彼氏の浮気相手がメチャクチャ可愛い女の子だったから、彼氏をボコしてその子を奪い取ってみた話
LIMEにメッセージか届いた。
『瑠香の言う通りあれはクロだわ』
それは友達からのメッセージだった。 続けて今取ったであろう写真が何枚も届いた。 その写真には私の彼氏と女の子が2人で仲良く手を繋いで歩いている場面が映し出されていた。 相手の顔は彼氏の腕に隠れて見えないけど、彼氏の幸せそうな顔を見たらこんなの誰だってわかる。
やはり想像していた通り……彼氏は浮気をしていた。
「……ふ、ふふ……」
私はその衝撃の事実を知ってしまいショックのあまり顔を手で覆ったが……思わず笑みをこぼしてしまった。
(……あのゴミカス野郎……面白くなってきたなってきたじゃねぇか。 テメェの方から私に告白してきといて浮気だなんて……殺されても文句は言えないよなぁ……?)
私はふふっと笑いながら、最愛だった彼氏の事を頭に思い浮かべた。
「さぁって……どうしてやろうかなぁ……?」
私こと九条瑠香の怒りのボルテージは最大級に達していた。 あまりにも怒りすぎると何故か人は笑顔になると、昔何かで見たことがあったけど、まさにその通りだった。 私は今、満面の笑みを浮かべながらゴミカスクソ浮気野郎をどうやってボコボコにしてやろうかで頭が一杯になっていた。
◇◇◇◇
私とゴミカスクソ浮気野郎(以下、めんどくさいからカスと呼称)とは同い年の幼馴染だった。 私とカスは幼少の頃、一緒の空手道場に通っていてそこから次第に仲良くなっていったんだ。 カスは小学4年生辺りで空手は辞めたけど、私は高校生になった今でも空手道場に通っている。
幼少の頃のカスはとても素直で可愛く、また華奢で何だか守ってあげたくなるような男の子だった。
――瑠香ちゃん大好きー!
それが子供の頃のカスの口癖だった。 私はほぼ毎日カスと一緒に行動していたし、常に私の後ろにくっついてくるカスの姿は私の母性本能をくすぐってきて、何というかとても愛おしく感じていた。
それに毎日私の事を好きだと言ってくれるのは、正直私にとっても満更ではなかったし、むしろ男っぽい私の事をずっと好きだと思ってくれる男子がいるなんて嬉しいなぁって思っていた。 それで、そんな日々が毎日ずっと続いていくと、そりゃあ私だって……
(あれ、ひょっとして私もこのカスの事が好きかも?)
と、思うようになっていた。
私は昔から体を鍛える事が大好きで、体には筋肉ばかりついていて胸も小さく、女子らしい姿をしてない事には自覚していた。 それに性格もサバサバとしていたので、私が男子にモテる要素は無いという事もちゃんと理解していた。 体を鍛える事は好きだけど、でもやっぱり……どうしても自分の女子らしくない体つきにはコンプレックスを感じていたんだ。
だから、そんな男っぽい私へ毎日のように好意を寄せてくれる事は本当に嬉しかったし、次第に私もそんなカスの事が好きになっていったんだ。
あと正直……私の好きなタイプは守ってあげたくなるような可愛い子が好みだったから、まさに幼少期のカスは私の好きなタイプのド本命だったわけで。
そんな感じでお互いに相思相愛だった事もあり、同じ高校に入学したタイミングで改めてカスが私に告白してきてくれたので、私はそれを受け入れて晴れて恋人となる事が出来た。
恋人となったカスとは本当に色々な事をしてきた。 デートはもちろん何度もしたし、カスの家に泊ったり、そこでカスの好きな料理を作ってあげたり、長期休みには海や山へと色々な所に行ったり、観光地へお泊り旅行とかもしてきた。 カップルらしい事は一通りやってきたとは思う。
それと、これはカスと付き合ってから気が付いたのだけど、どうやら私は一途で相手に尽くしてあげたいと思うタイプなようだ。 だからカスがしてほしいと言ってきた事は基本的には何でもしてあげた。 今思うとこれが良くなかったのかもしれない。
そんな感じでカスの事を甘やかしながら付き合い始めて一年以上が経過した頃だろうか……カスが調子に乗ってイキりはじめた。 金無いからデート出来ない、家に来い、飯作れ、泊っていけなどなど……まぁとにかくカスの言動が色々と酷くなっていった。
それにこちらが連絡をしても既読スルーが多くなっていったし、デートも当日にドタキャンなどは当たり前になっていた。 どうやら私の事をカスは彼女ではなく召使いか何かと勘違いし始めたようだった。 流石に私もイライラが募り始めたのだけど、それでも……
(いやでも……流石に最近のカスは明らかに調子乗り過ぎだとは思うけど……それでもいつかは優しかった頃のカスに戻るかもしれない……)
私はそう信じ、カスの言動をこれからも我慢し続ける事を決めたのであった……
嘘です無理でした、次の日に私はキレました。
「ははっ。 お前の腹割れててウケる。 筋肉やばすぎだろw」
ブチッ――
次の日、カスは家に来いと言ってきたので、私は言われた通りカスの家に遊びに行った。 そしてその時、唐突に私のお腹を触りながらカスはそんな事を言ってきたのだ。
(……こいつは一体何を言ってるんだ?)
