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壊理性ラヴァーズ! ~実は俺は5重人格で、それぞれが別の女と幼い頃に結婚の約束をしていた件~  作者: 御手洗あんこう
第2章 夏の夜の五重奏(サマー・ナイト・クインテット)
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第22回 父と子ー②

「なんだよそれ……」

「うそ……おじさんまで?」

「親子揃って、ですか……どんな偶然ですの?」

 突如告げられた事実に、俺は横で聞いていたハナと松島さんと共に言葉を失くしていた。


「まあ、それはあくまで裏事情だ。お前らに色々秘密にしていた理由は、結局のところ『さっきの話』に行き着く。今のようにお前らの『自我』が確立するまでは、他人格の存在を知らせること自体がバランスの崩壊を招きかねなかったからな。サトルの秘密についても、知られれば即座に『そこ』へ繋がる……全てはお前たちを『公平な環境下』に置くためだったというわけだ」

 しかし親父は、その話についてはそれ以上触れることはなく話を戻す。


「……つーことで、大体事情は分かってくれたか? 不満があるなら言ってくれて構わんぜ。お前たちにはその権利がある」

「別にねぇよ……今の話聞いたら、まあ仕方ないって思うさ」

 困ったように告げる親父に、俺は正直な思いを答えた。

 ……実際こんな大切なことを隠されていたことへの不満がないかと言えばそれは嘘である。だが、一つ間違えば『俺』という人格は消えていた可能性があるわけで、それを思うと親父の判断を責めることはできなかった。


「そうかい? ならよかったぜ」

 俺のその言葉を聞き、親父はようやくホッとした表情を見せた。



「あの……少しよろしいですか? お義父様」

 漸く話が一区切りしたところで、ふと松島さんが口を開く。


「ん、なんだい、ルナちゃん?」

「『快』様が生き残るためには『条件』があると聞いています……その詳細な内容を教えて頂くことはできないのでしょうか?」

 その内容は、俺たちも気になっているものだった。


「ああ、そう言えばそんなのもあったな……カイは知ってるんだっけか?」 

「一応な。『五人の中で、この世に最も強く自身の存在を刻み付ける』とかいうアバウトな奴」

 話を振ってくる親父に、俺は現時点で知る情報を伝える。


「そうか……残念ながらそれ以上は俺の口から言うことはできん。答えは自分で見つけ出して貰わないと、『公平』にした意味がないんでな」

「なんだよそれ。ケチくせぇな……」

 だが親父からの回答は、なんとも煮え切らないものだった。


「そういうことだ、ルナちゃん。残念だが……」

「納得いきません。松原先生は『答え』をご存じなのでしょう? それこそ『不公平』ではありませんか?」

 流れのままに話を戻す親父だったが、松島さんがそれで納得するはずもない。


「いや、公平だとも。サヤの奴は『自力』で辿り着いたからな」

「なっ……」

「マジかよ……」

「だから君達も自力でソレに辿り着いて貰わないと『公平』とは言えないのさ」

「くっ……ならばせめて松原先生と同じだけの情報は、与えて頂けるんでしょうね?」

 だが親父の口から出てきた更なる情報はなかなかに強烈で、流石の松島さんも引き下がるしかなかった。


「ああ、構わねぇぜ。連絡くれりゃぁ教えられる範囲の情報は教えてやるよ」

「……わかりましたわ」

 親父のその言葉を受け、渋々ではあるが松島さんも納得したようだった。


「待っておじさん、あたしも一つ聞いていい?」

 これで話が終わった……と思ったら、今度はハナが口を挟んできた。


「ああ、なんだ?」

「……今日の話だけど、『戒』に秘密にしてた理由は、話聞いてたらわかるよ? でもなんで、あたしには教えてくれなかったの? あたしだけずっと……近くにいたのに、蚊帳の外だったってことじゃない」

 ハナの問いも尤もといえば尤もである。俺に事実を話せなくとも、事情を知る人間は多い方が助かる。ハナならそれを知れば色々と気を回してくれただろうに。


「……なんでも何もねぇな。別にハナちゃんに話す義理はないだろう。いくら家族ぐるみの付き合いとはいえ、所詮は他所(よそ)の家の事情だ」

 だが親父の回答は、予想以上に冷淡なものだった。


他所(よそ)の家って……なによそれ」

「なんだ、何かおかしなことを言ったか?」

他所(よそ)、なんかじゃない。だって、あたしは……!」

「ハナ?」

 親父の言葉が気に食わなかったのか、ハナがいつになく憤った様子で、肩を震わせている。


「……ごめん、なんでもない。そうだよね、仕方ない、よね……」

「?」

 だがしばらくすると彼女はそれを抑え込み、まるで何もなかったかのように振舞う……一体どうしたっていうんだ? 


