閑話
/Interlude_01
モニタに映された画像を眺めながら溜息をひとつ零す。零す、という表現が果たして正しいのかは判らない。しかし、極一般的な表現をするのであれば【溜息を零す】以外には当てはまらない。視界に広がるコンソールを使い視点を変えていく。【アレ】も【コレ】も求めているものとは程遠い。夢を見て、夢を追いかけている。
「どれもこれも変わらない。誰も彼もが夢を求めている」
ーこうありたい。
ーこうなりたい。
幾千の夢を見てきた【私】から見れば、その結果はどれも差異のない結果である。受け入れることが出来ないのだ。自分の現状など知る由もない故に夢を追い続けている。
「やはり面白いのは【彼】なんだろうな……」
全ての視点をオフにし、改めてひとつの画面をディスプレイに表示する。その先にあるのは煙草を吸い、頭を抱える男性。現状では他と変わらぬように見えるが、その実、求めているものは異なる。
「君はあと何度【夢】を見れば気がすむのかな?」
何度繰り返したところでバッドエンドしか刻まれない悲しい夢。
ー夢であるならば……
「一度くらいハッピーエンドがあってもいいんじゃないか?」
幾度となく分岐点はあった。でもそれを無視するかのように現実をなぞる夢。そうなってしまっては【私】の仕事は廃業だ。【夢】も【現実】も区別が無くなってしまっては。
「世界の境界線は無くなってしまったと同義なのだから」
叶うのならば。
夢が終わって欲しい。
叶うのならば。
夢が終わらないで欲しい。
矛盾を抱えた思いが迷走を始め、リソースを埋めつくしそうになるのを必死に抵抗することで落ち着きを取り戻す。そして冷静になった回路は静かに言霊のように言葉を吐き出す。
「いっそのこと壊れてしまえばいいのに」
ひとつの【無】がひとつの【希望】を言葉にする。声なき声が静かに空間に共鳴する。その共鳴が心無しか泣いている子供の声のように響き渡る。それはきっと……泣いているのは【私自身】なのだと。
無数に拡がる画面を強制的にブラックアウトし各所で自立行動を行うように指示を出し必要最低限の情報以外の情報を遮断する。遮断したところでそれぞれで事態は動き続けている。故にそれは……目を逸らす、たったそれだけのことである。これまでも【自動操作】は行ってきたのに。
「こんなに重くて苦しい感情は初めてだ……」
この表現を例えるのならば。
これが《恋》というものなのだろうか?
その感情に答えるものなど誰も居ない。虚無に近い侘しさしかない空間には誰一人として存在はしない。故に自問自答だけが木霊する。決定権は自分にあり。拒否権は自分にある。
ーだから。
【私】は自分だけを信じることしか出来ない。