私は一瞬で真顔になった。 私が幼少の頃からずっと空手やってきてるの知ってるだろ、馬鹿かお前は? もうすぐ都大会もあるのに何私の腹見てわろてんねん、殺すぞ。
「それにお前の体いつどこ触ってもゴツゴツすぎてヤバイよな、まるで岩だよw 胸もスカスカだし抱き心地悪いしもっと女の子らしくなれよなぁw」
ブチブチッ――
完全にキレた。 いやブチギレた。 カスは私のブチギれた顔を見るのが初めてだったようで……カスは恐怖のあまり顔を歪めた。
でもそんな顔をされてももう遅い、私はもう止まらない。 カスの腹めがけて正拳突きを食らわした、もちろん威力は抑えてあげたけど。
「ガハッ……!?」
カスは私の一撃を食らってそのまま膝から崩れ落ち、しばらくは床をのたうち回っていた。
「……ふふ……良かったねぇ……お腹に穴が空かないでさぁ……」
「……っぁ……」
私はカスがのたうち回っている様子を見てその日の怒りは沈める事が出来た。 いや許しては一切いないのだけど。
そしてその日以降、カスは私の事をあからさまに避けるようになった。 私としては謝罪の一言でもあれば許すつもりではいた。 しかしカスは謝罪に来る事は無かった。
そんな(一方的な)大喧嘩から2ヵ月程経ったある日。 友達から衝撃の言葉を貰った。
「あのさ……前の休みにさ、瑠香の旦那が違う女の子と二人きりで出かけてるの見ちゃったんだけど……」
ピキッ――
「しかもその子と手繋いでたんだけどさ……なんか凄い仲良さげだったんだけど……」
ピキピキッ――
「ひぇっ……!?」
私のキレた顔を見て友達は悲鳴のような声を上げた。 おっといけない、友達を怖がらせるのはよくない、落ち着け落ち着け。
(……でも……そっかぁ……なるほどなるほどぉ……どうりで最近のカスおかしいと思ったわ……ふふ、ふふふ……)
私はスマホを取り出しLIMEを開いた。 そしてそこから学校の友達、部活の先輩後輩、空手道場に通う道場生などなど、カスと私の関係を知っている人達に連絡を取った。
『カスが浮気してる可能性アリ。 もし街中でカスを見かけたら私に連絡ください、お願いします』
私と交流がある人なら、私がカスと付き合ってる事は知っている。 だってカスは事あるごとに私と付き合っていると、あちこちに言いふらしていたから。
だから私はその人脈を利用して、人海戦術でカスの浮気調査を行う事にした。 連絡をした人達は皆、私の事を信頼してくれる程には良い関係を築いているので、皆とても協力的だった。
◇◇◇◇
そして土曜日の今日。 私が皆に連絡をしてからたったの数日の出来事だ。
『瑠香の言う通りあれはクロだわ』
そんなメッセージが今日の昼に届いた。 続いてカスの写真が大量に送られてくる……カスが女の子と手を繋ぎながら歩いている写真だ。 それも1枚だけじゃなく複数枚送られてきた。
「……ふ、ふふ……」
一緒に写っている女の子の顔はカスに隠れて見えないけど、きっと私と違って可愛い女の子なんでしょうねぇ……ってあれ?
