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第20回 五人の『カイ』ー③

「……さあ、一体どういうことなのか、改めて一から話して頂きましょうか?」

「あはは~、まあそうなるわよね~」

「『多重人格』……本当に?」

「意味わかんない……サっちゃんが実は女の子だったとか、何で今まで誰も気がつかないのよ? 絶対おかしいでしょ?」

「すみません、これには色々と事情がありまして……」


 ……サトルの誘拐事件の翌日。

 我が池場谷家には、五人の『約束の子』たちが勢揃いしていた。

 昨日の時点で既にみんなの頭の中は疑問符だらけになっていたが、あの後は事後処理とか色々でゴタゴタし、結局細かい話は日を改めて行うということで一時解散となった。

 そしてその翌日である今日……丁度休日なため、全員が一堂に会したという訳である。



「なあ、ホントどういうことなんだよ……?」

 そんな状況下だがなぜか俺は部屋を閉め出され、先ほどから行われている言い争いは、女性陣のみにより行われている。

 また、今喋っているのは現在の『主人格』である『()』だ。五人格の中で所持している情報は俺が一番少ないため、俺自身も昨日発覚した衝撃的な事実に完全に頭を悩ませていたところである。

 ……てゆーかマジ意味わかんねーだろ! ずっと一緒に暮らしてきたサトルが実は『弟』じゃなくて『妹』だったなんて!


 ……確かにサトルは見た目的には完全に美少女にしか見えないレベルの容姿だ。むしろそういう意味ではある意味今回のことは納得がいく面もあった。

 だが俺達は長年一緒に暮らしてきた家族なわけで……まずそれを隠すことの意味が分からないし、さらに長年この事実が明るみになることがないまま今現在まで至ったことが、もっと意味が分からなかった。


「さ~て、なんのことかなぁ?」

「『魁』、お前なぁ……」

 ――場所は『カイ議室』へと移り、俺は今回の『犯人』に問いかける。最初は今回のこともまた俺『だけ』が情報を隠されているのだと思ったが、なんとこの衝撃的な事実を知っていたのは『魁』のみだったらしい。


「まあカラクリ自体は単純さ。前に五人とも他四人に『侵されたくない記憶』があるって話しただろ? ……それに『サトルのこと』も含まれてたっていうだけの話だ。あいつが『約束の子』であることはおれにとっては隠しておきたいことだったんだよ。お前たちを出し抜くためにな」

「……俺たちに関してはそれでいいよ。でも周囲の人間がまったく気づかないのは絶対におかしいだろ?」

 理屈は分かるが、それが通じるのは俺たちだけだ。そのため俺は再び『魁』へ問いかける。


「ああ、それはおれの『異能』のせいもあるな。サトルが右腕につけてるブレスレットがあるだろ? あれにはおれの『幻惑』の力が付与されていて、周囲の人間の認識を誤認させているんだ」

「は? じゃあサトルの周りに居る人間は全員幻惑されてるってのか?」

 少々聞き捨てならない発言に、俺は食ってかかる。


「いやいや、そんな大層なもんじゃあない。力が付与されてると言っても、サトルが男のふりをしていることに違和感を感じないようにする程度のレベルだ。事実今回みたいに決定的な証拠を知られてしまえば『誤認』が解消されてしまっているだろう?」

「……」

「だからブレスレットの効果はあくまで補助的なものだ。サトル自身が細心の注意を以って気を付けていたからこそ、そこにおれの異能が加わることで、今に至るまで隠すことに成功していたってわけさ」

