その一 JKよ、学校帰りには気を付けよう
2022/8/1 サブタイトルをわかり易くしました
お読みいただきありがとうございます。
アルビーナである道成寺あぐりは、長期入院で足りない出席日数にために夏休み中でも学校に毎日補習に出ているという始まりとなります。
「か~のじょ!乗ってかない?」
はすっぱな若い男の声が後ろから響いた。
補習帰りの制服姿の私は誰が見ても女子高生というカテゴリのため、田舎においては異性から声をかけられる存在である。
いや、いけないことを目的にした、車に引き込んでやろうという獲物か?
さて、田舎のヤンキーに対しては、礼儀正しく、が一番の防衛策である。
てめえの親戚筋かもしれねえぞ?そう彼らに思わせることと、あるいは、自分を馬鹿にしない女の子には酷いことはできない、そんな騎士道精神を彼らの中に目覚めさせることになるからかもしれない。
よって、彼等のハコ車に乗せられそうになった時は、笑顔で、ご親切にどうも、私の家はあそこですから、と適当な家を指し示して逃げるのが一番だ。
だがいちいち面倒なことだよ、田舎のヤンキーめ、と私は苛立ちながらも自分に迫ってきたエンジン音に対して振り返った。
「うわ。バリ外車!」
私の横にむかって徐行してきた車は、銀色に輝くボディを持つ、メルセデスなコンバーチブルであったのだ。
そのコンバーチブルは、私の横に並ぶや静かに停車して、これ見よがしにホロを開け始めた。
私はこの炎天下の中でホロが開ききるまで待つ義理も無く、そのまま自宅に向かって足を早めた。
田舎ヤンキーじゃないのならば、対処法がそもそも違う!
逃げ一択だ。
「ちょっと!」
「うるせえよ。真夏の太陽の中、二十秒も待って突っ立っていられるか。女をナンパしたけりゃホロを開けながら停車しろよ。」
振り返って言い返した私に対し、運転席の男は不貞腐れた顔を向けた。
短気は損気。
振り返るんじゃなかった、と、一瞬で後悔した。
運転手は知らない奴だが知っている奴だった。
焼き過ぎて異国の人と間違えそうなぐらいな小麦色の肌に、抜き過ぎて白髪になったマッシュカットの短髪、そして、シベリアンハスキーみたいな青い目のイケメンと来れば、彼の身の上なんか聞かずともわかるだろう。
奴は、私がアルビーナだった世界にて雹を降らせられる悪魔の器だった公爵、アレクサンダー・フィッツェンハーゲンに違いないのだ。
私がアルビーナではなく道成寺あぐりとしてこっちの世界で生き直しているように、彼が誰として生き直しているのかは知らないが。
彼は再び私の真横にまで車を動かして停車させたが、私の方は自分の人生にこれ以上の混乱は不要だと思い、再び踵を返そうとした。
すると、そのいかにもナンパそうな若者は、彼の右隣り助手席の相方の肩を叩いたのである。
「君は趣味悪いよ。」
助手席に座る茶髪の男は運転手である相方に何かを答えるどころか、口元を右手で押さえている、という情況であった。
しかし、礼儀正しい性分なのか、彼はほんの少し上目遣いで私を見返した。
そのうえ、真っ青な顔をして具合が悪そうなのに、私に向けてほんの少しだけ頭を上下させたのだ。
この真面目過ぎる行動と、日本人設定だろうに緑色の瞳のままだというのは関係があるのだろうか。
「ディートヘルム。風が体感できるオープンカーなのに酔っているのか?」
「うん。そう。日本の気候と渋滞にオープンカーは選択ミスだったみたい。取りあえず君んちに行っていい?乗せてあげるから。」
応えたのはディートヘルムではなく、フィッツェンハーゲンだった。
私としては具合の悪そうなディートヘルム一人だったら、歩いて数分の距離にある自宅に案内してやるのもやぶさかでは無い。
問題はウチに来たいと言ったフィッツェンハーゲンである。
アルビーナ時代でも面識がなく、フィッツェンハーゲンの顔を見たのはディートヘルムが私にみせた幻術の中での一コマという状況だったのだ。
つまり、フィッツェンハーゲンの人となりが分からない点で、私の中ではバールと同じ方にフィッツェンハーゲンを振り分けている。
触るな危険ってやつだ。
ではどうしてディートヘルムには信頼はあるのか、という点だが、アルビーナの最期の最後に対して、彼は私の大事なオスカーとカイを守るという約束、をしてくれたからである。
「ほら、乗って。」
「コンバーチブルはツーシーターだろうが。酔ってるディートヘルムを下ろしな。彼は私が引き取るから、君は適当な所に行けばいい。」
「うわ。離間工作をさっそく仕掛けてきやがった。俺達は君要素が足りないからって、わざわざ東京から君に会いに来ただけの迷える子羊だってのに。」
「わたしに?君とは面識がないぞ!」
「直はね。ほら、俺達二人は酷い状態でベットにインという状況だったじゃない?そんな辛く長い日々の中で、俺達の心を癒してくれるのが、君という存在であり、君の姿だったんだよ。」
二人は水系魔女によって体内の循環器系が壊されてしまい、浸出液で出来た水こぶが全身のいたるところで出来、腹は腹水で餓鬼のようになっているという、酷い症状に苦しむことになっていたのであった。
彼らは悪魔の器となった人間だからこそ、魔法を使えるだけの人間と違い、よっぽどの物理的ダメージを受けなければ死ぬことも出来ないのである。
その時のディートヘルムの痛々しい姿が思い出され、私はこの世界に目覚めてすぐの自分の動けなかった体の痛みやそれによる不安までも脳裏に蘇っていた。
そこで、同じような体の辛さを経験した同志として、少々だけフィッツェンハーゲンに対して好意的な気持が私に芽生えた。
「そう。そうね。あの状況は辛かったわよね。私を希望にしてくれた事は光栄だって喜ぶべきかしらね。」
「ハハハ。そう。せっかくのいい場面でマスがかけなくて辛かった。」
「てめえ!お前が見ていた私の姿ってなんじゃそりゃ!」
フィッツェンハーゲンはにやっと笑って、左手の親指と人差し指で作った輪っかに右手のひとさし指を突っ込んだ。
オスカーとの夜のあれこれを覗いていたって事か!
うわあ!助手席のディートヘルムは耳を真っ赤にしてそっぽを向いている!!
私は足を振り上げてコンバーチブルを蹴り上げようとしたが、そんな私は後ろから羽交い絞めにされて車から後退させられた。
誰だ!




