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アカネの道  作者: 西陽です。
第弐章 強者たち
16/21

第拾肆話 仲野千冬の大試練

(チッ、面倒くさいことになった)


 仲野は、イライラしながら廊下を歩いていた。

 目の前には、178くらいの身長の黒髪で角刈りの眼鏡をかけた男と、それよりも少し低い172くらいのツーブロックを決めた茶髪の掘りが少し深い男がくだらない話をしながら歩いている。


 後ろには、身長149の赤髪かかった茶髪の、ワンカールのボブヘアの女性的な見た目の男と、髪を8:2くらいにわけたサイドパートヘアの175くらいの男が仲良さそうに話しながら歩いている。


 極めつけは、右に、少しぽっちゃりとした153くらいの垂れ目の頬が柔らかそうなナチュラルストレートヘアの女が、左に、身長166くらいのサイドテールをカールさせた明るめの茶髪をしている薄ピンクの唇の女が、それぞれ仲野の右手と左手をしっかりと握って歩いていた。


 今仲野は人の壁で囲まれていた。この壁を抜けることは容易ではあるものの、逃げることは難しい。誰かしらは声をかけるし追いかけるだろう。


 どうしてこうなったかは、数分前に戻る。








 □








「あと2週間ほどでインターハイ静岡中部予選が始まる。」


 顧問が集合をかけ部員に囲まれながら話している。

 普段なら防具をつけ始めてる時間だが、まだ誰も着替えてはいない。着替えないように、と顧問に言われたからだ。


「しかしだ、学生の本文は勉強だ。まあ、これだけで言いたいことはわかるよな?」


 仲野は眉間を寄せた。


 何が言いたい。全く予想ができない。


 勉強?スポーツ推薦とやらで入学した私には関係のないことではないのか?

 お前の話はどうでもいい。早く剣道を。くだらない勉強などやる必要がない。


 そう思い、仲野は竹刀を取りに部室へ向かおうとした。


「おい仲野、何をするつもりだ」


 それを清田は呼び止めた。


「何って、道着に着替えに行くんですよ。大体私はスポーツ推薦で来たから、勉強なんて必要ないでしょう?」


「そんなわけねえ...とは言い切れねえな。評価としては2でも構わないが1にはしないこと、と教頭にも言われている」


 この学校の評価は大きくわけると4段階評価だが、細かく分けると10段階になる。

 10,9,8が4段階評価でいうSにあたり、7,6がA、5,4,3がB、2,1がCである。

 もちろんCは赤点評価であるがスポーツ推薦の者は2でもBになることが許されている。


 しかし仲野は気にせず部室に向かおうとする。


「どれかの教科に評価1があった場合、補講でその間部活できないが、いいのか?」


 その言葉を聞き仲野は足をピタリと止めた。


「どういうことですか?私はスポーツ推薦...」


「だから普通赤点である2までなら許されているんだよ、しっかり生徒手帳読め。まあなんだ、今日からテストまでは部活を禁止して勉強週間にする。一人でも補講対象者がいると困るんだ、参加はしてもらうぞ」


「私はスポーツ推薦...」


「ほら行くよ~、千冬ちゃん。赤点は取っちゃうとダルいよ~」


 そういい、村田が仲野の手をとり連れて行こうとする。


「理恵那ちゃんも反対の手もって手伝ってよ~」


「え、若葉だけでやってよ、めんどくさぁ」


「私だけ引っ張ってるの恥ずかしいから、ほら~」


「えー」


「今日マスクメロンパン生クリームスペシャル買ったんだ~」


「ほら後輩、行くよ」


 村田がエサを見せると田中はすぐに反応し、仲野の手を取って引っ張った。


「後輩君達~、周り囲って逃げれないようにしてね~。これは先輩命令だ~」


「「「うぃーす」」」


 こうして完璧(?)な仲野包囲網が完成したのだ。


「スポーツ推薦...」


 この包囲網に囲まれ、仲野の言葉は届くことなく清田が担任をする教室に連れていかれるのであった。







 □






 ああ、こんなことしている場合ではないのに。


 やはり危険だと悟って悪あがきをしているのだろう。

 今から手を振りほどきここじゃない別の場所で剣道をするか。


 だが、後ろの坂本とサクマが自分を見逃すとは思えない。前の堀田と波音はそこまで気にしなさそうだが。

 それに補講の時間の方が勉強時間よりも多いはずだ。

 だったら今勉強していた方が時間を無駄にせずに済む。




 ・・・本当はやりたくない。




 ようやく教室に着いた。

 教室に着くまで私をこの陣形で囲んでいたから廊下ですれ違う生徒から変な目で見られた。


 まあ、さして気にすることでもないか。


「さあて、お前らの学力調査するために去年の1学期中間テスト持ってくるからその間勉強してろよ、あと集めるの大変だったんだから感謝しろよ」


「「「ありがとうございます!」」」


「ああ、じゃあ取ってくる」


 勉強なんてのはするつもりはない。


 というか、一部の人間はスマホいじってるが、勉強会の意味がないんじゃないか?


