ドーナッツの穴税滞納者に関する中間報告書
抜粋
滞納者Aと徴税担当官とのやり取り
滞納者Aを以下Aと記載
担当:朝早くに失礼いたします。
A:何か御用でも?
担当:納税のお願いに参りました。少しお時間を頂いても?
A:納税? 税金はちゃんと払っている筈だが。待って、何かの手違いだろうが忙しいから朝食をとりながら失礼させてもらいます(手にしていた食パンを置き、コーヒーを啜る)
担当:はい、すぐに済む話なので。納税のお話というのは、ドーナッツの穴税についてです。ご存知でしょう? 成人となった国民には納税の義務があります。
A:ドーナッツの穴にかかる税金なんてバカげたものを誰が払うか(ドアを閉めようとする)
担当:(ドアに足を挟む)納税は国によって法律で定められています。第437条「国民の……
A:なんでドーナッツの穴に税金がかかるんだよ。対象が何も無いだろうが。
担当:ドーナッツはドーナッツの穴の円周をパンで360度囲い込みつくられたものを言います。つまりドーナッツとドーナッツの穴は不可分なんです。それとも、あなたは穴の無いパンをドーナッツと呼びますか?
A:空論、まさに机上の空論だ! そもそも俺はドーナッツを食べていない。
担当:でもドーナッツの穴を享受してらっしゃる。それについて第437条12項に記載がありまして、『ドーナッツを所有、もしくは所有できる環境にある国民はドーナッツの穴税を納税する義務を負う』とあります。ドーナッツの穴はパンの囲いが無くともあらゆる空間に偏在しているので、パンを購入可能な状況にある人はみんな納税しなければいけないんですよ。
A:だから物理的に税金がかかる対象が無いと言ってるんだ。誰でも勝手に「享受」できてしまうんだぞ、望んでもいないのに。そんな理不尽な税金は払わんぞ。
担当:ドーナッツの穴の確保は誰もがドーナッツを所有する権利を保障し、食の多様性を確立するためのものですよ。しっかりと財源を使いドーナッツの文化を守る私たちの財団がなければ、やがて穴がないパンでもドーナッツと呼称されドーナッツを乱造されてしまったり、正しいドーナッツの穴を有した正当なドーナッツがなくなり、私たちの子供たちが将来ドーナッツと呼べるものが食べられなくなったり、市場原理の悪作用によりドーナッツの穴を規定よりも大きくして利益追求を始める企業が出てくるかもしれないのです。
A:あんたらが税金ととるためにわざわざドーナッツに穴を開けてるんじゃないのか? 穴が無くったって一向に構わないんだよ、俺は! そんなに欲しけりゃこれでも喰らえっ(食パンの真ん中を齧って穴を開けて担当に投げつける)
担当:(閉まるドアに足を挟んで食い下がる)待って下さい、ここ!(パンの穴を指さして)困ります、ドーナッツの穴の部分のパンはドーナッツ穴製造税として我々が事業者から頂くことになっているんですよ!