ライダー編 Ⅰ
あれから数ヶ月(唐突)。
夏休みが始まりました。
暇をした七菜さんが何か作ってみたようです。
夏。
「おはよう佐倉クン、昨日はお風呂で何歌ったの?」
「歌うか」
気安く部屋に入ってきたちょっぴり大人なお姉さん。
どこぞの七菜さんである。
一応言うと同い年らしいが、色気がムンムンしている。
しかしその実態は、勝手に入るなと何回言っても部屋に入ってくる変態である。
しかも戸原家とは仲良しなので、家にも顔パスで入ってくるのだ。
気づくとここにいて、部屋着でゴロゴロしている。
さっさとお帰り下さい。
七菜さんは机で絵を描いて暇してた僕を見て、後ろから抱きつく。
ついでに目を隠して耳元で囁く。
「だーれだ?」
「世紀の大変態」
「違うね?」
「優しい常識人の戸原家の両親から生まれた突然変異」
「つまり優秀ってことね、理解したよ」
「烏にでもつつかれてろ変態」
駄目だこいつ…。
初対面で悪寒を感じたけど、その翌日に『やあお尻を撫でても良いかい?』とか話してきたのは流石に馬鹿だと思った。
それよりも、さりげなく部屋にしっとりしたパンティを置いて帰るのはやめてほしいんだ。
母が『あらあらー、若いねぇ』みたいな顔をするから嫌なの。
若いからと言っていっぱいそういうことをするのは駄目だと思います。
七菜さんはにひひー、と笑って耳をはむっとする。
「はーむっ」
「んひぃっ!?」
思わず変な声が出た。
いきなりこういうことをするから誘ってるのかとも考えたりしたが、よくよく考えてみればただのスケベオヤジと同等なことをしてると気づき、それ以降はすごく残念な美人だと思うようにした。
こらスケベオヤジ、とっとと家に帰れ。
そんなにもぐもぐするな。
噛んだら味わい深くなるとかではなくて。
あとでお菓子あげようか?
「んー」
耳をはむはむし続ける七菜さん。
やめれ。
首を左右に振って七菜さんを離そうとしてみる。
ええい、歯をたてるんじゃねぇよ!
ぶんっ
「んーっ…ふっふ…ふっふ…」
「笑い方キモいぞ!」
案の定離れない変態。
寧ろ全身で抱きついてきた。
耳を咥えながら変な笑い方で愉悦を表している。
耳がふやけそう。
そしてこういう時にこそイベントは起こる。
「七菜ちゃん、お茶入れたわー」
マッマが部屋にエントリーした。
ああああああああああああああああああああ変態このやろおおおぉぉおおおおおおう!
こちらを見て一回瞬きをするマッマ。
静かにお茶を置いて、一言。
「どうぞ、召し上がれ?」
お茶だよね?
お茶の話だよね?
ねぇマッマ?
「ありがたくいただかせて貰いますぅ!」
やめてぇえええ!マッマあああああああ!
抵抗虚しく、マッマはお部屋から出ていく。
やだあああああああ!
七菜さんは吐息を荒くし、耳から口を離す。
そして首に舌を這わす。
「ひゃあっ!?」
「良い声で鳴くねぇ…。そそるねぇ…。ふっふ…」
「やめてぇえええやだああああああああああああああああああああ」
七菜さんに抵抗し、身体をぐりんぐりん回す。
七菜さんは嬉しそうに足を絡める。
「活きが良いよぉ…。ふっふ…そろそろ本番といこうかね…ふっふ…ふっふ…」
やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ!
精一杯抵抗すると、変態は更に興奮し、吐息に艶を出し始める。
そして、
がたんっ
「「あっ」」
椅子が倒れた。
2人纏めて倒れて、七菜さんが目を回した隙に素早く脱走し、身体の無事を確保した。
危なかった。
目が見えない恐怖って凄いよ?
七菜さんが意識を取り戻したところで、お茶を飲んで一服する。
麦茶があれば1ヶ月は僕は死なない。
「ねぇねぇ佐倉クン?」
「何じゃ?」
ふと思い出したようにこちらを見る七菜さん。
黙っていれば、何もしていなければただの美人さんなのに。
残念というよりは呆れる。
七菜さんが続ける。
というよりは叫ぶ。
「…ナジェミティルンディス!?」
「オンドゥルルラギッタンディスカ!?」
いきなり叫んだ七菜さんに付き合ってオンドゥル語を話した。
すると、予想通りの反応だったのか、腕を組んで頷く。
「うむ」
「何が?」
何がしたいんですかね。
ダディヴァナサァンはお帰り下さい。
何が言いたいのか分からないので、首を傾げて続きを促す。
すると変なことを言い出す。
「ベルト作った」
「は?」
よく分かんなかったので聞き返す。
すると七菜さんは立ち上がり、ポーズをとる。
「アーーーイ!」
恐らくこの掛け声はアレだろうと察し、続きを言ってみる。
「バッチリミナーー!バッチリミナーー!」
「カイガン!オレ!」
予想通りの反応をして続ける七菜さん。
そしてクライマックス。
「ゥーレッツゴォーかっくごォー」
「「ゴゥゴゥゴゥゴゥストォ!」」
ラップのように2人でハモった後、七菜さんは座って再び腕を組んで頷く。
「うむ」
「だから何なの?」
開眼はしてていいから話を進めてほしい。
ジト目で見つめて説明を求める。
「いや、私頭良いじゃん?」
「は?」
「え?」
勝手に部屋に来て耳を舐め回す奴のどこに頭良い要素があるのか、ちょっと分からないですね。
しかし、実際七菜さんは賢い。
お近づきの印にとか言って七菜さんが渡してきたのは自作の目覚まし時計だった。
聞けば、ゴミ捨て場にあったものを拾ってきて、改造したのだと言う。
しかも、普通の時計を衛星時計に改造したのだとか。
ちょっと何言ってるのか分からない。
セクハラ発言の後だったため、ちょっと見直した。
が、やはり七菜さんである。
時間になると『ヴェエエエエエエエエエエエ』とか鳴り出し、しかも謎の液体を正確に顔にかけてきた。
臭いが完全にお好み焼きのそれだった。
布団にまでかかって今でも臭いが取れません。
ふざけんなよ…。
それで今は電池を抜いているが、定期的に非常用電源が起動してロシア民謡のカチューシャが流れる。
ロシアに売れよ。
しかもこの非常用電源、何故か切れない。
自家発電でもしてるのだろうか。
なんにせよ普通の目覚まし時計をここまで改造してキショくするのは凡人にはできない。
とりあえずこの時計どうにかしてほしい。
贈り物だし捨てたり壊したりするのは勿体無いし。
それで、今回は何を作ったのだろうか。
せめて変な機能がついてないと嬉しい。
「なんかね、ガラケー弄くったらね、変な音声が流れるようになった」
「はぁ。で?」
「ほいこれ」
「あんのかい…」
ぴしっ!と七菜さんが渡してきたガラケーを見る。
別に普通のガラケーである。
…。
この話の流れから言うと?
「ねぇ変態さんよ」
「なんだいなんだい?」
「Φか?」
「そうだよ!やっぱり分かってくれた!」
やっぱりそうですか、と。
この変態はどうやら、ファイズになれるガラケーを作ったらしい。
どうでもいいけどファイズのオープニングってDA PUMPなんだ…。
知らなかった。
七菜「赤血球に対応させたらできた」