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黒幕

 外の爆発はとっても大きなものだった。

 私達の部屋の窓がぴしぴしと爆風の影響を受けて軋み、窓の外では悲鳴と怒号が第二の爆音のように巻き起こっていた。


 ウッツは先ほどと同じくフォークを持つ姿勢のまま、私をまじまじと見つめ返している。

 私は再び笑顔をウッツに返した。

 それから、右手で大人の顔サイズの楕円を描くように宙をなぞった。


 ウッツはフォークを落とした。


 ホテル前には武装をした兵士がひしめき、ホテルエントランスからは次々とホテル客が兵士達に誘導されて避難をしている。


「その映像は、あなたの本当の予約があったあのホテル、ですよね。」


「そうね。」


 私が描いた楕円の映像は上空の方へと動いて、ホテルの最上階が爆発し燃えている状況を映し出した。


「どうして!私達は何度もあなたの部屋の確認をしていました!」


「そうね。」


 私は自分が作った楕円のモニターを眺めていた。

 すると、私の左肩に温かくて大きな手が触れた。

 それと同時に、その手を払うようにして私の左側に圧がかかった。

 ウッツが私の肩に右手で触れ、そのすぐ後にウッツの手を払ったジャンが私の横に座ったという事だ。


「私が守ります。」


「アルビーナ様は何もしなくていいです。俺が全部やります。」


 同時に喋った男達の台詞違いに、私はクスッと笑っていた。

 そして、やっぱり私を理解しているのはジャンなんだと思った。


 ウッツが私の肩に触れたのは、私がぶるっと震えたからだ。

 でも、私が震えたのは、とうとう人殺しを自分が行う事になるのかもしれないという、覚悟なんか出来ないのに覚悟する時が来たと感じたからにすぎない。


 今度こそ覚悟を決めなきゃいけない。


 今までだって、従兄の手の者が私達を襲ってきた。

 それらに立ち向かい、殲滅したのは、ジャン、だった。

 ジャンは十五歳にして、たくさんの人をその手にかけている、のだ。


 私の為に。


 だから私こそ、やる、しかない。

 私は信頼できる二人の顔を交互に眺め、女王様の笑みを浮かべた。

 そう見えるといいなと思いながら、笑顔を見せていた。


「状況は私が想定する筋書き通りです。あとはラスボスを倒すだけ。ハンター?そいつらは単なる烏合の衆。自分達を指揮していたのが自分達が殺したかった魔人そのものだと知れば、しばらくは大人しくなりましょう。」


「では、アルビーナ様。あなたは黒幕がどなたかお分かりで?」


 私は、ウハハハハと笑い声をあげた。

 小説通りの悪役に見えればいいと思いながら。

 ジャンだって私一筋で無くなればいいと思いながら。


 だって話が進めばね、私と一緒にいれば悪役決定だよ?

 救世主様に一網打尽にされるんだよ?


 私はジャンにも、そして今日出会ったばかりのウッツにも、自分と一緒に死んでほしくなんかない。

 うそだ。

 最後まで一緒にいて欲しいと望んでいるからこそ、私が生きているのに死んでしまうなんてことになって欲しくないのだ。


「アルビーナ様?黒幕はどなたです!」

「アルビーナ?答えて!黒幕を俺が殺るから!」


「知らねえよ、黒幕なんざ。そんなん作ればいいって話だ。それで大々的に発表してやるんだよ。今までの殺しは、ぜーんぶ、カンターレ侯爵位を狙ったブルーノとアロイス親子の狂言だったとな!」


 ウッツは目玉が零れそうなぐらいに目を瞠り、私の横のジャンは、ああ!と叫んで両手に顔を埋めた。


「悪役じゃないですか。」


 悪役だよ、私はな。


 ぱちぱちぱち。


 気の抜けた拍手の音が室内に響いた。

 部屋の戸口にはエドガー・バール少佐が笑みを浮かべて立っていた。


 彼は軍人のきびきびした動作どころか、音も立てないで動く猫みたいにすうっと私達の座るソファに歩いてきた。

 それから野良猫がするように、当たり前のようにしてテーブルの上に並ぶ皿からカナッペを一つ取り上げた。

 アボガトといくらが乗っている、目にも綺麗な逸品である。


「お座りなさいな。バール。」


 わざと敬称ともなる階級名をつけなかった。

 けれど彼は私の行為に対して、さらに嬉しそうに笑みを作り、子供みたいにしてぺろっとカナッペを平らげた。

 それから部下であるウッツの横に無理矢理に腰を下ろすと、本部では見せなかった一面、足を組んで座るという行儀の悪さを見せつけてきた。


「バール?」


「私は数分前のあなたに会いたい。あんな悪女を見せて頂けるのならば、私はあなたを守る騎士になるとお約束しましょう。」


「あら、いやだ。おふざけは腹を割って話せる相手にだけですわ。私のジャンは、私には今も昔も大事な人。今日出会ったばかりでも、ウッツさんは命を懸けて下さりました。でも、あなたは?」


「信用できませんと?」


 バールは気分を害するどころか嬉しそうにして身を乗り出し、私も彼に向かって少しだけ体を伸ばした。


 彼は犬じゃない。


 それでも、威嚇行為には逃げちゃいけない、でしょ?


 バール少佐とのやり取りの結果は、私どころかジャンとウッツの生存権だってかかっているのだから!



お読みいただきありがとうございます。

ここ二話ほど、投稿するとブックマークが剥がれる呪いに掛かっています。

心折れそうです。

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