第68回 月下に集うー②
「風よ!」
ドガァァァン!!
「さあ、これで『ここ』はカタがついたわよ」
道を塞ぐ雑兵たちを一撃で薙ぎ払った後、サヤさんが手を払いながら告げる……相変わらずバカげた火力である。
「……前から思っていましたが、一体何なのです? 貴方のその『術』とやらは」
半分呆れながら、常々思っていたことを尋ねる……ハッキリ言って人間離れし過ぎている。
「……残念ながら、それは『企業秘密』よ。それに今は、そんなことを話している場合じゃないでしょう?」
この人はいつもこうだ……毎度意味深な発言をしてくれるが、その本当の意味を教えてくれたことは、数えるほどしかない。
「……やっぱり貴方のそういうところ、気に食わないですわ」
「フフ、それでいいわよ。別に『姉妹』だからって、仲良しこよしでいなきゃいけないわけじゃないもの」
「……フン」
彼女なりに考えがあってのことは分かるのだが……やはり気に入らないものは気に入らない。率直にそれを告げるも皮肉で返され、不貞腐れ気味に顔を背ける。
「まあまあ、二人とも抑えて抑えて」
「そうですよ? 早く皆さんを助けないと……」
「と、言ってもねぇ……」
見兼ねたハナさんとユキさんが仲裁に入る。しかし、それに対するサヤさんの反応は微妙だ。
「みんなが纏めて捕らわれている『ホール』は、かなり厳重に守られているわ。門番数人位なら私の『術』でどうとでもなるけど、無理に闘えばみんなを巻き込む危険性があるし、このまま乗り込むのはあまり得策じゃないと思うわよ?」
「そっか……」
「なら、どうすれば……」
実際彼女の分析は正しい。更にそもそも人質を解放したところで、ここは海の上である。下層にある救命ボートで脱出するという手段もあるが、あの人数全員が一度に乗ることなどできないし、正直パニックになるだけだろう。
「一つ、考えがあります」
そうして皆が頭を抱える中……わたくしは現状打破のため、ある案を考えていた。
「考え?」
「……はい」
首を傾げるサヤさんに、その『案』を語り始める。
「『彼ら』を……『ムーン・クライシス』を説得するのです」
それは――あの人を味方につける、ということだった。
「あの人を?」
「はい。母はこう言っていました……『彼ら』に全ての罪を被せて消えて貰う、と」
聞き返すサヤさんに答える……『それ』はつまり、彼らもまた利用されているに過ぎないということを意味している。
「そっか! ならその事実を話せば……」
「協力してくれるかもしれない。そういうことですね」
「……そう上手くいくかしらね?」
その案に、ハナさんとユキさんが即座に賛同の様子を見せる……だが一方で、サヤさんはやや躊躇気味だ。
「わかりません。ですが彼らだって……罪を被るのは本意ではない筈です」
ならば――話してみる『価値』はあるだろう。
「……わかったわ。じゃあ説得はルナちゃんに任せていいかしら。私たちは予定通りに、星さんがいる筈の艦橋へ行けばいいのよね?」
「はい、お願いします」
「わ、わたし達も!」
「うん。闘うのは無理だけど……できることがあればなんなり言ってよね」
わたくしの言葉に納得してくれたのか、サヤさんがその案を了承すると、便乗するようにユキさんハナさんからも威勢のよい返事が返る。
「ええ……頼みますわ」
「フフッ、いい心構えね……さて、準備はいい? そこの扉を開けたら、一気に行くわよ」
そうと決まれば――あとは実践あるのみ。
「途中までは私が道を拓くけど……後はアナタ次第よ?」
「……望むところですわ」
サヤさんの言葉に応え、大きく息を吐く。
そして、数秒の後――
バタンッ!
「さあ、行きなさい!」
「「「はいっ!!!」」」
その掛け声と共に――『わたくし達』は走り出したのだった。
――あれは、いつの頃だったろうか?
「なあ、タイヨウ」
「ん、どうした?」
「オレ……ツヨくなりたい。タイヨウみたいに」
その少年は語った……『自分の様』になりたいと。
「どうした? 急に」
「オレ、なにもできなかった。ヨワいから……まるではがたたなかった」
「……」
「だから、ツヨくなる。いつか……タイヨウよりも!」
所詮は子供の戯言だ。どれだけ『今』そう思っていようと、その想いが続くかどうかもわからない。続いたとしても、届かずに折れてしまうかもしれない。
「へぇ、言うじゃねえか……それはつまり、いつかオレを倒しにくるってことか?」
「うん。そしたら……こんどこそ、オレが!」
「そうか――待ってるぜ、カイ」
だがその少年の言葉には、それを信じたくなる『何か』があった。いや……今を思えば、そう信じたかっただけなのかもしれない。
あの日、少女の母親に会い、『彼』の事情を知った。故にきっと……知らず知らずのうちに、願ってしまっていたのだろう。
今はもう叶わぬ『闘い』の望みを――『彼』が叶えてくれるのではないか、と。
「……おっと、少し寝ちまってたか」
占拠した船の甲板にて独り黄昏れる中、その男――『八島太陽』は僅かな時間の眠りから目を覚ます。
「ったく……なんで『こんなこと』になっちまったんだか」
あの少年と闘うところまでは予定通りだった。だがその後――少年が『あんな目』に遭うことは、完全に想定外だった。
「結局は俺の失態、か……」
今回のことは全て『彼女』の依頼によるものだ。しかしこの結果は、『ムーン・クライシス』なる組織を先導した自分が招いたものである。
こんな筈ではなかった、などと――そんな言い訳が通用する筈もない。
「けど……なんでだ?」
しかし、どうしても腑に落ちないことがある。
「『あの男』……どうやってこの船に入り込んだっていうんだ?」
少年を刺した男は、昼間に自分が確保し警察に送り出したばかりの筈だった。
そんな男がどのような手段で……あの場に現れたというだろうか?
「……」
答えの出ないその問いに考えを巡らし――しばらくの時間が過ぎた頃だった。
「……ん?」
船の下部から、人が騒ぐ音が聞こえ始めた。
「なんだ……何かあったのか?」
起きている『何か』を確かめる為、甲板へと降り立とうとした、その時だった。
「見つけましたわよ!!」
聴き慣れた口調で甲高い『その声』が響き渡り――そちらの方を振り向く。
「……ルナか」
「ええ」
現れた少女の名を呼ぶと、凛とした返事が返る……ほんの数時間前に泣き喚いていたのが、まるで噓のようである。
「タイヨウさん……お話があります」
まっすぐな視線でこちらを見据え――少女はそう語りかけてきたのだった。




