることに気が付かなかった。
頬をつたう涙は止まることを知らないように流れ、止める術もない。
最後のさようならは深く深く突き刺さった。
……嫌だ
リーティアと別れるなんて嫌だ。
リーティアしか愛せないし番にしたくない。身勝手で我儘なのは承知している。でもリーティアのことを手放すことはできない。
「…父上、リーティアを探す許可を頂けますか?」
「…良かろう。だが私も王妃もリーティアの幸せを願っている。これまで可哀想な想いをさせたからな。だから探す許可は出せども探す手助けは一切せんぞ」
「ありがとうございます」
深々と父上に頭を下げた俺は部屋を出た。
まずは彼女の故郷であるセレスティア王国にいこう。
リーティア、君に伝えたいことがたくさんあるんだ。だから俺にもう一度チャンスをくれないか…?




