間違い電話
「もしもし、佐藤さんですか?」
「いいえ、門田ですけど…」
「あ!電話番号が間違っていたみたいです!申し訳ありません!くそ、あの野郎…」
こうして、僕は電話の受話器を置く。これが僕の趣味だ。
わざと間違い電話をかけて、最後に意味深なことを言い残して電話を切る。
人としてやってはいけないことだとはわかっているのだが、どうしても面白くてやめられない。
電話の向こう側で相手がモヤモヤしているのを想像すると、にやけが止まらないのだ。
最初に始めたのは中学生の頃だった。友達と遊び半分で始めたのがきっかけだった。
そのうちいたずら電話だというのがばれ、学校と警察と親からこっぴどく叱られたが、僕にはやめるという選択肢はなく、どうばれないでやるかという方向に進んだ。
今日はこれで2回目。万が一でもバレないように、公衆電話を使い、一日三回までと決めている。
最後の一回をかけようとしたその時だった。
公衆電話が鳴った。
公衆電話が鳴るなんてことは初めてだった。公衆電話をならせるのは警察だと聞いたことがある。自分の悪事がばれたのかと思い、半ばパニック状態になり電話へと出てしまった。大丈夫。知らないふりをすればいい。
「もしもし、佐藤さんですか?」
「はい?」
突然のことで変な声で返事してしまったが、それと同時に佐藤が自分の苗字ではないので安堵した。
僕は平静を取り戻して、「いいえ、違います。」と返した。
「あ!電話番号が間違っていたみたいです!申し訳ありません!」
ああ、なんだそんなことなら焦って電話に出る必要もなかったな。僕は、「いえ、大丈夫ですよ。」と返す。
「いやー本当に申し訳ありませんでした!実は人生を間違えた人に電話しているところなんですよ。」