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【連載版】悪役令嬢は王子様より猫と一緒に暮らしたい  作者: ねこやしき


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彼女の知らない場所でーマーガレットといつかの侍女

誤って13時に前の話と同時刻に投稿してしまいました。

本日もう一話投稿しておりますので前の話からお読みください。

こちらは転生ヒロインマーガレットの視点です。

◇◇


「すごいわ……本当に私、乙女ゲーム転生しちゃったのね……私、マーガレット・レントになったのね……」


 王都の片隅のとある屋敷で、少女が呆然と呟いた。


 淡いピンク色のふわふわとした髪に春の新芽の様な柔らかな緑の大きな瞳、白い肌に甘く整った顔立ちの、砂糖菓子の様に愛らしい少女が鏡の向こうからマーガレットを見つめ返している。


 先日まで幼くして父を亡くし、商店で働く母と二人で平民として暮らしていた彼女は、十三歳にして母の再婚によって裕福な新興男爵家の娘となった。


 再婚相手の男爵は妻に先立たれた男性で子供はおらず、元々母は没落した子爵家の令嬢なので、実父は平民とは言え血筋にも大きな問題は無いとしてマーガレットもそのまま連れ子として引き取られたのだが、それによって、これまでただのマーガレットだった自分の名が、マーガレット・レントになった。

 その名に妙な既視感を抱きながら、平民の家にはまず置いていない高価な鏡を覗いた瞬間、頭の中に見知らぬ誰かの記憶が流れ込んできたのだ。


 混乱しているうちにその奔流は収まり、気付くとマーガレットは、マーガレット・レントであり、同時に日本人・結崎茉莉花でもある少女に変貌していた。


 かといって、自分が変わったと言う感覚ではない。言ってみれば、物心つかない頃に行った場所や近所に住んでいた人を、何かの拍子に思い出した様な、その程度のものだ。

 入学したばかりの中学校の通学中に事故で死んだユウザキ・マリカは確かに自分で、そしてマーガレット・レントも結崎茉莉花である、その思考に矛盾はなく、すとんと受け入れる事が出来た。


 しかし、それとは別に思い出した事の方が重要だった。


「愛☆プリのヒロインに生まれ変わるとか……勝ち組じゃない……! あ、でもざまぁパターンの可能性もあるよね。悪役令嬢って誰だっけ……そうそう、エリザベス・レリックよね。あの我儘で超傲慢残虐な物凄い美人。扇子や紅茶のカップを投げつけてきたりするんだよね」


 少しあやふやな記憶を引っ張り出しながら呟く。

 この世界は『愛されて☆プリンセス』というベタなタイトルにベタな設定の乙女ゲームの筈だ。

 庶民でも知っている王子様の名前は同じだし、自分の姿も少し幼いだけで同じ。

 レリック公爵と言えば有名な公爵なのでこれもやはり知っているし、王子の婚約者がその娘のエリザベスと言うのも、良く知られている。


「……噂だと凄く慈悲深くてきれいなお姫様、って事だけどほんとかしら。権力で上手く噂流してるとか? そうじゃなかったらあれよね、よくある私がざまぁされちゃう奴よね。そういえばこの家、レリック公爵家で働いてたって侍女がいたっけ」


 ふと思い立ち、廊下に出ると使用人の姿を探した。

 今まで平民だったマーガレットとしても茉莉花としても使用人と言う存在には慣れないが、お店の店員と同じ位に考えればどうにか対応できるだろうと思いながらしばらく進むと別のメイドに行き当たり、目的の人物の居場所を尋ねる。