「ここ、私達の地元じゃん」
写真をよく見たら、カスは今、私の家の最寄り駅近くにいる事に気が付いた。 私はメッセージを送ってくれた友達に返信を飛ばした。
『ありがとう。 今からそっち行くからカスを見張っといてくれない?』
『了解。 待ってるね』
私は友達にメッセージを送った。 友達から了解というメッセージを確認した後、私は頭に上った血を下げるためにも一旦深呼吸をし始めた。
「すーはー……すーはー……」
よし、頭に上った血はだいぶ下がった。 頭の中もスッキリしてきたし、私のやるべき事も明確にわかった。
うん、やっぱり怒りに身を委ねるのは良くない事だ。 一度冷静に判断出来るようになるまで時間を置く事の大切さを知る事が出来た。
「よし、殺すか」
ということで私はこの状況を冷静に判断した上でこれからやる事を決めた。 カスにバレて逃げられたらメンドクサイのにで、一応バレない程度の変装として帽子とメガネを装着してから家を出た。
◇◇◇◇
「ずっと見張ってもらっててごめん」
「ううん、大丈夫」
私はLIMEのメッセージを飛ばしてくれた友達と合流した。 今カスと浮気相手は公園のベンチに座っていた。 私達はバレないように遠くの木陰から覗いていた。
「せっかくだしこれ使う? 面白そうだったからさっき買ってきちゃった」
そう言って友達は双眼鏡を私に手渡してきた。
「準備が良いね。 ありがたく使わさせてもらうわ」
せっかくだし浮気相手の顔を拝んでみようかと思い、私は借りた双眼鏡を使ってその女の子の顔を見てみた。
「っ!?」
「ど、どうしたの?」
私は思わずビックリした。 だってその女の子……とても可愛らしかったから。
「か、可愛すぎない……!?」
「……へ? あ、あぁ相手の子の事? いや確かにそれは思ったけど。 同性の私から見ても可愛い子だなーって思ったし」
おそらく可愛い子なんだろうなぁ、とは思っていたのだけど想像以上に凄かった。 小さめの身長にゆるふわヘアでついつい抱きしめたくなるような甘い顔。 服装も可愛らしいワンピースで、チラっと見えるその女の子の生足に私はクラっときてしまった。
「ふ、ふふ……あのカス羨ましい事してるじゃん……」
「る……るか?」
私はそんな彼女の姿を見てドキドキが止まらなくなっていた。
いやなんというかその……あの女の子は私にとって理想としている完璧な女の子像そのものであった。 そしてあれはまさしく……私の理想のタイプである守ってあげたくなるような子そのものでもあった。
あんなに可愛い子がカスと? いやいやそんな冗談はやめてほしい。 あんな可愛い子にカスなんて勿体なすぎる。 絶対にもっと良い相手があの子にはいるはずだから、私がカスの魔の手から救ってあげなきゃ……
(いやでも……もし既にあの子とカスは体の関係まで進んでいたとしたら……?)
うん、その時はカスを殺そう、惨たらしく殺そう。 あぁなるほど、私が子供の頃から体を鍛えてた理由は今日この時のためだったのか……なんて事を思いながらも友達はそこで監視を続けていった。 するとしばらくして、カスは女の子の手を掴んで立ち上がった。 どうやら公園から移動するようだ。
「裏路地の方に行くっぽいね。 って、あっち方面って確か……」
「うん、ラブホ街だね」
友達は私の事を心配そうに見つめてきたけど、私の心は晴れ晴れとしていた。 うん、これはどう見ても確実にアウトでしょうね。 私はニヤっと笑みを浮かべ手をゴキっと鳴らしながら、カスとその可愛らしい女の子の後をついていった。
案の定カスは女の子の手を掴んだまま路地裏を進んでいき、ラブホの近くで止まった。
「どうする、瑠香。 ここらで止める?」
「いや、もう少しだけ待とう。 今出て行ってもラブホ前に居ただけだってカスにはぐらかされる」
最近のカスの言動から、ここで飛び出ても確実に言い訳してはぐらかしてくる。 だからしっかりとラブホのドアに入ろうとした瞬間を狙おうと、私は考えた。
「了解、じゃあもう少しだけ様子見を……ってあれ? なんかおかしくない?」
友達がそういってカス達の方を指さしてきた。 私もカス達の方に視線を向けた。
「……確かに。 すぐにラブホに入るのかと思ったのに、止まったままで全然入ろうとしないね」
「うん。 それにさ……なんだか、女の子嫌がってない?」
「うん、私にもそう見える」
カスは女の子の手を掴んで進もうとしているのだが、女の子の方が抵抗しているように見えた。 それに何か言い争いをしているようにも見えた。 私はカス達が何を喋っているのかが気になり、聞き耳を立ててみた。
……
…………
「……放してください。 私はもう帰ります」
