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壊理性ラヴァーズ! ~実は俺は5重人格で、それぞれが別の女と幼い頃に結婚の約束をしていた件~  作者: 御手洗あんこう
第3章 爆発する学園祭(カーニバル・エクスプロージョン)
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第49回 分かたれし心ー②

「……」

 ――あれから十数分後。

 行く宛てもなく走り出したわたしは、気がつけば『時計台』まで駆け上がり、そこのベランダで独り風に吹かれていた。


「勘弁してよ……何なのよ、それ」

 誰に言うでもなく呟く――先ほど父親から明かされた真実に、わたしの頭の中は完全にグチャグチャだった。


「池場谷くんとわたしが……兄妹?」

 『彼』とわたしの父親が同じ。

 その事実が示すのは『そういうこと』であり……即ち、わたしと『彼』が結ばれることは許されないということを意味していた。


 過去から今に至るまでずっと大事にしてきた『約束』は――この瞬間、粉々に崩れ去ったのだ。


「こんな……こんなのって……!」

 ――そうして悲観に暮れていたその時だった。


「ユキ!」

「……ハナ?」

「よかった……ここにいたのね」

 親友であるその少女が、息を切らしてわたしの前に姿を現した。


「えっと……大丈夫?」

「……え?」

 恐る恐る尋ねられ、思わず聞き返す。


「その、さっきの話……」

「……う、うん! もう大丈夫!」

 言われて漸く何の話かを理解する。どうやら彼女はわたしを心配して駆けつけてくれたらしい。

 思えば先ほどのわたしは相当取り乱していた。どうしたことかと気になるのも当然だろう。


「……ホントに?」

「も、もちろんだよ! お父さんが絡んでる上に、ちょっと衝撃的な内容だったから、気が動転しちゃっただけなの」

「……」

「もう大丈夫。少し休んだら落ち着いたから」

 ――そう言って、必死に平静を装う。

 正直なところ、この話にはあまり触れられたくなかった。



「あのね、ユキ……」

「うん?」

 それは所詮は身内の話だからというのもある……だが何よりハナにはわたしと違って、『約束』が叶う可能性がある。

 もし今彼女からその話を切り出されたら、この心優しい親友に八つ当たりをしてしまいそうで――そんな最低な自分にはなりたくなかった。


「……ううん、なんでもない。さあ、戻ろ?」

「……うん」

 言外に訴えるわたし見て、何かを察したのだろう。ハナはそれ以上の追求はせず、わたしが歩き出すのを確認すると、そのまま黙って先を行き始める。


 今はただ……その気遣いがありがたかった。




「あ、天橋さん。戻って来た! どこ行ってたのよもう!」

 教室に戻ると既に準備は再開されており、わたしの存在に気がついた宝塚さんが駆け寄ってくる。


「ごめんなさい。ちょっと用事があって……それが長引いちゃったの」

「そうなの? なら仕方ないけど……まあいいわ。それより劇の主役の件、考えてくれた?」

「……」

「ねえ、もうそれくらいにしたら?」

 適当に誤魔化すも、特に疑われることもなく先程の話の続きになる……だがそれに対して考え込んでいると、不意にハナが横から口を挟んできた。


「ユキ、朝からずっと断ってたじゃない。流石にこれ以上の無理強いは見過ごせないよ?」

 食い下がる宝塚さんを、ハナが少々強めの口調で制する――やっぱりハナは鋭い。多分、なぜわたしが『この役』を嫌がっていたのかわかったのだろう。


「そうだね。ごめん、天橋さ……」

 ハナの雰囲気に押されたのか、とうとう宝塚さんが諦めようとしたその時――


「やります」

 わたしは、突如それまでと言動を一変させた。

 

「「えっ?」」

「やります……ヒロイン役、やらせてください」

「え、ええ。引き受けてくれるならもちろん歓迎するけど。どうしたの、急に?」

 突然の翻意に、宝塚さんが戸惑い気味に尋ねる……まあ先ほどまでずっと断り続けていたのだし、当然の反応だろう。

 

「……心境の変化があっただけです。ただ、一つだけ条件があります」

「条件?」

 次に出てきたわたしの言葉に宝塚さんが再び尋ねる。


「池場谷くんを主人公役にしてください。それがわたしがヒロイン役を受ける条件です」

 ――それに対して、わたしは条件と言う名の『ワガママ』を言い始めた。


「池場谷くん? あんまり主役のイメージじゃないんだけど……」

「ええ……それが受け入れられないならヒロイン役はできません」

 正直自分でも何様のつもりだろうとは思う。いくらヒロイン役だからって、キャスティングの権限など、わたしにありはしない。


「……まあヒロイン役の方が大事だし仕方ないか。わかったわ。それで行きましょう」

「……ありがとう」

 だがこの時のわたしには、もはや『そこ』にしか、自身の気持ちの落とし所を見出せなかった。

 もちろん宝塚さんにそんな事情を知る由はないが、それでも受け入れてくれたことには感謝しかない。


「ユキ……いいの?」

「うん、いいの。ハナもありがとう」

「……」

 急に言動が変わったわたしを心配してか、再び声をかけてくれたハナにも一言礼を告げる。


 ――そんな時だった。


 ガラッ。


「……」

 不意に教室のドアが開かれ、疲れ切った様子の池場谷くんが無言で入ってきた。


「あっ、池場谷くん。丁度い……」

「は~い、みんなちょっと手をおいて静かにして貰える?」

 それを見て宝塚さんが声をかけようとすると同時に、今度は松原先生が入ってきた。こちらも随分と疲れた顔をしている。



「ありえねぇ、マジありえねぇ……」

「ちょっと、どうしたのよあんた」

「……すぐにわかる」

「なにそれ?」

 整列して先生の言葉を待つ中、池場谷くんにハナが話しかけている。戻ってきた彼の様子は明らかにおかしい――どうしたというのだろうか?


「え~、突然ではありますがここで皆さんに転校生を紹介します」

「え、転校生?」

 そんな中、松原先生が口に出したその言葉に、教室がざわめく。

 ――転校生? 前に松島さんが来たばかりなのにまた?



「……さあ『4人とも』、入って頂戴」

 頭を抱えながら松原先生が扉の外へと声をかける。

 そして、足音と共に転校生たちが教室へと姿を表した、その瞬間――

 

「へ?」

「はい?」

「え?」

 それを見たハナ、松島さん、わたしの3人が、揃って驚きの声を上げる。

 なぜなら……

 

「紹介します。うちのクラスの『池場谷戒』くんの、ご兄弟たちです」


「「「えぇぇぇ~~~っっっ!?」」」

 そこには、池場谷くんと同じ顔をした『4人の男子生徒』が、立っていたのだから。


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