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【連載版】悪役令嬢は王子様より猫と一緒に暮らしたい  作者: ねこやしき


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王子と、その幼馴染達とエリザベス、そしてわんこ

王子達は普通に良い子です。悪い子じゃないんです。


「大丈夫だったか? 猫はすぐにひっかくのだ。私は以前ひっかかれて、熱を出して寝込んだのだぞ。危ないところだったな」


 歩み寄って来た少年は得意げな顔で胸を張る。

 その言葉からして悪気があったわけではないのだろうし、恐らく以前聞いた事がある、猫ひっかき病に運悪くかかってしまったのだろうと思えば責めるにも責められないので怒りの矛を収めた。


 改めて見れば、彼はエリザベスより少し落ち着いた色味の金の巻き毛と春の空の様な水色の瞳の整った顔立ちの少年で、深緑の絹繻子に金糸の刺繍が美しい、中級の貴族なら正装になる程の金がかかるだろう服を纏っている。

 絹繻子にも等級は様々にあるが、少年が身に着けるそれは上質な絹で丁寧に織られた品の有る光沢によって一目で最高級品と解った。

 エリザベスが軽いお呼ばれの時に身に着ける程の品を明らかに普段着として……それこそどこで遊んできた物か、服の端に草の葉や実を付ける様な状況で着ている、金の髪に水色の瞳の少年、それも王宮の庭園で、明らかに他所から連れて来た物ではない、血統の良い数頭の犬を連れている、となればその正体は一人しか浮かばなかった。


 ちらりと目をやると、エリザベスが猫と楽しく遊んでいた姿を知っている侍女や護衛が少年に付き添う護衛と侍女の横で申し訳なさげな顔をしていて、それでも少年を止めない所から推察を確定に変える。


「……ありがとうぞんじます」


 不承不承ではあるが心配されたのだし、と頭を下げると、少年は頷いた。


「きみが無事でなによりだ。……私はエルンスト。第一王子だ。きみは初めて見かけるけれど、どこのごれいじょうだろうか」


 少し離れた場所で礼儀正しく足を止め、人懐っこさげな犬達を纏わりつかせる少年から問われ、推測通りであった事に胸中で溜息を零しながらも立ち上がると微笑みを浮かべる。


「お初にお目にかかります、殿下。わたくしはエリザベス・レリック。レリックこうしゃく、ダンテスがむすめにございます」


 名乗りと共に、エリザベスは教師からも絶賛の及第点を貰えたカーテシーを披露した。


「ダンテスの! いつも彼からまな娘の話はきいている。とても優しくてあいらしい、天使のような子だと」


「まあ……お父さまったら……おはずかしいかぎりですわ。」


 父の親馬鹿が王族の元にまで届いていると聞けば流石に羞恥で頬が染まる。


「恥ずかしがることはない。うわさに聞いていた通りのごれいじょうだね」


 にこりと微笑む少年はまさに絵本の王子様、というべき容貌だったが、善意故とは言え猫を追い払ったのでエリザベスのからの評価は今一つ上がらない。

 それでも悪気は無かったのだし、君主の子であり、後々この国の王となる相手だから丁重に対応せねば、と思いながら言葉を交わしていると背後から別の少年達が近づいて来るのが見えた。


「あら……あちらは殿下のごゆうじんがたでしょうか」


 それぞれに身なりの良い、そして幼いながらに見目麗しい三人の姿を示して言えば、エルンストが顔をほころばせる。


「ああ、彼らは私の友人だ。しょうらいの側近こうほでもある」


 言いながら手を振ると、少年達も笑みを浮かべて足を速め、こちらまで歩み寄って来た。


「オーガスト、アルフレッド、シエル。良く来たな」


 親しみのこもった声音でエルンストが声を掛けると、少年達は礼儀正しく一礼しながらもすぐに砕けた笑みを浮かべてからエリザベスを見た。


「ごきげんうるわしゅう、殿下。こちらのごれいじょうは……?」


 黒髪青目の理知的な顔立ちをした少年が問い、その隣にいる二人も興味深げな顔でこちらをうかがう。

 王子を含めて四人共々将来有望な見目良い子供達で、実際現段階ですら同年代の少女達が彼らの気を引こうと血道を上げているのだが、父の意向でまだあまり子供同士の交流を広げていないうえ、絶世の美少年と言われる兄の姿を日常的に見ていて、尚且つ猫に心を奪われているエリザベスにはさしたる効果を及ぼさなかった。


