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押し付けて引き金を引く

 私は身を乗り出す格好で、対面に座るバール少佐を見つめていた。

 余裕ばかりに見えると良いなと思いながら、初めて出会った強敵に弱みを見せまいと頑張っていたのである。


「私があなたを信用できる手札をあなたは持っていらっしゃって?」


「あなたの発言を当局に知らせない、それこそでしょう?」


「まあ!私は何か言いましたかしら?ねえ?」


 ジャンは私を庇うどころか、すでにバールに対して殺気を向けている。

 ウッツは、何も聞いていないという風に、自分の上司に対して必死に首を横に振って無言の訂正を続けていた。


 二人の行動のせいで、私に失言があったって丸わかりだから。

 全くウッツもジャンも嘘がつけない人達だなあ。

 二人とも犬系だからか?


「ハハハ。ウッツはいい男でしょう。彼をあなたに付けたのは、彼には人を見る目があるからですよ。生まれながらにしてのガードドッグだ。」


 上司からも犬認定だったか。

 ウッツはようやく自分が否定どころか肯定の行動を取ってしまっていたと気が付いたようで、がっくりと、それはもうがっくりと首を下げた。

 バールは気さくな笑い声をあげると、私に向かって手を差し出した。


「返してください。もう安全でしょう。」


 私はすでに脱いで放ってある外套を指さした。

 バールは部屋の隅で適当に丸められた外套を見返して、くすっと笑い、ソファから立ち上がって外套へと歩きだした。

 私は彼の動作をぼんやりと眺めながら、妙に彼の足元がキラキラしているなと思った。


 きらきら?


「どんな事態になっても、あなたは撃ってはいけません。私はそう望みます。」


 撃ってはいけないと念押しをしていたのは?

 ウッツが知らなかったこの部屋を知っていたのは!


「そうか!魔法の糸か!お前は術者だったんだな!」


「やだ~いまさら~。この世界で昇進するには魔法力が大なり小なり必要ですって、子供でも知っていることじゃ無いですか。」


「そうだな。魔法力が大きい奴に媚びへつらうのもな。」


 私の言葉を合図にしたようにして、ジャンとウッツが同時に立ち上がった。

 ウッツはいつでも銃を抜けるようにホルスターのある腰に手を当てているが、私のジャンは、自分が裸だったと気が付いて慌てていた。


 かわいい、けど、このまぬけ!


 だが、この状態で良かったのだ。

 部屋の扉が再び開き、喜色満面の我が叔父が室内に入って来たのだ。


 入って来ただけじゃない。

 熱波を室内に放ち、私はその熱波に抵抗する熱波を放った。


 どおおん。


 押し合いをした運動の力は、逃げ場所を求めて天井を破った。

 今や私は、守るべき人達を後ろにして、叔父を前にして立っている。


 アロイスを老けさせただけの外見の男は、死んだ我が父よりも恰幅があり、実は我が父よりも威厳に満ちて見えるという姿であった。


 亡くなった父は外見に拘らなかっただけで、魔力は叔父とは比べ物にならないものだったのだけど。


「アルビーナ下がって。」

「アルビーナ様!」


「黙れ!ここからは当主の親族会議の時間だ。私がこんなヨワヨワなジジイに負けると思ってんのかよ?」


 後ろを向かずに罵倒した後、私は叔父であるブルーノを睨んだ。

 腕を組み顎をあげて、小馬鹿にしたように笑ってやる。


「濡れ衣どころか、やっぱお前かよ。出来損ないの息子の為に担がれて、ジジイなのに大忙しとは大変ですなあ。」


 逃亡中に受けた大爆発は、アロイスには到底出来ない火炎魔法だ。

 そして私の生意気な言葉を受けたブルーノは、苛立って見せるどころか嬉しそうに顔を歪めた。


 それは、バール少佐がブルーノの元にはせ参じたからであろう。

 バール少佐の目的は、ブルーノに私に貸していた小型の拳銃を手渡す事。

 私の指紋が付いている、私がバールから借りたと目撃者多数の銃だ。


 恐らくも何も、私が叔父を殺そうとしたから私を処分した、そういう筋書きだったのだろう。

 銃を私がバール少佐から借りなくとも、死んだ後に握らせたりもできる。

 その場合は目撃者はいないが、最初から私の銃だと言い切れば良い。


「どんな事態になっても、あなたは撃ってはいけません。私はそう望みます。」


 !!


「糞が!そういうことか!」


「ハハハ。命乞いは無いのか?クソガキが!」


 完全に悦に入っている様子で、ブルーノは私にその拳銃を向けた。

 銃口は私を暗く見つめている。


「お前の脳天を砕くのはわしの夢だったんだ。」


「夢は寝て見るもんだ。叔父貴どの。」


 ブルーノは引き金を引き、室内に小爆発が起きた。

 猫のような笑みを見せる男は、嬉しそうに身を屈めると私の肩を抱き、私の耳にどうしようもない事を囁いた。


「媚びへつらうなら、女王様に、の方がいい。」


「変態が!」

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