王都の噂
「リティ!今日もお薬ありがとうねー」
「はーい、おばあちゃんお大事にねー」
常連客の近所のおばあちゃんにいつもの薬を売って、しばらく世間話に花を咲かせていたら「まぁ!もうこんな時間!」とおばあちゃんが驚きの声をあげながらいそいそと家に帰っていった。
今のおばあちゃんで今日は最後のお客さんね…。
時計を見ながらそう思い店じまいの準備をする。
今日は仕事が終わったら酒場に行こうかなーと考えていた。
私は住居兼店舗のこの建物に鍵をかけ酒場へ向かった。
店に着くとお客さんで既に賑わっていた。
「あ、リティーいらっしゃい。今日は混んでるからカウンター席で良い?」
「うん、いいよー。この時間から混んでるって珍しいね」
私は席に着きながら辺りを見回した。
「そうなのよ、なんでも王都から来た行商人のキャラバンみたいでね。商人の人からそれを護衛する傭兵さんやらでたくさんいるのよ。」
行商人達は旅の道中無事にスムーズに仕事ができるように傭兵を雇いキャラバンを形成して各地を移動している。
キャラバンの大小は様々で、この辺境の町は商業の町なので珍しくもないが、この店に訪れたキャラバンはそれなりの大きさのようだった。
「おおーほんとすごい賑わいだな」
いつの間にか私の隣にダンさんが座っていた。
「王都からきたキャラバンかー、俺はこの町から出たことがないからそういう仕事も憧れるぜ」
そう言いながらビールをあおるダンさん。
「王都も良かったがこの町も中々良いじゃないか」
そう声をかけたのはダンさんの更に隣に座っている男性。
「俺んとこのキャラバンがしばらくお世話になるからよろしくな?」
どうやらこのキャラバンのリーダー格の男性のようだ。
そこからその男性とダンさんが意気投合し、色んな話で盛り上がっていた。私もそこに混ぜてもらい色んな話を聞けた。
「へぇ…ペリル商会っつったら俺でも分かる位の有名な商会じゃないか…てことはまさかペリル男爵様では!?」
話の流れでその男性の素性が分かったところでひえええとダンさんは慌てだした。
ペリル商会は財を成して陞爵した今まさに勢いのある商会…ディラバシア王国の王太子妃教育で覚えた情報を脳内から引っ張り出してきた。
「あーあー貴族だからってそんなにかしこまらないでくれ。俺だって最近まで平民だったんだから」
焦っているダンさんを宥めるペリル男爵。
ペリル男爵は貴族様の様に敬われて扱われるのがどうやら苦手なようだ。
「そりゃ部下達には仕事上最低限の礼儀作法はちゃんとしてほしくて教育はしてるけど、俺はあくまで商会の会長だと思ってるから。男爵の名前はこう言っちゃあなんだが、おまけでしかないからな」
そう言いながらペリル男爵はぐいっとビールを飲みほした。
ビールのおかわりを頼みながら、ペリル男爵は話題を変えようと「そういえばさ」とダンさんに王都であったことを話し出した。
「王都ではある噂が出回ってるんだが。なんでも王族…というか王太子殿下が救国の聖女を探しているらしい。」
その言葉に一瞬変な声が出そうになったがあくまでへええと聞くスタンスを保つことが出来たと思う。
「救国の聖女…?確かその人って王太子殿下の婚約者の令嬢だったよな?」
どうやら辺境のこの町にはざっくりとした情報しか入っていないのか、ダンさんがよく分からないような顔をしている。
「あぁ…なんでもその救国の聖女ってのは隣国の王女殿下で最初王都ではかなりの悪女っていう噂が流れてたんだけど、それが全くのデマらしくてな?寧ろ王太子殿下を悪魔族の攻撃から身を挺して守った優しく強いお姫様だったというので救国の聖女って貴族の間や王都では呼ばれ出したらしいんだが…」
「へぇ…そんな方が王太子殿下の婚約者様ならこの国も安泰だな!」
ペリル男爵の言葉にニコニコしながらダンさんが頷く。
「まぁ待て…その話には続きがあるんだよ…だがな今までその婚約者様を王太子殿下をはじめ方々で蔑ろにしてたことでその婚約者様が失踪したんだと」
「えぇ…ってことは王太子殿下はそのデマの話を鵜呑みにしてたってことか……ん、婚約者様って隣国の王女様なんだろ?そんな王女様を蔑ろにしてたって外交問題に発展するんじゃないのか…?」
「そこまで詳しくは分からんが…今のとこ問題は大事になっていないらしい。…とは言え近々セレスティア王国の国王陛下と王太子殿下がこちらの国に来られるってことで今後どうなるか分からないな…一部の貴族の間では外交問題に発展すんのは時間の問題じゃないか…って話も出てるらしい。」
ペリル男爵とダンさんが深刻な顔をしながらつまみをチビチビ食べていた。
私も私でジュースを飲みながらペリル男爵の話を頭の中でどうにか整理しようとしてた。
(色々とツッコミどころ満載だけど、まず第一に何故ディラバシアの王太子殿下が私を探しているのか…私が彼ならこれ幸いと野放しにするけど…そもそも確かに私が妹虐めの悪女だなんて事実無根な噂が王都で流れてたけど、そんなデマを鵜呑みにしたなんて王家にとってマイナスなことが噂として出回るのかしら…?)
どの国でもそうだが王家が自国の貴族または諸外国に隙を見せることは致命的だ。
少なくともマイナスな部分は隠ぺいするなりするはずだし、ましてや当事者の私が不在なのだ。隠すことも造作もないはずなのに…何故か王太子殿下がデマに振り回されたということも他貴族の耳に入っている。
今回のペリル男爵の話が良い例だ。
それに何より今回私がクラウド殿下を助けたことで婚約ほどの結びつきはないが両国の結びつきは強固な物になったと思う。
この結びつきはセレスティア王国が何より望んだことだから果たして外交問題にまで発展するかどうか…という疑問だ。
私自身、自国での存在価値はたかが知れていた。それこそ王太子殿下である兄や妹から比べれば私の価値等塵のようなものだろう。
婚約が解消になったことを私が責められることはあるだろうが、ディラバシア側との関係を悪化させるほどことではない。
悶々と考えながら私もちびちびと料理を食べていた。