「彼女はエリザベス・レリックじょう、レリック公爵のまな娘だ。彼はオーガスト・ミュラー。ミュラー侯爵の子だ。こちらの赤毛はアルフレッド・ドレイン。騎士団長のドレイン伯爵の子で、銀髪がシリル・アーヴァイン。魔術師団長の甥で、来年には養子になる予定だ」


「お初にお目にかかります。殿下よりごしょうかいに預かりました、エリザベス・レリックともうします。よろしくおねがいいたしますね」


 礼儀正しくにこりと微笑んで言えば、少年達もそれぞれに自己紹介をした。

 自己紹介まではそれなりに礼儀正しく済ませるが、それが終われば身分はあれど七歳の子供らしく、少しくだけた雰囲気になる。


 犬達が護衛の方へ行くよう指示されて離れた後、父の話や、彼らにとっては既に馴染み深い、エルンストにとっては自宅である王宮の話を聞きながらもエリザベスは少しそわそわとしながら機会を窺い、折を見て切り出した。


「ところで殿下……あの犬たちは、おそばに寄せないのでしょうか?」


 エルンストの傍から離れ、護衛達の所で大人しく座っている三頭の大きな犬を見遣って言えばエルンストは苦笑した。


「あいつらは大きいから、ごれいじょうには恐ろしいだろう? あそこで待つようにめいれいしたから、こわがる事はないよ」


 エルンストの言葉に、エリザベスは自分への気遣い故と気付いて首を左右に振る。

 エリザベスは確かに猫派だが、犬も嫌いではない、というより好きだ。


 公爵邸にも猟犬十頭に番犬十頭、それに使用人の子供達が共同で飼っている元は捨て犬だったむく犬がいて、どの犬もエリザベスは可愛がり、折に触れて遊んだり簡単な世話もしている。


 庭に住む栗鼠や狐などの毛が生えた生き物はどれもふかふかとして可愛いし、ハリネズミはぽってりとした動きがたまらない。

 馬は大きくて立派な姿が堪らなく美しいし、翼を持つ者達も愛らしく、余り大きな声では言えないが蜥蜴や蛙、蛇だって美しくて可愛いと思っている。


 使用人の子は毒の無い蛇を捕まえるとエリザベスが喜ぶからと持って来て触らせてくれるし、日当たりのいい石の上で良く日向ぼっこをしている青い蜥蜴は宝石の様にきらきらしていて美しく、見つけると時間の許す限りうっとりと眺めていた。


 池や泉の傍にいる大きな蛙もその動きが面白いし、草木や花の上にちょこんと座っている翡翠色の蛙は愛らしさのあまり微笑みが浮かんでしまう。


 夏には庭の浅い池や小川で使用人の子供たちがザリガニや小魚、淡水の貝を獲って遊ぶのを横で応援したり、時にはこっそり混ぜて貰って後で叱られるのも楽しいもの。


 足の多い虫は流石に苦手だが、時折屋敷の中にもいるぴょんぴょんと跳ねる小さな蜘蛛くらいなら手の上に乗せて眺められるし、庭の隅に張られた大きな蜘蛛の巣は、触るのは怖いがとても美しいと思う。

 霧雨の日など、まるで真珠の粒の様に水滴を纏わせていて、いつまでも見ていられるのだ。


 要は動物全般が好きで堪らないエリザベスは先程から彼らの話よりも、護衛の傍で大人しく座っている賢そうな三頭の犬に心を奪われ続けていて、許されるなら触りたくてたまらないのだ。


 訓練や躾けを受けていない犬には決して近づいてはいけないと知っているが、王子が連れている犬が訓練を受けていない筈がないので不安はない。

 公爵邸の白黒斑の猟犬や、兎猟に使われる足の短い愛らしい猟犬、エリザベスには優しいが厳めしい姿の番犬とは異なる、優美な長い毛並みの美しい犬は初めて見る犬種で、触れたくてたまらなかった。


