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はじまり

お読みいただきありがとうございます!

転生物が急に書きたくなり、昨夜から書き始めたものです。

二時間後ぐらいにもう一話を投稿します。

これから歯医者だ!

 私は最近聞いて知った曲を思い出していた。

 泣きそうになれる曲だった。

 大好きな小説の最終章を思い返して涙することもできるぐらい、その曲は私の心を揺さぶって悲しい気持ちを掻き立てた。


 それで聞いてすぐにスマートフォンで検索して、歌詞の意味を知って、私はさらに泣きそうになってしまった、と思い出す。


 私の最近嵌っている小説が、魔女に恋人を殺された青年がその復讐のために、魔女達の世界を壊すというものだった。

 だから、一途な男性が愛する女性を幸せにするためならば悪人になろうという歌詞で、その小説を私に思い出させて強くイメージさせたのである。


 それなのに、実は犬目線の歌だったとは、どうよ。


 本気で情けなくて泣きそうだよ。

 現実の私は、恋人どころか異性の友人などいない、寂しき犬飼いでしかない。


「おーい。ジャン!帰るよ!」


 声をかけたところで、私の愛犬が私の言う事を聞くはずなど無い。

 奴は柴犬だ。

 勝手気ままに散歩を楽しみ、今は散歩途中に見つけた鼠の巣を破壊することに楽しみを見出している最中だ。

 私が犬の首輪を引いて戻れと犬を叱ったところで、私に戻って来るのは、柴犬様の煩い黙れという偉そうな唸り声だけだろう。


 そして、柴犬が飼い主の言う事を聞かないのは、そういう犬だからだそうだ。

 飼い主のいざという時に、柴犬は守ろうと勝手に動く犬なんだって。

 そのいざが、クマに襲われるなんて私に起こりそうもない時だが、そんな時に彼らは飼い主を逃がすためにクマに襲いかかる犬なんだそうだよ?


 クマに柴犬が勝てるはずもない。

 飼い主が逃げ切れる時間だけ稼げればいい。

 犬の癖にそんな決死行動を取るのだそうだ。


「だから柴犬は人間の命令なんか聞かないんだよ。人間の言う事を聞いたら、柴犬はいざの時に動けなくなってしまう。そうでしょう?」


 ジャンの親犬の飼い主は、ちびジャンを抱える私にそう言って笑い、その時の私は何て素晴らしい犬なんだと感動したものだ。

 だったが、その数年後に大学試験を控えている受験生となった私は、いまや後悔しきりである。

 なんて犬を飼ってしまったんだと。

 親父達の甘言に乗せられた私が馬鹿だった。


 ダラダラと犬の散歩なんかしていられないのに、一向に家に帰ってくれない柴犬なんかどうして飼いたいと思ってしまったのか!


 あの歌詞では、犬は飼い主の幸せのために悪になるのに、我が家の柴犬は自分の幸せの為ならどんな悪にでもなってしまうのだ。


「ジャン!帰ろうよ!私はあんたを好き勝手にさせるために単語帳を持って来たのに、それを奪ってボロボロにして!犬が飼い主を見るんじゃなくて、飼い主がどうして犬のあんたを見続けなきゃなんだよ!」


 そう、奴は、好き勝手をしている自分を私が眺めていないと怒りだす、という、人間だったら最低な男の部類の奴なのである。

 スマートフォンなんて、絶対に、奴の前に出したらいけない!


 だが、ジャンが動きをピタと止めた。

 私の叫びがジャンの心を動かした?

 土手に大穴を作ってたジャンが顔を上げた。

 うわあ、赤ん坊時代みたいに顔が泥で真っ黒だよ。


 あれを洗ってやるの?私が?


 愕然となりながら見守っていると、なんと、ジャンが猛スピードで私に駆け寄って来たのである。

 弾丸のように。


「ジャン!」


 ジャンが私に飛び掛かったその時、車のヘッドライトで私の周囲世界がホワイトアウトしてしまっていた。


 ジャンは私を本当に庇った、んだ。


 でも、柴犬がクマに勝てないように、暴走する乗用車に小型犬範疇の柴犬が勝てるはずがない。

 彼はゴムまりみたいに弾かれて飛んで、私もその後に続いた。

 私達は仲良くほとんど同じ場所に転がっていた。

 全身が粉々になりそうな痛みのなかで、薄れていく意識の中で、私は私の柴犬に対して、愛する恋人にするみたいに手を差し伸べていた。


「ジャン!」


 そうして起き上がったが、体のどこかが痛いわけでもない。

 私は自分の部屋でも病院でもない所、何の冗談だというような広い広い洋風の、物凄く豪華なお部屋のクイーンサイズベッドの中にいたのだ。


「私への慰謝料で家が金持ちになったか?」


 掛布団を捲り、私はベッドから飛び降りた。

 飛び下りた?

 私は自分を見下ろした。

 私の足は十八歳の女子高生のものではなく、ジャンを手に入れた頃ぐらいのものだった。

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