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ネロとエリザベスと家族達

昨日更新できなくてすみません。

◇◇



「エリザベス、貰って来た仔猫の様子はどうだね」


 夕食の後、家族だけになった居間に入りながら、ダンテスが問いかけた。

 仔猫を連れ帰った事自体は執事から帰宅した父に伝えてあり、飼う事も許してもらっているのだが、今日の父と兄は帰宅直後に急ぎ済ませなくてはならない執務があったので夕餉まで顔を合わせていなかった。


 晩餐は共に過ごしたが、食堂や他の場所では王宮から来た護衛や侍女、毒見役が付くので当たり障りの無い話題のみ、彼らの前では素顔を隠しにくくなる猫の話題は出さないように頼んでいるので、淑女らしく振舞いながら飼育許可の感謝を伝えただけだった。


 ここだけは家族のみで過ごす事を許されている居間から食後の菓子と茶の毒見を済ませた毒見役が出ていくと、エリザベスは姿勢正しく座っていたソファから立ち上がってぱっと顔をほころばせる。


「とても元気よ! それにとてもとても可愛いの! お父様とお兄様にもお見せするわね!」


 弾んだ声で言いながら、アンナに頼んで予め居間に運ばれていた猫の籠を開き、こちらを見上げたネロに微笑んでから抱き上げた。

 ちなみに、婚約者となる事が決まるよりも前、その可能性が浮上した時点でこの部屋には密かに防音の処理が施されており、外には殆ど音が漏れない作りになっている。


「さぁ、見て頂戴! わたくし、こんなに可愛い猫ちゃん初めて見たわ!。ネロと言う名前を付けたのよ! ね、可愛いでしょう!」


 輝く様な笑顔で差し出された猫を、二人は見た。


「ああ、とても可愛い仔ね……こ……??」

「……個性的な顔立ちの仔猫だね……???」


 エリザベスの手の中でぷにゃあ、と声を上げた仔猫を見た二人はそれぞれに戸惑いの声を上げると、エリザベスは頬を膨らませる。


「お父様達まで! エイダもメラニーも、他の護衛達も皆そんな反応なのよ。こんなに可愛いのに……ねえ、ネロ?」


 小さなお尻を支えて前に突き出していたネロを腕の中に収め直し、不服気な声で言いながら見上げる仔猫の顔を覗き込むエリザベスは文句のつけようもない程に愛らしいが、如何せん仔猫の方はなんとも言い難い、独特な顔立ちと仔猫らしからぬふてぶてしさを持っていた。


「いや……ああ、その、確かに全体的に小さくて可愛いな……?」

「うーん、この短い手足は可愛いかもしれないなあ……? 仔猫ってこういう感じだったっけ?」


 戸惑いながらも、目に入れても痛くない程可愛い娘、妹の意見は尊重しようとそれぞれに良さそうな所を探して口にする。

 腕の中の仔猫を覗き込むと、青っぽい垂れ目がこちらをじとりと見て、再びぷみゃあ、と鳴いた。

 彼らが間近に知る猫と言えばマリー位な物で、マリーは一般的な観点からすれば美猫の部類に入る。


 そんなマリーを基準にし、王宮の庭や公爵邸の庭などで遠目に見た仔猫の姿を考えても、ネロと名付けられたこの仔猫の姿はかなり個性的に思えた。


「お兄様! この子の足はごく標準的な長さですのよ。少し骨太だから短く見えるだけですわ。ねえ、ネロ?」


 兄の言葉をたしなめたあと、にっこり微笑んでネロに頬ずりするエリザベスは正に天使のようだったが、頬ずりをされている仔猫の表情はあまりにふてぶてしく、二人が想像していた、可愛いエリザベスと可愛い仔猫で天井知らずになる予定だった光景とは何かが違った。


「そうなのかい? でもまあ、そのふくふくした足は可愛い、というのは本当だよ?」

「それはわたくしも認めますわ。とてもふくふくしていて可愛らしいですもの。触るともこもこしていますのよ。お父様もお兄様も、どうぞ触ってみてくださいませ。ああ、引っかいたりはしませんわ。先程マリーとも合わせたのですけれど、すぐに仲良くなって一緒に眠っていたの。とても賢いのよ」