 さて筋トレでもするか...


 スポーツ推薦のクラスだと大体が授業中寝ているので鉄アレイを出して筋トレをしてもバレない。

 担任には「テストで点取らなかったら痛い目見るのはあんたたちだからね!」と怒られた気がしたが、そんなこと気にもしなかった。


 大体、授業をやってる教員は何故その場で怒らないで告げ口をするんだ?


 どうでもいいか。


 筋トレをしながらあいつとの死合を想像しよう。


 あいつとの死合の想像ではまだ「どうやって殺そうか」の段階まで至っていない。

 まだ殺せる想像まで至っていない。クソ!

 だから筋トレを続ける。だから鍛え続ける。だから強くなる。


 全盛期のあいつは動画サイトに上がっている。


 今日も無理だ。今の私では殺すことは不可能だろう。


 だが、必ず殺す。


 そうあの日から決めている。






「よーし、今から分けるぞ」





 戻ってきていきなり分け始めた。最初は国語か。


「じゃ、今からはかって10分で、どこまで解けるかやってみろ、よぉいはじめ!」


 表に返してとりあえず学年と番号と名前を書く。


 そして一通り問題を見てみる。




 流石私だ。



































 ・・・・・・・・・・全く分からない。


 なんだこれは。「作者の考えを述べなさい」だと?ふざけるな。そう簡単に人間の心が読めてたまるものか。それができるんだとしたら私はそれを身につけて死合に生かしてるわ!この作者はどの時代を生きてきた人物だ?それだけでも考えてくることがまるで違ってくる。この問題は作者がどのように考えているかをテストを作った教員がどのように読み取ったか、を書けということだろう。授業の話を全く聞いていないのでわかるわけがない。その上このテストを作った奴は今の教員とは別の奴だろう。わかるはずがない。そして漢字の問題だが...


 ふざけんなよ。


 こんな漢字普段使わない。普段書いたりしない。平仮名カタカナで十分じゃないのか?人と話せれば十分じゃないのか?国語にどうしてそこまで求めるのかがまるで分らない。


 漢字は文字じゃなく暗号か何かに見える。と外国人はよく言うらしいが同感だ。


 とにかく無理だ、1分目を通したがその1分が無駄であったことを後悔した。


 その後配られた科目も全くと言っていいほどできなかった。


 最後に配られた数学なんかは漢字よりも暗号だった。




「よし、答え分けるから自分たちで勝手に丸つけしとけ」


 丸付けする意味はないだろう、絶対。


 だが一応しておこう。


 ・・・これはまずいな。勉強してなくてもわかる。

 これが赤点じゃなかったら全ての人間は赤点じゃないだろう。


 国語 1点

 日本史A 3点

 地学基礎 2点

 英語 3点

 数学 0点


 まあ、ざっとこんなもんだろう。


 はっきり言って赤点取らないというのは不可能だと思う。

 それならこの勉強会は意味のないものになるだろう。

 それこそ教えるのがうまい奴がいない限り。


「ねー、姫ちゃん。何点だった?」


「な、なんですかいきなり」


「ねえ見せてよー」


 堀田とサクマが話をしているのが聞こえた。


 テスト返しによくあるやつだな。全くもってくだらない。

 テストっていうのは勉強をしたから点数が取れる。

 つまり点数を取るために努力した者の方が点数を取れるわけだ。

 そしていくら努力しても自分に合った勉強をしないといい点は取れない。


 だからそもそも勉強をする気がない私が取れるわけがない。


「俺はねー、国語39、日本史B40、世界史B35、地学27、化学22、物理19、生物34、英語43、数学32だぜ」


 10分のわりにはすごいな。


「10分だけだったのにすごいっすね」


 同じことをサクマが言った。


「まあ、3分位しか解いてないけど」


 どうやって解いたんだ。本当にすごいな。


「で、姫ちゃんはどうなんよ?」


「そうですね、国語29、日本史A22、物理基礎22、英語27...」


 10分でそれなら上出来なんじゃないか?私はよくわからないが。

 まあいいや、帰ろう。どうせ補講確定だ。もうこれに参加する必要もない。


「数学70です」


 は?


「は?」


「おいおいマジか」


「さすがアカネだな」


 周りも驚きの声をあげている。そりゃそうだろう。

 10分で70点だと?どんな頭をしてたらそんなに解けるんだ?


「そんなにすごくないですよ。たまたま勉強してたものと同じ問題があったからとれただけですよ」


 たまたまだけでそんなとれるわけないだろ。


「というか、何で数学だけそんなにとれるの?」


 そうだ、あり得ない。数学だぞ?暗号だぞ?なんでそれだけ群を抜いて点数がいいんだ?


