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夜道は星を眺めながら歩いて行こう

 私を乗せた馬車は、ホテルに辿り着くどころか、出発したその十分後には大きく横倒しとなって、そのまま爆発炎上した。

 その様子をジャンとウッツは仲良く眺め、仲良しになったかのようにして同時に私に振り返った。


「どうなさったの?狙われているってわかり切っているじゃないですか。」


 狙われているとわかった人間が、自分一人しか乗れない車に乗るはずはない。

 それが信用できる人間が運転している車ならまだしも、見ず知らずの人間が運転する車なら、事故死させてくださいと言っているも同然だもの。


 だから私は馬車に乗らなかった。

 乗るふりをして、幻術の私だけを馬車に乗せたのだ。


 案の定、御者は適当な所で飛び下り、馬車は暴走し、横転した。


「爆発する素材も載せていた、までは私は想像していなかった。でも、この騒ぎで第二弾が来るかも。急いで逃げましょうよ。」


 二人は唇を噛んだ顔をして見せて、二人同時に正面を向くと、それっという風にして駆け出した。

 勿論私を間に挟んだ格好で、私の足に合わせた速度であるが。


「早い!嬢さん、早いですよ!」


「そんな事無いですよ。あなたが運動不足なのでは?」


「ジャンは減点。ウッツさんは得点。」


「畜生!じゃあ、俺は後ろを守りますよ。仲良しのお二人は仲よく並んで走って下さい!」


「私の側面はがら空きね。死なせたいの?」


 後ろへと下がりかけていたジャンが再び私の右横に並び、左横のウッツが走りながらワハハと笑い声をあげた。


「私はあなたの護衛が出来て光栄です。ほら、こんなに空がきれいだなんて。ここ数年は見上げてなかったから感動ですよ。」


「こんな星で綺麗だなんてね。首都しか知らない奴はお可哀想だよ。」


「ジャン。」


 もう何も言うまい。

 ジャンの機嫌は悪い事この上なく、このまま第二弾の襲撃があれば、彼はその鬱憤を晴らすべく行動を起こすだろう。

 ウッツの存在がありがたい、今は本当にそう思った。

 ウッツがいればジャンが我を失う事も無いだろう。


 従兄のアロイスは、あれから何度も私にちょっかいを掛けている。

 いえ、私にではなく、ジャンに、だ。

 私が本当の意味でジャンを愛人にする前に、ジャンを殺そうと企んでいるのだ。


「って、そっか!」


 私はジャンとウッツの背中に両腕を回すと、三人を持ち上げられるように全身全霊を込めて飛翔魔法を発動させた。

 アルビーナは純粋に炎魔法系の人であり、飛翔魔法のような風魔法系はそれほど得意ではないのだ。


 それでも私達は宙に浮いた。


 どおおおおおおおおおおおおおおおん。


 私達がいた場所、今や私達の足元に大きな爆炎が上がった。


「どうしてわかりました?」

「どうしてわかったんだ!」


 今の私には言葉を返す余裕などない。

 二十メートルぐらいも二人の大男を道連れに私は宙に浮いているのであり、そしてこれからさらに力を発動させて、横移動もしなければいけないのだ。


「くおおお。」


 私は歯を食いしばって力を全部込めた。

 私達はぎゅんと横に移動し、そして、無事安全に、すぐ近くの館の屋根に降り立つ事が出来た。


「はあ。」


 大きな息を吐きながら、疲労の中の私は膝をついた。

 そんな私は直ぐに脇の下を持って抱き上げられ、そのまま抱きしめられた。

 ジャンじゃない。

 ウッツだ。


「おい、お前!」


「君は剣士で私は体力自慢の護衛官だ。それに君は彼女を抱いて、屋根から屋根へと飛び越えていけるのか!」


「畜生!」


 ジャンは怒り声をあげながら剣を鞘から抜いた。

 そして、私達に襲いかかってきた影を一体切り捨てた。


「ご、ごめ。屋根こそ敵の。」


「いいえ。敵の動きはばらついています。あなたの見立ては正しかった。敵のこの攻撃は想定外の対処でしょう。」


 ウッツは走りながら私に囁き、さらに私を抱く力を込めた。


「私の体にしがみ付いてくれますか?片手だけでも動けるようにしたいので。」


「わかりましたわ。」


 私はウッツの大きな体にしがみ付き直した。

 恥も外聞もなく、足も使って、ウッツの体に猿の子のようにしがみ付いたのだ。


「わあ!アルビーナはなんてことをしているんだ!」


 この状況でジャンこそ何を言っているの?

 私は疲労困憊して走れないのよ?


 ガツッ。


 ウッツは左腕を大きく振り払っていた。

 私達の左側から襲い掛かってきた影は、屋根の上で後ろに転び、そのまま屋根を滑って落ちていった。


「すごいわ。」


「ありがとうございます。私を素敵だと言ってくれたこの世で一人の女性です。私は必死に守りますからご安心を。」


 私は笑い声をあげていた。

 そして笑う事で、私の気力というか、MPが戻って来る感じだった。


 でも、魔法が使えても、それでどうなるの?

 ここがどこで、この先がどうなっているかわからないのに。


 ぱあさ。


 私の頭の中に地図が閃いた。

 その地図には光があり、二つの青い光はくっついて動いている。

 また、青い光のほかに真っ赤な光も点在していた。

 一番近くのものは!


「二体めえええ!」


 ジャンの声と剣が人を切り捨てた音が響いた。

 頭の中の地図の赤い点滅が一つ消えた。

 私はウッツにさらにしがみ付いた。

 ウッツは右手で私の後頭部を守るように支え、自分の胸に私を押し付けた。


「大丈夫です。必ずお守りします。」


「ええ、ありがとう。」


 私は安心して集中した。

 一気に地図上の赤い点滅を消せるか?

 ぎゅうと目を瞑ったら、ちょうど十六の赤い光が私達のいる屋根に取りついたところだった。


「頭が高あああい!ひかえおろおおおう!」


 おばあちゃん子だった私は、一度は言ってみたかった時代劇の台詞を敵に向かって叫んでいた。

 同時に炎を纏った石つぶてが私達に襲いかかってきた敵に襲い掛かっていた。


 私達の動きは止まった。

 ウッツが茫然とこの事態に立ち止まってしまったからであり、ジャンは格好良く大振りした剣が空振りして屋根の上に転んでしまったからであろう。


「素晴らしい。そして、あなたはなんて慈悲深いんだ。」


「底意地悪いよ。そうでしょう、アルビーナ!」


 ウッツは感嘆の声だが、ジャンは私を責めた。

 この評価の違いだが、実はジャンの方が正しいと思う。


 私の炎の石つぶては命を奪わないが、人の尊厳を奪ってしまうのだ。


 石は炎を纏っている。

 よって、頭に当たれば人の髪を焼き、体に当たれば人の衣服を燃やして焦がす。




お読みいただきありがとうございます。

時代劇好きです。

屋根の上での戦闘は、凄く好きです。

ジャンがアルビーナがウッツにしがみ付いて叫ぶのは、焼餅もありますが、ドレスの裾が捲れて靴下止めが見えるという破廉恥な格好で男にしがみ付いている、という点にこそです。

アルビーナの中の人が気にしていないため、一人称視点での説明が無くてすいませんでした。

いつもありがとうございます。

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