「でもなんでそんなことを……」

 理屈が分かったからと言って、サトルがなぜそんな大事なことを隠すのかということは全く理解できなかった。


「悪いがそいつは企業秘密だ。少なくともおれの口からは言うことはできない」

「……ホントに秘密の多いことで」

「クソ、よくも騙してくれやがったなこのヤロウ……」

「チッ……やっぱり信用ならないな。お前は」

「ん? サトルが女だと何か問題があるのか?」

 尚も秘密主義を貫く『魁』に、残る人格が四者四様の反応を示す。

 ……約一名お話にならないのがいるのはこの際置いておく。


「はぁ……まあ隠し事はある意味お互い様みたいなもんだし。この際仕方ねぇか」

 色々思うことはあるが、今回の件が『約束の子』の記憶に関わる話である以上、それは『魁』固有の記憶であり、そこに文句を言うことはそのまま自分に返ってくる。


「……でもこれで、五人全員の『約束の子』が明らかになったわけだよな?」

「ああ、そうだな」

「で、女性陣も全員俺たちの事情を理解してくれた……ならもういいんじゃないか?」

 そのため俺はそれ以上この件を追求することはやめ、話題を変えることにした。


「いいって……何がだ?」

「出るべき時は、出るべき奴が表に出た方がいいんじゃないかってことだよ」

「『戒』、オマエ……」

 『魁』の問いかけに対して俺が兼ねてより思っていたことを口にすると、『乖』が驚いたような顔でこちらを見る。 


「別にお前たちを気遣ってじゃない。でも、今のままじゃ『彼女たち』の為にならないだろう?」

「まあな」

「……そうだな」

「フン、何を当然のことを」

「確かにな」

 俺の言葉に、四人が次々に返す。


 ――折角『主人格』というアドバンテージがあるんだ。できることなら俺だってずっと表に出て天橋と一緒に居たいが、所詮それは俺の都合で、もはやそれが許される状況ではないこともよくわかっている。


「だからさ……ここで決めておこうぜ。自分の『大切な人』とは、『自分』で向き合うって」

 ならば今考えるべきは『自分』ではなく、『彼女たち』の為にどうすべきかである。

 そうして俺なりに考えた結果がこれだった。


「もちろん俺がそれで困る場合は容赦なく『主人格』のアドバンテージを利用させてもらう。だからお前らも好きにすればいい」

「……別に今までと大して変わらなくねえか? それ前におれが言ったことだぞ?」

「そうだな。でもそう『決めておく』のとそうでないのでは違うだろう?」

「……まあ、そうかもな」

 『魁』の問いに答えると、なにやら思うところがあったようだが最後は頷いてくれた。


「だから『快』、俺に松島さんとのやり取り押し付けるのやめろよな。事情があるならちゃんと話してやれ」

「……ケッ、わかったっつーの」

「『乖』、今度からハナと話すときは表に出してやる。俺にキレてる暇があったらあいつとちゃんと話してやれ」

「……言われるまでもない」

「『χ』……まあお前はいいか」

「おい、なんだその適当な物言いは!?」

「『魁』、一つだけ言っとくぞ。サトルは『俺たち』にとっても大切な家族だ」

「ああ」

「だから、あいつに関わることをお前の都合だけで全部決めるんじゃねぇぞ?」

「……わかったよ。可能な限りは情報共有するさ」

「ホントだな?」

「ああ、『約束』する」

 そうして俺は四人へ自身の思いの丈を伝え、こいつらもまたそれに応えてくれた。



「『約束』か……」

「なんだ、どうしたんだよ?」

 思わず零れた俺の苦笑に、『魁』が問いかける。


「いや、俺たちって本当にあの『約束』が大事なんだなって……」

 咄嗟の時にこの言葉が出てくるあたり、みんなよっぽどそのことを考えているんだろうなと思い、そう答えた時だった。


「それは違う」

 ふと『乖』が横槍を入れてきた。


「え?」

「『約束』が大事なんじゃない……大切な人との『約束』だから、大事にするんだろう。前提を間違えるな」

 俺たちが締め出しをくらった部屋――即ち『彼女たち』がいる部屋の方を指しながら、『乖』がそう口にする。


「あ~もう! いい加減ハッキリしてくださいな! 貴方たちみんな、『カイ様』のことが好きなんですわよね!?」

「わたしは……ごにょごにょ」

「えっと、あたしは……」

「あらあら、それはどうかしらね~?」

「そんな言葉で簡単に括らないでください! ボクの兄さんへの想いはもっと深く壮大なものです!」

 ――扉越しでハッキリとは聞こえないが、なかなかの舌戦が繰り広げられているようだった。



「……少なくとも僕はそうだし、お前らだってそうだろう?」

 俺たちを見回しながら、『乖』が尋ねる……だがそれは、問いというより確認に近い。


「ケッ、当然だ」

「フッ……言われるまでもない」

「ま、そうだな」

「……ああ、その通りだ」

 その問いへの『答え』が全員同じだということを、『俺たち』は互いに知っているからだ。



 ――そう、『俺たち』は知っている。自分がどれほど『彼女』が好きなのかということを。

 だから分かる。他の四人がどれほどにそれぞれの『大切な人』が好きなのかということを。

 『池場谷カイ(俺たち)』は……『大切な人』のことになると、『理性』なんて『壊れて』しまうということを。

 だって、『俺』は『こいつら』で『こいつら』は『俺』なのだから。



 ――理性(ココロ)が壊れるほどに、『恋』をしている。

 そんな『池場谷カイ(俺たち)』と『彼女たち』の物語は、まだ始まったばかりである。


これにて第1章終了となります。

お読み頂きありがとうございました。



本日夜の更新は特別編になります。

それを挟んで明日(5/21)より第2章更新開始となりますので、これからもよろしくお願い致します。

また、第2章からは1日1回の更新(毎日8:00)となりますので、ご承知おき下さい。


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