平穏な日常
辺りは薄暗くなり始め、日が傾きかけている。
昼賑わっていたバザーは店じまいし、建ち並ぶ店も閉店作業に追われている。
かくいう私も最後の客に手を振り、客が店を出たのを確認し店じまいの準備をする。
ここは都市というには小さいが村というには賑わいのある町、トコロコ町。
辺境に近いこの町はバザーや商人の町としてそれなりに賑わっていた。
もっと国境寄りに行けば砦があり物々しい雰囲気があるが、そこを抜けしばらく進めばこのトコロコ町に到着する。
検問を通過した冒険者や入国してきた人間が最初に訪れる町ということで商業の町として発展してきた歴史があった。
ここディラバシア王国の玄関口の一つなのだ。
私がこの町に来て半年が経とうとしている。
この町に来てから薬屋を始め、はじめての1人暮らし。
町で生活する上でこの町のルールを覚え、近隣住人とも打ち解け、ようやくこの町の生活も慣れて最近は最初の様なドタバタ感がなくなり落ち着いてきたような気がする。
怒涛な日々だったが、この忙しさも私にとってある意味良かったかもしれない。
余計な事を考えずに済むから。
「さーてと!夕ご飯でも食べに行こうかな!」
今日は近所の酒場に夕飯を食べに行く日だ。
仲良くなった給仕のサナが「リティがちゃんと食べてるか心配になるからたまに食べに来て!!」と言ってくれたので週一くらいのペースで顔を出す様にしている。
ここにきた頃サナには本当にお世話になった。
何も知らない私に色々と教えてくれて、薬屋も始めたてでまだ生活に慣れてない頃ご馳走になったりもした。
私の店兼住宅からほど近い酒場のドアを開ければ、サナが「リティ、いらっしゃい!」と綺麗な笑顔で声をかけてくれた。
サナは綺麗でお客さんの話も聞き上手で人気があるから、最初の頃、この店の常連客がサナはこの店の看板娘だと教えてくれた。
「もう!私は看板娘って言われるほど若くはないわよ!」
聞けば私より2つ年上の20歳らしい。同じくらいの年ごろだろうと思っていたがしっかりしていて面倒見が良いお姉さんの様だと感じていた。
「リティ、空いてる席に座って良いわよ」
その言葉に頷いた私は空いてる席を探しだした。
「お、リティじゃん」
「あれ?ダンさん?」
私に声をかけてきたのは大工のダンさんだ。
大工仲間2人を連れて飲んでいたようだ。その2人もこの店の常連客で私も顔見知りの人物だった。
「ジャンさんにピーターさんも!こんばんは!お仕事お疲れ様です」
私は笑顔で挨拶をしダンさん達のテーブルの近くに腰を掛けた。
「おう、お前もお疲れさん!どうよ?今日の売り上げは」
「まぁぼちぼちですね」
「お前、薬の知識豊富なんだからさ、商品増やせばもっと儲かるのにもったいないな」
「程々で良いんですよ。それなりの生活ができれば」
「相変わらず欲がないねぇ」
そんな会話をしながらサナにオーダーを頼む。
私はここではよくオムライスを頼んでいる。
ダンさんの話は本当で私にはそれなりに薬の知識があると自負しているが、商品を増やすことは全然考えていない。
それなりに傷薬やポーションを調合し店頭に置いていて、儲けを考えればもっと手広く色んな商品を置くべきなのだが、店を繁盛させることは考えていない。寧ろ繁盛させて知名度を上げたくないのだ。
私は目立たずそれなりの生活をしていきたい。
私の言いたいことをなんとなく察したダンさんはこれ以上何も言ってこなくなった。
私の身の上話はサナをはじめ、ダンさん達も親しい人はみんな知っているからだ。
私はここではない他国の名門貴族の出で、落ちこぼれ故勘当されてこの国に流れ着いた
…という話になっている。
流石に本当の話はできない。色々と。
それにあながち全部が嘘でもない。本当のことも言っていないが。
まぁどちらにしてもあまり良い話ではないから深くはみんなに話していない。
みんなも私が話したがらないのを察して深くは聞いてこなかった。
みんなのその優しさが私には有難かったし救われた。
「はい!オムライスだよー」
サナが私のテーブルにオムライスを置いた。と同時に私の向かいに座った。
サナはよくある程度客をさばき切ったら私の話し相手になってくれる。
「前も言ったけどこの町ってさ旅人とか冒険者も多いしリティみたいにふらっと来て定住する人も珍しくないの。色んな人がいるけどさ、私はリティには今みたいにのびのびと楽しく生活してくれればそれで良いと思ってるよ?」
「ありがとう」
サナの穏やかな声で私も笑顔になる。
「そうだぜ、サナの言う通りだ」と言いながらダンさんは私の頭をぐりぐりと撫でまわす。
年の離れた兄の様なダンさん達や姉のような親友のようなサナの存在が私の寂しさや悲しみを癒してくれた。