「え?だって、面白いじゃないですか」


 うわ、変態だ。理解ができない。


「アカネ、この問題わけがわからないのだが教えてくれないか?」


「おい」


 つい声が出てしまった。


「え?仲野さんなに?」


 まあ、声が出てしまったついでに質問しとくか。


「サクマ君は、教えるのうまいの?」


「そうでもな...」


「いやうまいぞ」


 坂本がサクマの言葉を遮って言ってきた。


「そう・・・」


「教えてもらいたいのか?」


 上手いのなら教えてもらいたい。私だって補講を受けて時間を無駄にしたくはないのだ。


「頼んでいい?」


「俺でよければ、いいよ」


「よろしく」





「とりあえず、テスト見せてよ」


「え」


 どうしても見せなきゃダメだろうか。私でも知っている。この点数が人に見せるにはとても恥ずかしい点数だということを。


「どこまでできて、何ができないかわからないと教えようにも教えられないしさ」


 ・・・仕方ないか。たとえ恥ずかしい点数でも、私は恥ずかしくない。いや、どうしても見せなきゃダメだろうかと考えているのだから少しは私も恥ずかしいのか。


「わかった。」


 そうして私はテストを見せた。


「わーこれはひどい」


 堀田、お前に見せる気はなかったのだが。


「俺以上だな」


 坂本、お前もだ。


「さすが馬鹿だな」


 鍋田(ザコ)、お前は殺す。


「・・・寝てた?」


「寝てない、諦めただけ」


「・・・選択問題だけやってるね」


「もしかしたら取れるかもしれないからね」


「まあ、その判断は偉いね」


 偉いのか


「この点数見てるとアオシ思い出すね、ヒデ」


 誰だ、そのアオシというのは。


「あー、昇段審査の時の話か」


 中学の同級生か。


「んー?姫ちゃん、この1点から3点のテスト見て何を思い出したの?」


 大声で点数を披露するな。お前も殺すぞ。


「あー、昇段審査の時にですね、暇だったからじゃんけんして負けたやつが罰ゲームするっていうことになりましてですね・・・






 □






「罰ゲームって何?」


 坂本はゲームをしようといったアオシに問いかけた。


「そ-だなー、全員分の飲み物買ってくるとか?」


「俺そんなお金持ってないよ」


 アオシの言葉に朱祢はそれだと参加できないと反応した。


「んーとじゃあ...そうだ!負けてから最初にすれ違った女子の顔に点数つけるってのはどうだ?」


「お!いいね!俺は乗った」


 アオシの二度目の提案に横溝と蘭丸が乗った。

 だが朱祢と坂本はちょっと眉をひそめた。


「それ大丈夫なのか?」


「そうだよ、その人に悪いって」


「だいじょぶだいじょぶ。バレないって」


「バレるかどうかじゃないって」


「なんだよノリが悪いなーアカネぇ」


「それに負けなきゃいいんだよ」


「あ、うん、そうだね」


 もう何かをあきらめ、アカネはじゃんけんに参加した。そしてその結果


「俺が負けか、しゃーねーな!」


 アオシが嬉しそうに言った。


「魅せてやるよ。俺のエンターテイナーっぷりをよ!」


 そう言ってアオシは3人組で歩いてきた女子の方に歩き出した。


「さーて、アオシ選手、どんな点数をつけるのでしょうか」


 蘭丸が実況みたいなことをやっている。

 そしてアオシが遂にすれ違い


「いってん、にぃてん、さんてーーーーーーん!!!」


 と大声で叫んで通り過ぎていった。


「一人でいいはずなのにあいつバカだ」


 と大声で蘭丸は笑っていた。


 朱祢と坂本は苦笑いしかできなかった。






 □






 実にくだらない話だった。勉強以上に無駄な時間だっただろう。


「ねえちょっと、姫ちゃん、その子俺に紹介してよ仲良くなれそう」


 堀田は大爆笑だな。陽気な奴だ。


「確かに仲良くなれそう」


「いいから早く教えて」


「あ、ごめん興味なかったよね」


「うん」



 こうして微妙な空気の中サクマがつききっりで私に教え始めた。




 赤点取らなければいいな。






 □






 ・・・なんだこいつは。


 さっきまで暗号だと思っていたのが何とか理解できるようになっている。

 こいつは天才か?とも思ったがそうでもない。しっかりと勉強したうえで問題について細かくかみ砕けるようになっていってるのだと教えてもらっててわかる。


「ねえ、サクマ君」


「なに?あ、ここ間違えてる」


「あ、ありがとう...」


「いいよ。それで?」


「どうして数学そんなにできるの?」


 不思議だ。不思議で仕方がない。もし...そんなことは絶対にありえないのだが、私が勉強が無駄なものと思わなかったとしても、数学は嫌いだっただろう。生理的に受け付けない。

 ならどうしてそんなのができるのかはちょっとだけだが気になった。






「明確に答えが存在しているのがいいんだよねえ...」


 !?


「どうかしたの?」


「いや、なんでもない・・・」




 何だ今の寒気は。全身に鳥肌が立つような気味の悪さだった。

 一瞬サクマからとても暗い雰囲気が出た気がした。


 それは、私と似たような、すべてを憎むようなオーラだった。


 何故だ。何故こいつからそんなオーラが一瞬とはいえでたんだ?

 こいつは見るからに幸せそうで、明るい性格をしているのに...


 きっと気のせいだ。そうに違いない。


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