嬉しい報告はディナーの後で
今日は店の看板をクローズにしたまま、テーブルに突っ伏していた。
昨日あんな話を聞いたからか、今日は誰かと会うのが億劫になっていた。
この国の王太子殿下が婚約者を探しているーーーー
いや、『元』婚約者だし!!と脳内でツッコむ。
もう彼とはなんの関係もない。
この町に来てはじめて祖国やこの国の王宮では味わえなかった人の温かみを感じることができるようになったのだ。
いずれはこの国から出る予定だ。だがこの国から出るまではこの町で過ごしたい。
少なくともあの王宮へ戻るのはごめんだ。もちろん祖国へ帰りたくもない。
絶対にクラウド殿下や父、兄から逃げ切り、この国から脱出してやる!!と決意を新たにした。
カランカラン…
酒場のドアを開けると聞き慣れたベルの音が辺りに響く。
「あっ!リティ、いらっしゃい」
サナが綺麗な笑顔を浮かべて私を出迎えてくれた。
私は席に着き、早速オムライスを注文する。
「ふふっリティはオムライス好きね?」
私の注文を聞き終えたサナは厨房へ取った注文を伝えに行く。
「あっそうだリティ、後でリティに話したいことがあるの。仕事落ち着いたらまたリティのテーブルに来るからそれまで待っててくれる?」
「話?わかったー、んじゃゆっくりオムライス食べてるね」
私はサナの言葉を聞き、とろふわのオムライスを堪能してた。
それから一時間後、サナは「おまたせーーごめん!」と申し訳なさそうに謝りながら私の向かいに座った。
「んー、いいよーサナの奢りでパフェご馳走なってたし」
サナが私をただ待たせるのが申し訳ないとイチゴのパフェを奢ってくれたのだ。美味しい。
「もうリティったら、美味しいものに釣られて知らない人に着いていったらだめよ?」
「ちょっと!いくら何でも流石にそれはないわよ!」
どうだか?とわざとらしく首を傾げる姿も可愛らしい。
「それで話って何よ?」
サナの話が重要な話に思えて思わず真面目な顔になってしまった。
「あのね、私結婚することが決まったの」
「ええええええええ」
思わずあげた大声でお客さんの何人かが私の方をびっくりした顔で見ている。
「ちょっと!あんまり大きな声出さないで!!」とサナから叱られ「ごめん…」と私も声を落とす。
びっくりしていたお客さんはようやく思い思いにお酒を飲み始めた。
「…で、相手は誰なのよ?」
「…ジャンさん」
いつだったか仕事中に怪我をしたジャンさんか!!
「へえええ!そうなのね、馴れ初めは?」
「ジャンさん前に怪我したでしょ?その後ダンさんからジャンさんが検査入院するっていうから心配になってお見舞いに行ったの。
お見舞い行ってから色々話が弾んじゃって」
その後ジャンさんが退院してからもサナが色々看病していたらしい。
サナは私に対してもそうだったけど面倒見が良かったが、それ抜きにしてもジャンさんのことが気になっていたのだろう。
そこから結婚してくださいとジャンさんにプロポーズされたのだとか…と言うかお付き合いはすっ飛ばしたのか。
「ふふっそれがね、本当は結婚を前提にお付き合いしてくれって言おうとしたらしいんだけど緊張のあまり間違えてプロポーズしたらしいのよ、可愛いわよね」
その時のことを思い出したのかクスクス笑うサナ。
「まぁ私もなんとなくこの人にピンときてたからプロポーズも受け入れたのだけど」
そう話してくれたサナは一段と綺麗に見えた。
「ねぇリティ、私が結婚決まったからこう言う訳ではないのだけど、私はリティに出来ればこの町で結婚してずっとこの町で暮らしていってほしいなって思ってるの。
ダンさんとも前話したことがあるんだけど、リティってずっとこの町で暮らしていく感じではなさそうよねって。まぁリティの幸せが一番だけど」
確かにいずれかこの国を出ようと思ってはいた。
それがなんとなくサナも気付いたのだろう。
私もこの町は居心地が良いし、できればずっとこの町で暮らしていきたいとも思ったことがある。
だがディラバシア王国の国王夫妻にもこの国からその内出ると公言したし、クラウド殿下が私を探しているとなるとここにずっといる訳にもいかない。
私の幸せを願っているサナに感謝とここにずっといてほしいという願いは聞き入れることが出来ない申し訳なさで何も言えないでいた。
そして私のそんな平穏な日常を崩す出来事が起こることを今の私が知る由もなかった。




