久しぶりの魔都ミザナ
お読みいただきありがとうございます。
第三章です。
ここから恋愛重視に行けたらいいなと思っています。
四年ぶりの男の子達はみんな格好良くなっている。
第一弾は柴犬君。十九歳になりました。
結婚式の準備で忙しいはずの私は、再び王の命令で魔都に来ていた。
実に四年ぶりの魔都だ。
侯爵になった私が、なぜ魔都に四年も来なかったのか。
四年前の処刑を思い出したくないから?
それもあるが、もっと必然的な理由だ。
この世界は魔力の大きさが身分に関係しているが、世界がスチームパンクな時代設定であるならば、男尊女卑がまかり通る世界なのである。
つまり、私は、名ばかり侯爵というわけだ。
そして、侯爵代理にできたはずのアロイスを幽閉の刑にしてしまったので、議会出席などが出来なくなった。
その結果として、私は国への職務放棄と見做されてペナルティを受ける状況となる予定だったのである。
ハハハ、私って先見の明があるよな。
王が私に勝手な婚姻の禁止を唱える前に、私はジャンとの婚約発表をしていた。
よって、私の婚約者になったジャンに、私の侯爵としての義務を被せてしまうことが可能となったのである。
侯爵が必ず参加しなければならない議会仕事等々は、今や全部ジャンが担ってくれているのだ。
そして、ジャンは柴犬属性の為に考えが浅いように見えるが、柴犬が実は物凄く賢い犬であるのと同じ、ジャンは物凄く賢い人なのであるからして、ぜんぶを任せ切ってしまってオッケーだ。
だが、不安材料は確実にあった。
私は十六人の処刑を行った女として、魔人にも人間にも殺戮大好き女として認識されて嫌われている。
ジャンはそんな女の元奴隷で婚約者、だよ?
ジャンに任せるしかない状況でも、彼がそのせいで不要な嫌がらせや危険を背負いそうで、私は心配で堪らなかった。
そこで私は執事コンラート様に占ってもらったのである。
彼は大丈夫?
コンラートは幻術で作ったモニターで、私にジャンの未来図を見せてくれた。
有力な貴族に息子みたいに可愛がられ、婦人達からは、可愛いペットみたいにして持て囃される、そんな未来映像を。
「どうして!」
「嫌われ者のあなたに束縛されている、というそこに同情でしょうか。」
「同情票か!」
「それだけではありません。彼には空気を読まない度胸と短気さがありますし、外見はとにかく可愛らしいですからね。」
それって、ジャンがまんま柴犬ってことか!
と、とにかく、コンラートこそジャンに逆上せているのならば大丈夫だろう。
私はそう自分に言い聞かせ、凄く嫌でも、ジャンを魔都の議会に送り出す決断をしたのである。
だかしかし、コンラートの予知は正確だった。
今では彼を魔都に送り出すたびに、彼の浮気を心配してしまう程に、ジャンは魔都では人気者の青年となってしまわれたのである!
新聞の社交欄は、ジャンを褒め称える記事で埋まっているよ!
だから、今回の王からの呼び出しは、私には好都合だった。
二ヶ月先、私というかアルビーナの誕生日が七月二十八日であるのだが、その結婚式の準備がはかどらないどころか、議会が休止に次ぐ休止で予算案が決まらずにジャンが領地に戻って来ない、そんな事態でもあったからだ。
でも、初めて実際に見たジャンの人気っぷりに、私は安心どころか気持ちがささくれ立つばかりであった。
私はカフェのガラス越しの目の前で展開される、ジャンと彼を囲む貴婦人達の談笑を、ウンザリした気持ちで延々と眺めているしかないのである。
待ち合わせは議員会館の前のカフェであるが、貴婦人に囲まれたジャンは会館の門の前から動く事が出来ないようなのだ。
時々私のいる方へと目線を動かしているが、私はジャンが私と同じ嫌われ者になって欲しくないから助けに行くことは無い。
「自分で逃げて来なさいよ。」
あ、本音の方が口に出ちゃった。
昔からモテる子だけれど、全く、年々信奉者ばかり増えるってどういうこと?
私は恨みがましい目で婚約者を眺めた。
くそ格好いい。
グレーのスーツが何て似合うの!
婚約者の素晴らしい姿に、私は苛立ちを忘れて目尻が下がるばかりだ。
だって、ジャンは空色のスカーフを恰好良く首に巻いているが、それは私が彼の誕生日に贈ったものだもの。
あなたってなんて空色が似合う人なの!
貴族の生活をさせられる事になったことで、ジャンは必然的に室内活動が多くなり、小麦色の肌は生まれついての色白なものに変わった。
また、従僕を付けた事で、髪や肌の手入れが為されるようになり、くすんだ金髪はアッシュブロンドといえる艶のあるものに変わり、顔立ちが一番よく見える長さに切りそろえられてまとめられてもいる。
つまり、凄く可愛かった元気少年が、誰から見ても凄く格好良くて洗練された大人の男性になっているって事だ。
大きくなると思った身長が百七十五とあんまり伸びなかったが、そこは柴犬属性だから仕方が無いと私は思っている。
いや、百七十五という身長だからか、十九歳の今でも線が細い美青年の容貌を維持できているに違いない。
「こんなにモテて!おかしなちょっかいに乗ってはいないだろうな。」
「そこは大丈夫だと思いますよ。」
私の上に懐かしい声が落ち、私は声がした方を見上げた。
私が座る席の脇、カフェの通路に懐かしき大男が笑顔で立っていたのだ。