作者、文、読者
秋葉原を歩いていると、大きな書店が目に入り、そこに入った。外は雨が降っていた。心は体が思っているよりも雨を避けたがっていた。僕は店員さんに、今日はどんな本が売れていますか? と聞いた。売れている本を買おうと思った。店員さんは、本日は子供図鑑がよく売れています、と言った。僕は店員さんの顔面を殴り、教えてくれてどうもありがとう、と言って、書店をでた。体が熱かった。この熱さをどうすればいいのか分からなかった。さとうのご飯を温めて、それを冷ます時のように、冷ませればいいのだけれど。並木通りを歩いた。人がたくさんいた。人は女も男もいたけれど、子供は見なかった。車はセダンの車が多かった。軽自動車は少なかった。信号が赤。僕は止まる。雨は降り続けている。子供はいない。さとうのご飯も手元にない。アイスクリームショップがあり、帽子を被った女がアイスを売っている。窓があり、その上に庇がある。僕はアイスクリームショップに並んだ。二番目だった。僕の番が来た。どのアイスにいたしましょうか? と聞かれた。僕はどのアイスにするか決めていなかった。すぐに決めることが難しかった。バニラ、いちご、チョコ、抹茶、バニラ。帽子を被った女が僕の顔を見ている。また来ます、と僕は言った。並木通りを歩いた。服屋が並んでいる。キラキラしている。ほとんど裸のような女が歩いている。大体その横には肌を焼いている男がいる。ほとんど裸のような女と肌を焼いている男は、マクドナルドのチーズバーガーセットくらいポピュラーである。ポピュラーという言葉の例文にこれを載せようと思った。僕は編集者だから、それくらいしてもいいだろう。こんにちは、と言われ、顔を見ると年寄りが前に立っていた。こんにちは、そして、さようなら。僕はその年寄りの横を通り過ぎる。職場につく。僕は自動ドアを抜ける。警備員がいる。お疲れ様です、と言われる。お疲れ様です、と返す。僕は礼儀正しい。礼儀正しいことをもう少し褒められてもいいかもしれない。僕は礼儀という言葉の例文に、僕は礼儀正しいことをもう少し褒められてもいいかもしれない、を載せようと思う。いい考えだ。エレベーターに乗る。四階を押す。四階だけ色が褪せていて悲しい。僕は閉めるボタンを押す。閉めるボタンはもっと色が褪せていて嬉しい。感情が、おかしい。僕はおかしくない。? が浮かぶ。? エレベーターが止まる。僕以外に誰も乗っていないから、僕はすぐにエレベーターを降りる。人がいる。人、人、人、人、知ってる人、人。知ってる人にだけ挨拶をした。挨拶は気持ちがいいことだから、できれば、人、人、人、人、この人たちにも挨拶をしたいけれど、なかなかできない。挨拶が返ってこなかったら、人、人、挨拶を返さなかった人、人になってしまうから、なかなかできない。僕は自分の席に座った。コーヒーが机にないと思い、買ってないからないのだと思い、思いが二つになって頭が少し混乱した。思いは一つでいいはずで、どうして思いが二つになるのか、三つになったらどうなるのか、僕は独り言を言いそうになって、口を手で塞いだ。僕は自分の仕事に取り掛かった。僕は何か例文を追加したいと思っていたはずだけれど、何を追加したいか忘れてしまったので、目をぎゅっとつぶって、考えた。さとうのご飯が頭に浮かんだ。それは湯気が出ていた。さとうのご飯は、当然だけれど、普通にご飯を炊くよりもコストが掛かる。ああ、思い出した。僕は、コスト、の例文に、さとうのご飯は普通にご飯を炊くよりもコストが掛かる、を追加することにした。僕が、普、まで書いていると、上司に名前を呼ばれた。人を殴ったのか? と聞かれ、どの人でしょうか? と僕は聞いた。書店員の人だよ、と上司は言った。外はまだ雨が降っていた。雨、上司、僕、の順番で並んでいた。いや、雨、窓、上司、僕か。僕は上司に仕事に戻っていいかと聞いた。書店員を殴ったのかと聞かれ、僕は殴ったと答えた。もう、雨、窓、上司、僕、の状態でいるのは嫌だったからそう答えた。僕は後ろから手を掴まれた。何事かと思った。挨拶をした警備員が立っていた。雨、窓、上司、僕、警備員、に変わっていた。僕を見ている人、僕を見ている人、僕を見ている人、にも変わっていた。