「えー、なんでー? ただ休むだけだよ?」
「私達付き合ってないんですよね? アナタがそう言ったんですよ? 付き合ってもいない人とこんな所には入れません」
「あははー、姫ちゃんは奥手だよねぇ。 今時付き合ってるとか付き合ってないとか、そんな事気にする人いないよ? それにさ、お互いに好きあってるんだからそれでいいじゃん? ほら、こんな所で止まってると変な風に見られちゃうよ? 早く入ろうよ」
「い、嫌です……!」
「いいじゃん別にさぁ、ほら早く入ろうよ――」
…………
……
「あーあ、ありゃあ駄目だね」
「うん、駄目だわ」
私と友達は聞き耳をたてて彼らの会話を聞いていた。 カスは女の子の手を引っ張って無理矢理ホテルに連れ込もうとしていたわけだ。 でも女の子の方は頑なにそれを拒んで、今は地面に座り込み、カスの連れ込みから必死に抵抗しているところだった。
流石にそんな所を見てしまったら……もう我慢は出来なかった。
「……どうするの?」
「どうするって……ふふ、わかるでしょう?」
私は友達に向かって満面の笑みを浮かべてそう答えた。 もちろん嬉しくて笑っている訳ではない、本気で私は激怒していた。
「本当に殺さないでよ」
「善処するわ」
私は友達にそう言って、カスの元へと近づいた。 カスは興奮しているようで、私が近づいてくる事には全く気がついていないようだ。
そして私はそのままカスの元まで辿り着き……そしてカスの肩をぽんぽんと優しく手で叩いた。
「あっ!? なんだ……よ?」
「どうもぉ……こんにちはぁ、うーばー〇ーつでーす。 アナタ様に……地獄をお届けに参りましたぁ」
「……え? げ、げっ!? る、るか――」
ビュンッ――
カスが肩を叩いてきた相手が私だと認識した刹那、私はカスの顔面に当たるギリギリを狙って渾身のストレートパンチを放った。
「……ふふ……良かったねぇ……顔潰れないでさ……」
「あ、あばばばばばばっ!?」
カスは恐怖心からか、そのまま地面へ膝から崩れ落ちていった。 私も一緒にしゃがみこんで、倒れ込んだカスにだけ聞こえるように小さく耳打ちをした。
「……話があるから明日絶対に学校に来な……もし来なかったら……ふふっ……わかるよねぇ?」
私がそう言って手をゴキっと鳴らすと、カスは全力で頭を縦にぶんぶんと振り出した。 ふふふ……明日が楽しみだなぁ……後で手伝ってくれた全員にLIMEしとこう。
カスにはもう用は無いので、続いてカスの隣でへたり込んでしまっている女の子に手を差し伸べた。 怖い思いをしただろうから、私はなるべく優しい声でその子に喋りかけた。
「大丈夫? 立てる? はい、私の手掴んじゃっていいからね」
「あ、は、はい。 すいません……」
女の子は私の手を掴んで立ち上がった。 手を握った感触はとても柔らかかった。 ゴツゴツな私の手とは大違いだ。
立ち上がった女の子の姿をもう一度よく見てみる。 あぁやっぱり近くで見ると、とても可愛らしい女の子だ。 そしてさっきから私の心臓はドキドキと高鳴り続けている。
「ど、どうかしましたか……?」
「っ!? ご、ごめんなさい……なんでもないの」
私はその女の子の顔をじっと眺めていたため、女の子は不安そうな顔をして私の事を見つめてきていた。
「と、とりあえず移動しましょう。 とりあえず駅前に向かいましょうか」
「は、はい……」
ここはラブホ街だし、女の子がこんな所に入り浸っているのはマズイ。 ということで私はその女の子の手を握りしめたまま、駅前までへと連れていってあげた。 地面に横たわっているカスの事はそのまま無視しといた。
◇◇◇◇
駅前まではすぐに到着する事が出来た。 私は握りしめていた女の子の手から一旦手を離して、もう一度女の子に喋りかけた。
「駄目よ、あんなゴミカスクソ野郎についてっちゃ。 そもそも嫌がってる女の子をホテルに連れ込もうとする時点で犯罪だからね」
「は、はい……そ、その……すいません……」
「ううん、貴方を責めてるわけじゃないの。 だから、そんなに悲しい顔をしないで……」
女の子は悲しそうに謝ってきた。 そして女の子はそのまま顔を俯かせてしまった。 私は怒ってるわけじゃないのだけど、威圧的に感じてしまったのかもしれない。
「あ、そういえばあのカs……じゃなかった。 あの男の人は君の彼氏だったの?」
私がそう聞くと、その子は顔を俯かせたまま喋り出した。
「え、えぇっと……ど、どうなんでしょう。 可愛いとか、好きとかはよく言ってくれたんですけど、けどあの人、私に告白のような事は一切してくれなかったので……」
「は、はぁ?」
あのカス本当に何してんだ?
