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【連載版】悪役令嬢は王子様より猫と一緒に暮らしたい  作者: ねこやしき


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25/32

彼女を取り巻く者達1

短めです。

◇◇


「エイダさん。お嬢様、お昼寝されておりますのでしばらくは無音かと」


 そっと扉を開いたアンナの言葉に、扉の外に控えていたエイダは頷いた。


「ありがとう。……かなりお疲れの様ね……」


 気遣う声に、アンナが苦笑して頷く。


「ええ……。お嬢様は、昔から頑張り屋ですので。もう少し、肩の力を抜いて下さると良いのですけれど」


「肩の力の一因としては歯痒いばかりだけれど……責任感の強い方ですものねぇ……」


 六年かけて未だエリザベスの心を開けていないエイダが溜息を零した。

 アンナや他の使用人達は既にエイダやメラニー、護衛の者達とも長年の顔なじみとして打ち解けているし、相手によっては休日を共に過ごす位の仲になっているのだが、肝心のエリザベスが彼女らに心を開けていない、それどころか本来の表情すら見せたことが無い程常に張り詰めている。


 エイダ達としてもエリザベスの行動や情報を逐一報告する義務があり、エリザベスもそれを熟知しているため、心を開いてくれる様仕向けるのも難しい。

 エリザベスが人生経験をある程度詰んでいる十代半ばの少女か、反対にもっと幼かったり王妃になる事に憧れるばかりのありふれた子供であればうまく折り合いをつけるなり、言葉巧みに信頼する様誘導したりも出来ただろう。


 しかし初めて引き合わされた七歳の頃、既にエリザベスは非常に思慮深く、己の責任を子供ながらに理解し、エイダ達が負う任務も、その任務を持つ彼女らの前で自分がどう振舞うべきかも理解していた。


 顔合わせの前は、高位貴族の親の溺愛を受ける七歳の子供の相手をし、機嫌を取りながらその動向を報告する任務は多少憂鬱なものになるだろうと思っていた彼女らは、七歳とは思えぬ程落ち着いたエリザベスの姿に驚きを禁じ得なかった。


 公爵の口出しで侍女と護衛の選定に時間が掛かり、先に王妃教育が始まっていた事もあってか、カーテシーはデビュタントを済ませた令嬢を凌駕する様な見事さだったし、表情には幼い子供らしい強い感情の起伏が無く、常に微笑みを浮かべて無礼な言葉もにこやかに躱す。


 王族や高位貴族の夫人であっても寛いで過ごして構わない自室の中でも、少なくともエイダやメラニー、護衛がいる間は一度たりとも姿勢を崩さず、王妃教育に必要な本を読むか淑女教育の一環であるレース編みや刺繍をしながら穏やかに微笑んでいた。

 もっと幼い頃から傍についているアンナに対してはほんの微かに声に籠る色が違うが、最初は彼女が本当に生きた七歳の少女なのか、本当は人形を魔法で動かしているのではないかと疑った程だ。


 エイダには妹がいるが、少なくとも妹は七歳の頃あんな落ち着きは持っていなかったし、気に入らない事や言葉では説明出来ない憤りがあると癇癪を起こして泣き喚くのも子供なら普通の事だ。

 それなのにエリザベスはこれだけ規制の多い、大人から見ても窮屈すぎる生活を送りながら一度たりとも言葉を荒げず、多少何かを望んでも、茶を淹れて欲しい、だの菓子をもう一つ、だの、その程度。


 最初の頃はいっそ不気味にすら思っていたが、ある時、元々彼女が可愛がっているという庭師の飼い猫が部屋に連れてこられた時に、その印象は変わった。


 表情は相変わらず崩れないし、姿勢も正しいまま、しかし声に明らかな感情の色があった。

 猫の名を呼ぶ声は愛し気で、微笑みがいつもより深い。

 膝に乗ってくつろぐ大人し気な茶虎の猫を見下ろすまなざしは慈しみに溢れていて、時折猫が愛らしい仕草をすると抱きしめたいのを堪える様に肩や指先が震えるのが見えた。


 そういえば最終選考の折に公爵からそれとなく猫に対してどう思うかを聞かれ、実家でも猫を飼っているし好きだと答えた。

 採用となり、公爵邸に赴いた折に令嬢が使用人の飼う猫を可愛がっている事、部屋に連れて来る事もあるしその猫が庭を歩いている事もあるが、その猫を含む他の動物……飼育、野生を問わず、彼らに対しても公爵家の財産として丁重に扱うように、と言われていたことを思い出す。


 思えばエリザベスの部屋には猫の置物やぬいぐるみが幾つか置かれているし、外には持ち出さないものの気に入っているらしいポーチは、どこで手に入れたものか如何にも庶民的な素朴な作りの猫の刺繍のものだ。


 それを念頭に置いて観察すると、マリー以外の猫が窓の外に見えた時、王宮で王子殿下が飼う犬に囲まれた時、ほんの僅かだが鉄壁の微笑みの中にいつもより和らいだものが見えた。


 どうやら動物全般が好きなようで、しかしそれを抑え込んで自分の義務を果たそうとしているのだと理解してからは、彼女を不気味な存在とは思わなくなり、むしろ健気な少女と思うようになった。

 同じ頃にメラニーや他の護衛達もその実体を感じ取った様で、次第にエリザベスへの対応が任務以上に丁重で、親身なものに変わっていく。


 そうしてこの六年で、エイダ達は自身が王宮に雇われている身であり、その任務に就いているのでさえなければエリザベス自身に忠誠を誓っても構わないと思うほど彼女を評価し、好意を抱く様になっていた。


お読み頂きありがとうございます。

ブクマ、評価、感想、誤字報告いつもありがとうございます。

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明日も13時更新予定です。よろしくお願い致します。

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