 ちなみにこの世界ではメイドは屋敷の共用部分や全体の掃除や洗濯などを担当していて、侍女は貴族女性の身の回りの世話やその私室の管理などを担当しているらしい。


 厳密には良く解らないが、侍女の方が身分が高く、公爵家などになれば侍女になるのも男爵家や子爵家の娘になるし、王宮ならば伯爵家の令嬢すらいるらしい。

 この家は新たに父となった人の一代前に興った新興男爵家なので、侍女も当然商家や少し裕福な平民だそうだが、その侍女は元々男爵令嬢だったと聞いている。

 どうして同じ男爵位の家で働いているのかは知らないが、あまり評判が良く無いらしいと母が言っていた。


 どんな人だろうと思いながら教えられた客間に行くと、少しきつめの顔立ちで、二十代半ば程の中肉中背の侍女が来客用のソファに座ってさぼっている。


「ねえ、ちょっと聞きたい事があるんだけど」


 問いかけて振り向いた侍女の顔に、少しだけ顔を顰めた。

 この屋敷に来てまだ二日だったが、侍女の中で一番マーガレットを馬鹿にしている侍女が件のレリック公爵家で働いていたという侍女だと今解ったのだ。


「なんでございますか、お嬢様」


 言葉は丁重だがさぼって座っているソファから立ち上がらない侍女に胸中で苛立ちながらも、情報は必要と考えて努めて友好的な笑顔を作った。


「あのね、王子様の婚約者の事を聞きたいの。あなた、レリック公爵家で働いていたんでしょう? 噂通り慈悲深いお姫様なの?」


 如何にも王子様の婚約者に憧れているだけ、と言う風に聞くと、女は眉を顰めてから、はっ、とあざ笑った。


「……私が言ったって言わないなら聞かせてさしあげてもよろしいですけどねぇ」


勿体ぶった言い方は不快だが、とりあえず頷く。


「もちろん誰にも言わないわよ。どんな人だったの?」


 出来るだけ無邪気な風に問うと、女は侮蔑の表情を浮かべた。


「そりゃもう我儘で我儘で、公爵様も甘やかし放題だからなんでも自分の思い通りになるって思ってるどうしようもない御令嬢でしたよ。何かあるとすぐに物を投げつけて来るから、熱い紅茶で火傷した侍女までいたんですよ。屋敷中の使用人が皆嫌ってましたけどねぇ、なんせお嬢様の気に入らない人間はどうなるか解らないですもの。皆黙って言う事を聞いてましたよ。私はもう我慢出来なくて一言ってやったら首にされて、まともな屋敷じゃ働けなくされてしまって。あれじゃ王子様もおかわいそうですよ。きっとお嬢様が公爵様にねだって無理矢理婚約したんでしょうねえ。あんなのが王妃になったらこの国はおしまいですよ」


 立て板に水とばかりに罵倒する女の顔は造作ではなくにじみ出る感情故に醜かったが、その言葉から得られる情報は結崎茉莉花として持っているゲームの情報と一致していた。


「そうなんだ……大変だったのね。教えてくれてありがとう」


 情報には感謝しつつ、昏い感情を言葉にしてまき散らす女とあまり親しくしたいとは到底思えなかったのでそこで切り上げて客間を後にした。


「やっぱり我儘な子なのね……。じゃあ、ざまぁされる事はないのかな。王子様かっこいいし……あのゲームの最推しだし、頑張っちゃおっと!」


 すっかり安心したマーガレットは、結崎茉莉花であった頃に好きだったエルンストとの恋を思って心を浮き立たせる。

 この世界で生きて来たマーガレットも庶民の娘であり、結崎茉莉花に至っては異世界の、それも同じ年頃で死んだ庶民の娘だったから、王妃と言う立場に付きまとう責任や使命には思い至れなかった。

 何よりゲームの中では無事エルンストと結ばれれば大勢に祝福されて結婚式を挙げるまでがメインで、その後については夫にも国民にも愛される王妃として生涯を送った、と簡単なモノローグが流れる程度。


 前世も今世も家族仲の良い家庭に生まれ育ったし、母と再婚した男爵も優しい人で良好な関係であっために、庶民であっても結婚に絡んで発生する苦労も想像すらしていなかった。


 そして、かつてレリック家から暇を出された侍女の言葉は、確かに彼女が屋敷を出た当時の情報としては正しかったが今となっては遠い過去の話でしかない事も勿論知る筈が無い。

 更に言えばあの侍女の働く場所についてはあれ以降公爵家の関心は寄せられておらず、実際は紹介された伯爵家から再度の失言で暇を出され、それを繰り返した結果別の貴族の怒りを買って子爵位の家や歴史がある男爵家では彼女を雇う家が無く、実家にも見捨てられた結果、うわさに疎い新興男爵家であるレント家に雇われたのだが、本人はそれを全てレリック公爵家とエリザベスのせいだと思い込んでいた。


 マーガレットも侍女も知らぬ事だが、彼女は既にその勤務態度の悪さ、レント家よりも歴史のある男爵家の出である事を鼻に掛けた他の使用人への横柄さ、そして妻の連れ子であり、数日前まで平民だったマーガレットに、最初の挨拶の時にあからさまに侮蔑の目を向けた事で解雇が決まっている。


 レント家を出された後は平民の中で働く事となったが、その解雇もまた公爵家の差し金と思い込んだ女は時を経てマーガレットと王太子の噂が流れた折、いかにエリザベスが我儘で傲慢な最低な令嬢かを吹聴して噂を後押しする事となる。

 そしてその噂の出所を調査し、過去の発言についても知ったダンテス及びフランツの怒りを買って闇に消える事になるのだが、家族にも見放され、その時の職場でも煙たがられていた彼女を探す者はいなかった。



この度はお読みいただきありがとうございます。

明日投稿のつもりが設定を間違えて本日投稿してしまいました……。

明日分明後日分あるから大丈夫、とたかをくくっていたのに今日の夜は徹夜です。つらい。

最初にアップしていたものを慌てて消したのですが、その際本文をコピーし忘れたため、WORD版を改めて加筆修正しています。

なので最初にお読みいただいた物と若干違うかと思います。すみません。

マーガレットがどんな風になるかについては今後のお楽しみに。

侍女は名前もありませんが、真面目に働いていれば普通に親の紹介で結婚して暮らしていけたはずだったと思います。


感想、ブクマ、評価、誤字報告いつもありがとうございます。

今夜の徹夜の励みになりますので何かしら反応頂けるとうれしいです。

明日も13時更新予定です。よろしくお願いします。

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