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【連載版】悪役令嬢は王子様より猫と一緒に暮らしたい  作者: ねこやしき


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決意2

短めです。重い話はこれで終わりです。

「勿論だよ。この居間には監視も入れさせない。七歳の子供から家族の団欒を奪う様な非道を働くなら、いっそ国を捨てたって構わないと言ってあるからね。……幸い、どんなに早くとも結婚は十八の学園卒業後だ。それまでに他の候補者の問題を解決させたうえで、政治的にそちらの方が好条件になれば王子の感情など二の次三の次だからね」

「父上、いっそ殿下に他の令嬢を見初めさせるのも手じゃないかな。中立派の娘なら伯爵令嬢以上ならどうにか出来るよ。殿下さえ強く望めば父上か他の候補の所に養子に入れればいいし。……エリザベス。エリザベスは今日会ってみて、殿下を好きになったかい?」


 兄の問いかけに首を傾げ、思い出してみる。


「……どうだったかしら。エメルダとディーンとハイド……殿下の犬たちね、あの子たちがとても可愛かったのはよく覚えているの。でも他はあまり覚えていないわ……。あ、でもわたくしが遊んでいたかわいい黒猫ちゃんを追い払われてしまったのは覚えているわ。わるぎはなかったようだから、しかたないけれど」


「……犬以下かぁ……。エリザベスが殿下を好きならそのままでも良いかと思ったんだけどなぁ……。猫はね、昔手をだしてひどく引っかかれた上に、高熱を出してしまったから苦手な様でね。子供にはあまり治癒魔法を使わない方がいいから、自然治癒に任せて四日ほど寝込んでからやっと医師の判断で魔法を使ったけれどかなり辛かった様でね。まあ、殿下なりにエリザベスを庇おうとしたんだろうから、そこは許してあげて欲しい。決して悪い方ではないんだよ」


苦笑しながらの兄の言葉に、黒猫を思い出しながら膝の上に乗ったマリーを撫でつつエリザベスは頷いた。


「それも聞いたわ。運が悪かったのだからしかたないし、わるい方ではないのも、わかっているわ。犬たちも良くなついていたし……。でも、あの黒猫ちゃん、とても可愛かったからざんねんなの。」


 太い手足や大きくて少し硬めの黒い肉球、琥珀色のつぶらな瞳を思い出して嘆息した。


「……まずは殿下に、猫は無理でもせめて犬よりは好かれる様努力……しても難しいかな。せめて動物の次位にはなってくれれば私達も諦めがつくし、エリザベスも頑張れるのだろうが……」

「……正直な所余程の事がないと無理じゃないかな。殿下ではなくても、エリザベスが動物以上に誰かを好きになるとは思えないよ。王子妃の候補でさえなければジグムント辺りから婿を貰うのが一番良かった気がするな。父上が今対応している件でも、貴族同士の婚姻の話が出ていたんでしょう?」


 どう考えても動物より異性を愛するエリザベスが想像出来ず、父と兄が目を見合わせて嘆息する。


「ああ、あれか……。嫁に出すには遠すぎるから却下としても、こちらに婿入りさせてうちの爵位の一つと見合った領地をエリザベスの財産として贈与する、と言う形で出来れば良かったのだがね……」


 父と兄の会話に、エリザベスは首を傾げた。


「ジグムントって、うみを渡ったおとなりの大陸の国だったかしら。ええと、たしか獣人の国って聞いたわ」

「良く知っているね。ジグムントは獣人の国でね、特に猫科の獣人が多いんだ。今の国王も獅子の獣人でね。今まで国交は余りなかったのだが、ジグムントが隣国を吸収して領土を広げて、レンドールへの航路がある港を手に入れたから、国交を結んで交易行いたい……国同士で仲良くして、物の売り買いをしたい、と言って来てね。今、第三王子と第四王子が王宮に滞在しているんだ。獣人なら、エリザベスも気に入るかと思っていたのだが……ままならないものだ」


 嘆息する父の言葉に、首を傾げる。

 獣人と言う言葉は知っていても詳しい事はまだ習っていないエリザベスの脳裏には猫や犬が服を着て二本足で歩いている姿しか想像出来ず、とても可愛らしいとは思うが結婚相手と言われると首を傾げざるを得なかった。


「お父さま、良くわからないけれど、どのみちわたくしはレンドールの王妃さまになるしかないのでしょう? 獣人の方にはきょうみがあるけれど、その方たちと結婚はできないわ」


 実際の獣人の生態……人間と寸分変わらない姿と半獣としての耳や尾、牙や爪、或いは鱗を持つ姿、更には完全に獣化した姿になれる人間であると知れば是非嫁ぎたいと希望したのだろうが、それを知らないエリザベスはそれで話を打ち切る。


「そうだねぇ……。とりあえず、お父様とフランツはどうにかお前の婚約を解消できるよう手を回してみるが……正直な所難しい話だ。派閥の関係で、私では手を出せない部分も多いしね」


 溜息交じりに父が言う。


「何より大切な娘に幸せになって欲しいと言う気持ちが一番だけど……客観的に考えれば、エリザベスであれば、良い王妃になれると私は思う。危険は増えるが、何があってもお前を守るし、王妃になってもならなくても、私達は一生エリザベスの一番の味方として手助けしていくよ。お前も、殿下と出来るだけ良い関係を築いて、幸せになれる様努力して欲しい。……エリザベスなら、出来るね?」


 じっと見下ろす父の目に、エリザベスはその言葉を良く考えてから頷いた。


「ええ。……わたくし、どりょくするわ。お父さま、お兄さま……ありがとう……」


 囁くような声音で言い、父に抱き着くと、優しい腕が抱き締めてくれ、兄の手が頭を撫でてくれた。


父と兄の助けがあれば、この試練もきっと乗り越えられる。

 それでもこれから変化する日常と、背負うものの重さを思うと怖ろしく、エリザベスは父の体にしがみ付く。


 その不安を感じ取ってか、膝の上で大人しく寝そべっていたマリーがそっと立ち上がり、エリザベスに身を寄せた。


「マリーも、わたくしを助けてちょうだいね。あなたがいれば、辛くてもがんばれるとおもうの」


 今日、エリザベスとお揃いで買って来たリボンを付けた優しい猫の慰めに微笑み、その頭を撫でると父と兄も同じように微笑んでマリーの背を撫でる。


 父の胸に頭を預け、マリーの口吻を指の腹で撫でながら二人を見上げれば、一対の緑の瞳がエリザベスを見下ろして笑みの形に眇められ、それぞれに額に口付けを落としてくれた。


 世界で最も安心できる場所にいる事に安堵し、ひと時ながら不安から解き放たれたエリザベスは瞼を閉ざし、マリーが喉を鳴らす音と父の胸から伝わる穏やかな鼓動に耳を澄ませて穏やかな時間を噛み締めた。



お読み頂きありがとうございました。

昨日のと一本にまとめるつもりでしたが少し長くなったので切りました。

ブクマ・評価・感想・誤字報告、いつもありがとうございます。

明日は別キャラ視点で13時くらいにアップ予定です。よろしくお願いします。

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