「……まあ、黙っていたのは悪かったな。これからは可能な範囲で情報は教えてやるさ」

「……うん」

 緊張した空気を走らせながらもハナが言葉を飲み込み、その場は収まりを得た。


「さあ、話すべきことは話したぜ。まだ聞きたいことはあるかい?」

「……」

 再び親父が問いかけるが、手を挙げる者はもういない。


「……よし、ならこの話はここまでだな。せっかく墓まで来たんだし、うちの元ヨメに手ぇ合わせていってくれや。もうこの世にはいないが、君たちのお義母さんになるかもしれない女だ。挨拶しといて損はないぜ?」

 ――そして先ほどの緊張した空気も冷めぬ中、親父がなんとも言い難い発言を放つ。


「……」

「……」

「なあ、空気読めよマジ……」

 それにより発生した余りに微妙な空気に、俺は突っ込みを入れざるを得なかった。


「ガッハッハッハッ! まあ細けぇこたぁ気にすんなって! これでみんな大体の事情が分かったんだ。この先どうするかは自分(テメェ)次第だ。そんな暗い顔して悩んでいても何も解決しやしねぇぞ?」 

「はい。じゃあこの話はここまでにしましょう!」

「サトル……?」

 豪快に笑う親父を援護するかのように、サトルが口を挟む。


「折角お父さんが帰ってきたんですし、今日はご馳走にしましょう! 上達したボクの料理の腕前を披露するいい機会ですから、楽しみにしててくださいね?」

「お、そいつぁ楽しみだ!」

 ……そうしてサトルと親父は、母さんの墓に手を合わせると、そそくさと引き返していった。


「二人とも、すまないな。付き合わせて……あと、うちの親父がなんかすまん」

 先を行く二人に取り残された俺は、同じく取り残されたハナと松島さんに、親父のあれこれを詫びた。


「ううん、ついてきたのはこっちだから……」

「まあ、聞きたいことはある程度聞けたので良しとしますわ」

「……どうせこれから嫌でも考える必要が出てくるんだ。今日は二人の言う通りにここまでにしとこうぜ?」

 今日の話を聞いて、俺自身も色々思うことはある。だが、悩んでいても何も解決しないという親父の言葉は事実だし、ひとまずはそれに従うことにした。


「あ! ルナさんとハナさんも折角ですし今日はうちで食べて行ってくださいね~!」

 そこへサトルが戻ってきて、大声で二人を誘う。


「ほら、サトルもああ言ってる」

「……そうだね」

「なんだか丸め込まれているような気もしますが……仕方ないですわね」

 そうして俺たちは、母さんの墓に手を合わせた後、帰路に就いた。




「おう、カイ。起きてるか?」

「うん……なんだ、親父かよ」

 ――翌日。まだ日も昇りきっていない中、親父の声で俺は目を覚ました。


「もう出るんでな。一言挨拶に来た」

「えっ、もう?」

「ああ。またしばらく家を空けるが……サトルを頼むぜ」

「ハイハイ、わーってるよ」

 目覚め切っていない頭で、若干適当に親父に相槌を打っている途中だった。


「……なあ、カイ」

「え?」

「お前らが思っている以上に、時間はねぇぞ」

 ――神妙な顔つきで親父がそう告げ、俺の目も覚める。


「だから、後悔だけはすんなよ」

「……」

「それだけだ。じゃあな」

「……ああ、気をつけて」

 親父の言葉にそう返し、去り行くその背中を見送った。



「ったく、何様だっての俺は……自分を棚に上げてよ」

 ――自嘲するように、男が呟く。

「……いや、だからこそ、か」

 その姿にはどことなく哀愁のようなものが漂っている。


「しかし、『あの五人』が、カイとねぇ……なんつーか、『血は争えねぇ』よなぁ?」

 呆れたような口調で発したその言葉は、ここにはいない誰かに呼びかけているようだった。

「そう思わねぇか……? 『アイ』」

 どこへ向けるでもなくそう告げると、男は再び歩き出した。


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