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私はアメドラが好きでした

 その後は現場の後始末など一切せずに、現場から私達は逃げ出した。

 ウッツも報告を上司にするどころか、私の警護の方が大事と私とジャンにシッカリとついて来たので、ジャンの機嫌が悪くなるばかりだ。


 それでもその後は妨害も無く、私達は無事にホテルに辿り着く事はできた。

 だが、ホテルの受付で鍵を受け取ったにもかかわらず、私は真っ直ぐに自分の部屋に向かわなかった。

 まだ危険は残っていると想定して、非常口から二人を連れて出ると、隣りのホテルに用意していた部屋の方に向かったのである。


 もちろん、すでにチェックインもしてあるので、受付を通らないどころかやっぱり非常口から侵入という入館方法だ。


 念には念をいれなきゃ、ねえ?


 ジャンは私のする事に慣れているので何も言わないが、ウッツは私の機転が素晴らしいと非常に褒め称えてきた。

 いや、なに。

 アメドラや映画では、狙われた主人公が部屋交換とかよくやってたからさ。


「こんなに小さいのに!」


「小さい言うな!」


 すると、ウッツは私の手を両手で包むように握った。

 オイオイ、さらにジャンの機嫌を悪くさせるのが目的か?


「素晴らしきアルビーナ様!お願いがあります。」


「う、ううむ?」


「私はオスカー・ウッツが本名です。あなたにはオスカーと呼んで頂きたい。」


「ええと。」


 それは嬉しいけれど、ほんと、無理。

 完全に切れている柴犬が私を睨んでいるんだよ!


「ええと。最高のお申し出だと思うわ。でも、それはあなたをお仕事から逸脱させる行為だと思うの。あなたは私の警護というお仕事中。だから、お仕事が関係のない時にお会いした時には、あなたをお名前で呼ばせていただくわ。」


 うわっ、ウッツが照れたようにして笑った。

 武骨な顔立ちが一瞬で柔らかいものになり、初対面で感じた素敵度がさらに上昇して、とっても素敵な男の人の表情になっていた。


「何を見惚れているんだよ。」


 とうとう切れている柴犬が怒りをあらわにした。

 ジャンは自分の肩で私の肩をとんと打ち、そのまんま部屋のシャワールームへと消えてしまったのである。


 全く!


「すいません。ふふ。私は不細工で有名ですからね。こうして好意的に接していただけた上に、私を巡って焼餅を焼く人がいるって事が楽しくて。子供相手に何をしていると思うでしょう?」


「あなたはそうやって場を和ませようとしてくれるんですね。ふふ、本当はおモテになるくせに!嘘ばかり。」


 あら?真顔になって私を見つめてくるじゃないか。

 それから彼はゆっくりと首を振り、今度は自虐的な笑みを顔に浮かべた。

 保健所に取り残された犬のような顔だ。


 私は謙遜しすぎるウッツに、そうじゃないわ、と言ってあげる事が面倒になって、疲れていることもあるし、ドカッと適当なソファに身を沈めた。

 ウッツは急ともいえる私の振る舞いの変化に目を丸くしており、私はそんなウッツに疲れもあったからか酷い物言いをぶつけていた。


「あ~あ、七面倒くせえ。」


「あの。」


「どうなさったの?自分がモテないのは本当だ、そんな話をまだ続けたい?自分は不細工です?そう見えるのは鏡が歪んでいるのでは?あなたの顔は精悍で惚れ惚れするぐらいにいい男なのよ?全く。ハハっ!どんな女ばっかりだったんだよ。最低か?」


 ウンザリすると私は地が出る。

 ジャンはそんな私こそ大好きらしいが、さて、この御人はどうなのか。

 目を丸くして数秒私を見つめていたウッツは、シャボン玉が弾けるみたいにして大笑いをし始めた。


「ハハハ。あなたと比べる事もおこがましいほど、ええ、最低でした。ハハハ。最高です。こんな嬉しい気持ちは初めてですね。」


「そうよ。あなたは笑っていなさい。で、お腹は空いていないかしら?そろそろルームサービスが届く時間よ。ノックがあったら取りに行って頂戴な。」


「……隠密行動……ですよね。」


「私は魔法使いなの。」


 数分後、私達の部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 ウッツは神経を貼り詰めさせた顔に戻ると、私の代りに扉を開けてホテル従業員から食事の乗っているカートを受け取った。

 それからカートを押して戻って来たが、疑問符が浮いている、と、ひと目でわかる顔付を私に見せていた。


「私が出ても何も不思議がられませんでした。あなたの名前で予約したお部屋ですよね、ここは。」


「いいえ。この部屋の本当の借り主を追い出しましたの。迷惑料を手渡しましたら大喜びされてましたわ。」


「酷いでしょう?人を人とは思わない行為。ウッツさん。考え直した方がいいですよ。うちのお嬢様は目的のためには鬼になりますから!」


 ジャンはシャワールームから殆ど体も拭かずに戻ってきた。

 彼の裸の胸には、私が渡した葬送金貨が輝いている。

 彼はあの金貨を後生大事にして、ネックレスにしていつもぶら下げているのだ。

 そんな私一番のはずの男は、パンツだけ履いているという殆ど全裸でベッドの上に転がった。


 私が横になるかもしれないベッドに!


 ほんと~に、仕返しの嫌がらせが柴犬ジャンと同じだ。


「あの、彼は大丈夫ですか。私がいてご迷惑なら、あの、廊下にでも出て。」


「いいのよ。これで終わりでは無いから、あなた方には英気を養って頂かないと。さあ、ジャンが食べない分をあなたが食べて。」


 ウッツは嬉しそうな顔をすると、いそいそと私の前にあるテーブルにカートの上の皿を並べ始めた。

 それから私の対面に腰を下ろして、ウキウキした様子で肉の塊にフォークを差したが、それを口に入れる前に彼のフォークはピタリと動きを止めた。


 どおおおおん。


 大きな大きな爆発音が窓の外で起きたのだ。

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