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主導権と行動と行き先

 バールは部隊を分けようと提案した。

 一か所に集まっていては、敵の襲撃を誘うばかりであるという意見だ。

 私としては、私というデコイに向かってやってきた敵を排除して欲しい、そんな意見だったのだが、バールは私よりも倫理観があった。


「アルビーナ様。私はあなたのような子供を戦場に出したくはない。出来れば人死にの現場だって見せたくはないのです。いいですか、敵を惹きつけるという理由で馬車に乗って下さい。そして、そのままマナーハウスに戻って下さい。」


「ありがとう。バール少佐。でもね、結果を出さずにマナーハウスに戻れば、私は侯爵位を継ぐどころじゃないの。王への叛乱分子と見做されるでしょう。」


「あなたが?十二歳の子供が?」


 私は、そうよ、と答えていた。

 そして答えながら、これは王と叔父による私への暗殺では無いかしら、そんな風な考えが脳裏をよぎった。


 王は、いえ、魔人達は自分達の立ち位置に拘る。

 その立ち位置こそ、魔力の強さで決められる。

 魔界の申し子と呼ばれるアルビーナは、今後、他のアッパー達の地位を奪っていく可能性が高いのだ。

 実際に、ヤンと対立していた小説のアルビーナは、ルビータでは女王のように君臨している。


「ご心配はいりませんわ。バール少佐。でも、ここを出るは賛成ね。」


 私は言葉を切ると、ジャンに振り返った。

 彼は、ほんの数分前の出来事に対して、自分が何もできなかった無力感を抱えて苛立っているのだ。


「ジャン。ホテルに戻りますよ。あなたが頼りです。」


 ジャンは愛刀の鞘を胸に押し付けるようにして握りしめ、私に真面目で硬い表情の顔を向けながら頷いた。

 そして私達はそのまま室内を出ようとしたのだが、バール少佐は再び余計なことを部下に命令してしまった。


「ウッツ。お二人の警護に付いていけ。」


 私はぎゅうと目を瞑った。

 私とジャンだけならば徒歩の移動が出来るので、いざという時には飛翔術で敵から逃げ切れる。

 でも、大柄な男性を連れていれば、私の移動手段は馬車となり、それは敵に襲撃してくださいと言うデコイそのままになる。

 魔法を持つ私はどうにでもなりそうだが、柴犬属性のジャンが無駄な戦闘で怪我を負う可能性が高くなるのだ。


「バール少佐。」


 私はウッツはいらないと言いかけて、すぐに口を噤んだ。

 バールは私を見ていなかった。

 だから、彼は社交の仮面を剥ぎ取っていた。

 倫理観など無い、狡猾な狩人の顔だ。


 断言できる。

 彼は私がマナーハウスに帰ると言わないと当て込んでいた。


 では何を考えていたか。

 私がホテルまで戻る道筋で、襲い掛かる敵に襲い掛かるという作戦だ。


「バール少佐。女性でも撃てる小型の銃はお持ち?」


 彼はハッとした顔になり、だがすぐに気さくな人物の仮面をかぶり直すと私に笑顔を向けてきた。


「あなたはお使いになれるので?」


「至近距離であれば、押し付けて引き金を引けばいいのよね?」


「その通りです。」


 バールは屈むと、自分の右足首に隠してあった拳銃を取り出し、それを私に手渡して来た。

 手渡す時私の手を彼の手で包み込むようにして、そして、私の頬に彼の頬がくっつきそうになるすれすれまで顔を近づけて囁いた。


「どんな事態になっても、あなたは撃ってはいけません。私はそう望みます。」


「心に留めておきましょう。」


 私は銃を受け取ると、ジャンが私を待つ戸口に歩いて行った。

 彼はいつでも暴れ出しそうなほどに怒りを抱えており、私が近くに来るや私を網で捕まえるかのようにして私に外套を着せ付けた。

 私は外套のポケットに小型の銃を片付けた。


「ありがとう。」


「その銃は俺が持ちます。俺が銃を使えた方がいいのでしょう?」


「いいえ。まだ銃の鍛練はしていない。それにこれはバール少佐からお借りしたものよ。私のお守りなんだから渡せないわね。」


「お守りが必要な程に俺が全く信用できないと?」


 なんて彼はまっすぐで純粋なんだろう。

 私はくすくす笑い、それから、ジャンの背中に両手を回して抱きついた。

 ジャンは一瞬呆気にとられたように固まったが、すぐに私を抱き返した。

 ジャンが吐息を吐いた音が聞こえ、私は安心すると彼の背中を軽く叩いた。


「信用してますわよ。こうして落ち着いてくださった時には。」


 私達は互いに腕を解いたが、落ち着いたはずのジャンはまだ不貞腐れ顔だ。

 私が銃を持つこと事こそ、彼には苛立たしいものなのだろう。


「いいこと?ジャン。あなたはあなたの判断で動くでしょう。でも私だって、あなたが最高の行動を取れるように動こうと思っているの。安心して、あなたの邪魔はしない。だから、冷静は保って頂戴。」


 ジャンは胸に右手の拳を当てると、そのまま私に頭を下げた。

 恭しく。

 人には従順な騎士の所作に見えているだろうが、それは違う。

 納得していない時の彼の当てつけ行為だ。

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