「でも私、男の人に可愛いとか好きって言われたの初めてだったからとても嬉しくて……だから、私……付き合ってるという事でいいのか聞くのが怖くて。 もし違うって言われたら……その……とても悲しいから……」
「う、うん……」
何だか昔の私を見ているような気持ちになってきてしまい、この子が悲しそうな顔をしているのが本当に辛くなってきた。
「それで……付き合ってるのかどうかを有耶無耶にしたままで過ごしてたんですけど……今日会いたいって連絡が来たので、あの人に会いに行きました。 最初はいつも通りご飯食べて普通に楽しく過ごしてたんです……で、でも……」
「でも?」
「で、でも……途中でちょっと休まない? って言われて……裏路地のホテル前に連れていかれたんです」
女の子の話を聞いていて私も悲しい気持ちになっていたのだけど、またどんどんとカスへの怒りゲージが溜まっていった。
「そ、それで何だか怖くなって……この人、本当は私の事をどう思ってるんだろう? ……って。 だから、私勇気を出して聞いてみたんです。 私達って付き合ってるって事でいいんですか? って。 で、でも……ひっく……」
そこまで言うと、女の子は涙を流しながら喋り続けて来た。
「ぐすっ……でも……あ、あの人はその質問の答えをはぐらかしてきたんです……ひっく……まぁまぁ、そんなのいいじゃん……って……ぐすっ……うぅ……」
「……」
なるほど、そこで先ほどのトラブルに繋がるわけか……
「ぐす……そ、それで、あぁ……この人は私の事は遊びだったんだなってわかって……ぐすっ……そ、それで逃げだしたかったんですけど、腕を掴まれてて逃げれなくて……な、何だか怖くなって座り込んじゃって……そしたら……」
「そしたら?」
「そしたら……あ、あの……アナタが助けに来てくれたんです。 だ、だから……ひっぐ……本当にありがとうございました……ぐす……」
「あぁ、いや、全然、私は何もしてないから」
「そ、そんな事は無いです! 私……本当に何も出来なくて……ひっぐ……本当に……ぐす……ありがとうございました……」
「もういいから……ほら、これ使って」
私はそう言ってその女の子にハンカチを手渡した。 女の子はそのハンカチを使って涙を拭いた。
(可哀そうに……)
この女の子は本当にとても可愛らしい。 それに話を聞いていて何となくわかったけど、この女の子は普通に良い子だった。 これは確かにカスが好きになる理由もわかる……いや本当はわかりたくないのだけど!
でも……だからこそ、この子には泣き顔は似合わないと思う。 この子には常に笑っていて欲しいなと、私はそう思った。
(あのカスのせいでこんな事に……)
やっぱりこの子はあのカスなんかには勿体ない。 そもそも女の子を泣かせる時点であのカスは駄目だし。 この子の事を大切にしてくれる素敵な男の子は必ず他にいるはずだ。
(私だったら絶対に悲しませる事も、泣かせるような事も絶対にしないのに……ん?)
……その時、私は衝撃的な閃きを得た。 この子には他に素敵な人がいるだって? いやそうじゃない……!