「わたくし、恐ろしくはありませんわ。たしかに大きな犬ですけれど、よくくんれんされているのがうかがえますし……屋敷にも犬はおりますし、わたくし、とても可愛がっているのです。殿下さえよろしければ、あの子たちにも紹介してくださいな」


 犬に触れたい余り、無意識に父や兄に何かをねだる時の様に両手を胸の前で合わせ、僅かに首を傾げて懇願すると、エルンストが僅かに顔を赤らめながらも頷く。


「恐ろしくないのなら……。ディーン、ハイド、エメルダ、来い!」


 エルンストの声にぴくっと反応した三頭は、すぐさま立ち上がると優雅な足取りでこちらへやってきた。


「この黒い犬がディーン、金がハイド、白がエメルダだ。もともと王宮で飼われている鳥猟に使う猟犬の子なのだが、生まれてすぐに私がたのんで私の犬にしてもらったんだ。とてもかしこいから恐ろしくは無いのだが、大きいからごれいじょう方にはこわがられてしまう」


「少し近付くだけで泣きだすごれいじょうもいるので、殿下とおれ達だけの時しかともなわないんだ」

「こんなに可愛いのに、ねえ」


 アルフレッドが苦笑しながらハイドを撫でると、シエルも同意した。


「まあ、そうなのですね。わたくしは平気ですわ。だってこんなに……こんなにかわいいんですもの……」


 エルンストに引き合わされたエリザベスに興味津々と言った風に寄って来るディーンにうっとりと微笑みながら手を伸ばし、まずは下方から寄せた手の匂いを嗅がせて安心させてからそっと触れ、反応を見れば人懐っこい顔で鼻先をエリザベスの顔に寄せてふんふんと匂いを嗅いだ。


「ふふ、くすぐったいわ。わたくし、エリザベスと言うの。あなたはディーンでしたわね? 仲良くしてくださるかしら?」


 長毛の犬のふかふかとした毛並みのすばらしさに陶然とし、満面の微笑みを浮かべて囁くと、ディーンはわふっ、と小さく鳴いてエリザベスの顔をべろりと舐める。


「きゃっ……! くすぐったいわ、もう……っ、ディーン、あなた本当に、かわいくていいこね……!」


 その生温かな感触に溜まらず笑ったエリザベスが真っ黒な犬に抱き着くと、自分も構ってくれとばかりに他の二頭も寄って来てエリザベスの顔や手を舐め、たまらず笑い声を上げた。


 令嬢らしからぬ行動とは解っているが、こんな愛らしい犬達を相手に平静を保つには、まだ少々修業が足りない。


 同じ年頃の令嬢達が気を引こうと血道を上げる王子やその側近候補達の事を意識から飛ばしたまま、先程あの黒い猫と共に過ごした時の様に心からの笑顔で犬達と戯れるエリザベスの姿はその父が自慢する通りまさに天使と言うべき愛らしさで、少年達は呆然と見惚れる。


 無自覚のうちに彼らの初恋を奪ったエリザベスは、そんな事とはつゆ知らず、柔らかく暖かな毛並みに埋もれる幸せに酔いしれた。



 本来であればこの場でエリザベスはエルンストに初恋を抱き、しかし幼い頃からの傲慢さで彼に嫌われ、そこから未来の破滅につながるのだが、そんな事態に陥る可能性が完璧に絶たれた瞬間が今であったと知る者はこの世に誰も存在しない。

お読み頂きありがとうございました。

エリザベスは無自覚初恋泥棒です。

使用人の子達も身分違いは理解してますがだいたいの初恋がエリザベスです。

蛇や蜥蜴や栗鼠を持っていくと喜ばれるのでいつも持って来てくれます。

庭の狐の子が生まれると巣穴を観察して、狐の子が外で遊ぶようになると教えてくれます。

むく犬は最初誰かが町で拾って来たのをエリザベスも一緒にこっそり育てていて、見付かって叱られた後エリザベスのお願いで飼育許可が下りました。

なのでエリザベスは王子達より使用人の子達の方が好きです。


昔犬を飼っていてとても大好きだったのでその子を思い出しつつ書きました。

そしてあと5分で13時というギリギリで投稿します。誤字が沢山あるかと思いますがちょこちょこ訂正します。

ストック無し怖いですね。

明日も13時投稿目指して頑張ります。

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