第6話 ローズのドレスショップ②
(ああ、今日はなんて素晴らしい日なのかしら!)
目の前に並べられた私の作品達を見ながら想像を巡らせる
(マリーちゃんは黒髪ロングで、肌は色白ね、目の色は淡い茶色だったわね、ちょっと自信なさげで俯きがちだけど、うふふ私にはわかるわぁ)
チラリと横目でマリーちゃんを見る、彼女はまだ目をキラキラと輝かせながらキョロキョロと店内を見廻している。
(こんなに夢中になってくれると、やり甲斐があるわね!何よりあの子は絶対光るタイプだわ!原石ね!ウフフ、磨くわよーピッカピカに磨いちゃうんだから!)
と言っても、原石を磨くには時間がかかる、一朝一夕ではいかないのだ、淑女は一日で成らず、この国の諺だ。
これから肌や髪の毛の手入れを行い、しゃんと胸を張って前を向くようになり、にこやかに微笑む淑女になれば、彼女が身につけているような紺のワンピースも似合うようになるだろう。
しかし、今の彼女にはまだ着こなすには早すぎる色だ。
(今の彼女には、身につけているだけで心が躍るような服が必要ね……でも派手なのはダメね、清楚な雰囲気な物が似合うわ)
急に、一人で、異世界へ落とされた彼女はどれほど怖いだろう。
だが人間は不思議なもので、綺麗な物を身につけるだけで、なんとなく明るい気持ちになれる。
だからこそローズにとって服は、人の心に寄り添う物でありたいと思っている。
(願わくば、彼女のこれからの人生が、平穏で明るい未来でありますように……)
「さぁ!マリーちゃんこのワンピースを着てみて頂戴な!」
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私は可愛らしい服が大好きだった。
子供の頃、母はよくフリフリのワンピース着せてくれた。
けど、両親が亡くなり叔母に預けられてから、生活は一変してしまった。
最低限の服しか着せて貰えず、新しいのも中々買って貰えないので、成長期にはいつもサイズが合わない服を着ていた。
同級生が皆、新しい服や、可愛いと有名な子供向けブランドの服を着ていてとても羨ましかった。
働き始めてからも、給料はほとんど叔母に取られて、交通費しか手元に残らない、それでも少しでも可愛い物が欲しくて、たまたま商店街で安売りされていた紺のワンピースを、お金をやり繰りして買った。
少し地味だし、生地は安っぽかったが、それでも可愛くてお気に入りだった。
それがどうだろう、今、鏡に映る私は、本当に私なのだろうか?
ローズから渡された服を持たされ、言われるがまま試着室で着替えてしまった。
鏡に映る私は、淡いミントグリーンのワンピースに、裾には銀糸で上品な刺繍が縫い付けられ、胸元はフリルのついた丸襟の白いブラウスに、少し大きめな白いリボンが揺れている。
生地もしっかりとして着心地もとても良く、さっきまで可愛いと思っていた、紺のワンピースとは大違いだった。
あまりの可愛らしさに嬉しくなり、鏡の前でくるくると回るが、はたと気付く。
「これ……めちゃくちゃ高い服じゃない!?ロ、ロ、ロ、ロ、ローズさぁぁぁん!!私お金払えないよぉ!」
慌てて試着室の扉を開けて飛び出すが、ローズは慌てている私を見て大笑いする。
「やぁねぇ!お金なんて取らないわよ!そもそも貴方ついさっきこの国に迷い込んだのに、この国のお金なんて持ってるわけないでしょう?心配しなくて大丈夫よぉーあーやだお腹痛いわぁ。」
「まぁ奥様!あまり笑ってはなりませんよ!淑女として淑やかに笑うのですよ!」
私が試着室で着替えている間に、ばあやがお茶の準備をしていたらしく、いつのまにかテーブルの上には、暖かな湯気が上がるお茶が用意されていた。
「うん!私の見立ては確かだったようね、とてもよく似合っているわ、素敵よ!マリーちゃんは気に入ってくれたかしら?」
「は、はいとても素敵で、まるで自分が自分じゃないみたいです。」
「ふふ、それは良かった、さぁ一段落ついたし、マリーちゃんも席についてお茶をしながら、これからの事を話し合いましょう。」