「……ねぇ。 私の名前は九条瑠香というのだけど、アナタの名前は何て言うのかしら?」
「え? えぇっと、椎名……姫子と言います」
「椎名姫子さんね。 じゃあ早速だけど椎名さん、あんなカs……じゃなかった、あんな男の事なんて忘れて、私とお付き合いしない?」
「え!? お、お付き合い!?」
椎名さんはビックリしたような声を上げた。
「あら、やっぱりあの男にまだ未練があるの?」
「い、いえ! そ、そういう事ではなくて……あ、あの、九条さんって女の方ですよね?」
「えぇ、17年間女子をやらしてもらっているわ」
「で、ですよね? あ、あの、私も女子なんですけど……?」
「そんな事関係無いわ。 だって……私はアナタに一目惚れしてしまったのだから」
「え……ええええええ!?」
椎名さんはあまりにもビックリしたようで、大きな声をあげた。
「そんなに意外? それとも女子は恋愛の対象外?」
「い、いや、そ、そういうわけではなくてですね……い、いや、なんといいますか、その……唐突過ぎてビックリしたといいますか……」
「しょうがないじゃない。 だって私、一目惚れをしたのはこれが初めてだし、恋の駆け引きなんて上級な事も出来ないから……私は直球で攻める事しか出来ないの」
恋愛経験が乏しい私にとって、見本に出来る相手は……常に直球勝負しかしてこなかったあのカスしかいないのがとても悔しい。 でも今はアイツを参考にするしかない。
「それに、私はこう見えても好きな人には一途だし家庭的で献身的な女なのよ? 連絡はこまめにするし、デートも沢山するし、いつでもアナタの好きな料理を作ってあげるわ。 アナタが来いって言うのであればいつでも迎えに行くし……あぁ、それと……」
「そ、それと……?」
私は椎名さんの顔に近づいて……そっと涙を拭ってあげた。
「私なら絶対にアナタを泣かせるような事はしないわ。 絶対にね……」
「あ……」
ちょっとクサイかな? と、思ったりしたけど、しょうがない。 この子だけは誰にも渡したくないと思ったら、ついついカスが言ってきそうなセリフを口に出してしまった。
「どうかしら? 自分で言うのもアレだけど、私って結構最良物件だと思うのだけど?」
嘘である。 優良物件の女はブチギレて暴力を振るう訳がないのである。 まぁでも、あれはカスが99%悪いから見なかった事にして欲しい。
私がそう言うと、椎名さんは腕を組みながらもの凄い悩んでいるようだった。 真剣に考えてくれているようでとても嬉しかった。
「……じゃ、じゃあ、ま、まずはお友達から始めませんか?」
「……お友達?」
「は、はい。 だ、だって私……まだ九条さんの事を何も知らないですし、まずはお友達として、九条さんの事を知れたらなって思うんですけど……ど、どうでしょうか……?」
そういうと椎名さんはおずおずとした表情でこちらを見てきた。 もう駄目だ、この子何をしても可愛すぎる。 “恋は落ちた方が負け”なんて言葉を誰かが言ってたけど、まさにその通りだと私は思った。
「……そうね、確かに少し急すぎたわね。 それじゃあ、まずはお友達からお願いしてもいいかしら?」
「は、はい! それでお願いします!」
私はあくまでも冷静な顔で椎名さんにそう告げた。 内心はとても残念な気持ちになってはいたけど、でも友達になれただけでも十分良しとしよう。 これから仲良くなっていければいいしね。
「それじゃあ早速だけど……良かったら少しお茶でもしない? 私も椎名さんの事を色々と教えてほしいの」
「あ、は、はい! 私もその……九条さんの事を教えて頂きたいです」
顔を真っ赤にしている彼女の顔もやっぱりとても可愛らしかった。 もうどんな顔をされても私は可愛いとしか言えないのかもしれない。
「それじゃあ行きましょうか」
「は、はい!」
そう言って私達は近くのカフェに向かった。
◇◇◇◇
「今日は本当にありがとうございました」
「こちらこそありがとう、とても楽しかったわ」
椎名さんとカフェでお茶を楽しんだ後はそのまま解散する事となり、LIMEの連絡先を交換し終えた私達は、駅の改札前に来ていた。
「私も楽しかったです! 帰ったら早速連絡しますね」
「えぇ、連絡楽しみにしているわ。 また会いましょう」
「はい、私も楽しみにしています。 それでは」
そう言って椎名さんは駅の改札口へと入って行った。 私は彼女の背中を見えなくなるまで見送りを続けた。
「……ふぅ……」
こうして私の長い一日はようやく終わりを告げた。 ここ最近、私の周りでは色々な事が起きてとても疲れたけど……それでも最後に椎名さんと出会えた事で、私の心は穏やかな気持ちを取り戻していた。
(願わくば、この縁がずっと続きますように……)
私は心の中でそう願いながら帰路へと向かうのであった。
……あ、そういえば! 次の日にゴミカスクソ浮気野郎とは円満に別れました、もちろん拳でねっ! ふふふ……
(終)
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