 侍女や護衛達とは既に顔合わせを済ませ、引っかいたりも怯えたりもしない事が解ったので薦めてみると、二人は驚かせないようそっと手を伸ばしてネロに触れる。


「む……これは……確かにこう、マリーよりも弾力があって……気持ちいいな」

「なんと言うんだろう、骨太なのだとは思うけれど、それ以上に弾力が……確かに気持ちいい」


 内心では首をひねり続けていたものの、触れてみれば確かに不思議な感触で気持ち良い。

 こんな所に惹かれたのか、とも思うがどうやらエリザベスは本気でこの仔猫を世界一可愛らしいと思っている様なので、虎の尾は踏まないよう、顔立ちへの言及には蓋をした。


 社交界で様々な女性達と言葉を交わしている二人は、この類の個人の嗜好に男性が口出ししたとてロクな事にならないのを良く解っている。

 そんな事をすれば気が強い御夫人はすぐさま反論してくるし、気の弱い御夫人はその場では何も言わないが一生忘れない、

 男性でもそういった事はあるが、まだ男性の嗜好は同じ男なので理解出来るものの、女性の嗜好は解らない部分も多いから口出ししないに越した事はない。


 この猫も、エリザベスが可愛いと言い、エリザベスに懐いてくれて、苦労の多い彼女の慰めになってくれればそれで全て事足りるのだ。


「うん、なんだか見ているうちに可愛く思えて来たね。エリザベス、不足しているものがあれば何でも揃えさせるからね」

「父上だけじゃなく、僕にも頼んでいいからね。そういえば、猫を遊ばせる塔のような物があると前に言っていたよね。マリーは使わないと言っていたけど、この子なら使うかな?」


 以前エリザベスが言っていた事を思い出したフランツが首を傾げて言う。

 大人しいマリーはあまり運動もしなかったが、仔猫ならばこれから活発に動くだろうから猫を遊ばせる大掛かりな玩具も使えそうに思える。


「確かにそうだわ……この子も大人しいけれど、さっきはわたくしのお部屋の色々な隙間や高い棚の上まで上がって探検していたの。猫の塔があればきっといい運動になるわね」


 初めて連れてこられた場所に委縮する事無く、ぽってりとした体で器用に飾り棚や書棚の上を歩き回っていたネロの姿を思い出してエリザベスが頷いた。


「マリーの物を買う商人なら扱っているかな。仔猫の為の品物を明日持って来る様伝えてあるけど、今夜中に猫の塔の見本か図録も持参する様伝えておこう」


 父の言葉に頷いた兄が立ち上がり、扉の方へ行くと少し扉を開き、外に控える執事にそれを伝える。

 既に夕餉も済んだ時間だから出来るだけ早めに連絡した方が、明日早朝に突然言われるより先方の為にも良いだろうとの判断だった。


「ありがとう、お父様、お兄様。良かったわね、ネロ。あなたの為に、お父様達が素敵な物を用意してくださるのよ」


 微笑んで言い、ふてぶてしい顔の仔猫の頬に軽くキスをするエリザベスはやはり愛らしく、二人は相好を崩す。


「……でも、少し心配なの。ネロと一緒にいると、どうしても愛らしさに顔が緩んでしまって……。淑女の微笑みを保たなくてはいけないのに」


 溜息を零すエリザベスの頭を、ダンテスが微笑んで撫でた。


お読み頂きありがとうございます。

少し体調が悪く、更新が遅くなりました。すみません。

評価、ブクマ、感想、誤字報告などいつもありがとうございます。

昨日ふく〇君と言いましたがよく考えると柄的にもふく〇君の先輩の方が似てた気がしました。

ちょっと仕事の繁忙期に入るので毎日更新が難しいかもしれませんが、出来るだけ更新する様がんばります。

宜しくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] わーかーるーーー!!! ふとましい猫こそ至高…!むっちりした猫の肉球を触る悦楽は一度味わったら止められないですよね…!! 麻薬のような快楽を味わってしまったら、もう最後…八割れの上にソック…
[一言] 部屋を改造してのキャットウォーク張り巡らせまったなし?
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