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アカネの道  作者: 西陽です。
第弐章 強者たち
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第玖話 近野の戦い

 民宿で朝ごはんを済ませ、今は練習試合をする会場である「米原栄生(まいばらえいせい)高校」に向かったいる。

 米原栄生高校は滋賀県でも有名なスポーツ高校で、それぞれの部活に1個、その部活をやるための体育館やコート、道場がある。

 今回の遠征では、バレーボール部とバスケットボール部が遠征で外に言っている為、道場と体育館2つが使われる。

 尚、Aチームはバレーの体育館、Bチームはバスケの体育館、そしてCチームは道場で試合が行われるのだが...


「俺たちは今年が初めてだからAチームは第2体育館、Bチームは道場で行う。しっかり気合を入れてけよ」


 朱祢のチームは道場で試合を行うことになった。


「とりあえず、丸山と武田に試合の記録用紙と旗と襷とストップウォッチを渡しておくぞ。じゃ、武田、後は頼んだぞ」


「はい!」


 清田はBチームの中で一番まともそうな武田に必要なものを渡し、Aチームと同じく第2体育館に向かった。


「さてと、僕たちは道場で全6校のリーグをするわけだね」


「あ、先輩俺が持ちます」


 武田が対戦相手の確認をしにくそうだったことに気づき、朱祢は荷物を持った。


「あ、ありがとう。最初の対戦相手は星名(せいな)高校Cチーム、河内東(こうないひがし)高校Cチーム、岐阜嶺山(ぎふれいざん)高校Dチーム、滋賀鉛華(しがえんか)高校Cチーム、大阪榛名大(おおさかはるなだい)付属高校Bチーム、そして、僕たちだね」


 対戦校は5校告げられたが朱祢はその全てを知らなかった。一体どこが強いのだろうか。


「聞いたことあるのは、榛名付属と岐阜嶺山だな。全国にも出てるし」


「でたー!波音の『ちょっとだけ剣道に興味ありますけど』みたいな雰囲気ー!」


「うるせえよ」


「堀田と波音はじゃれあわないで!早くいくよ!」


「うるせえブタ」


「そうだ、ブヒーとか言ってろ」


「てめえらシメてやろうか!?」


「シメられるのは先輩じゃないですか?チャーシューってシメてありますし」


「近野てめえも容赦しないからなぁ!」


 道場に向かう道で騒いでいるので目立ち、周りの高校からも見られてしまった。


「先輩達早くいきますよ!遅れます!」


 朱祢にそう言われて武田は我に返る。


「そ、そうだよ、こんなことで争ってる場合じゃなかった!いくよ!」


「「「へーい」」」


 たるんだ返事をした三人組だが、それからはせかせかと歩いて道場に向かった。




「あー、もぉ!他の高校はもう揃ってるじゃないか!」


「いいんだよ間に合ったから」


「違うよ!集まったところから試合始めるの!待たせてるの」


「あ、そうなの?」


 朝食の時に清田から説明があったのだが、波音は堀田と早食い競争をしていたので聞いていなかったようだ。


「というかここ狭いな。2コートしかねえじゃん」


「うちんところはその半分、1コートしかないじゃん」


 確かに葵高校の道場は道場の雰囲気はあるものの、試合をする場合は1コートでひとつずつ試合をするか、その半分で小さいながらも2試合同時進行するしかないのだ。


「で、ブタ。最初の試合はどっちでやるのー?」


「ブタ言わないで!えっとね、Tコート」


「どっちだよ」


「入口から見て右。最初の試合だよ」


「じゃあ、堀田と雀間は面付けだな!ついでに俺たちが襷をつけてやるぜ!」


「はい!お願いします!」


「うい。よろ」


 朱祢は、対戦校を待たせないようにと急いで面をつけた。だが焦ってつけてしまったため途中で絡まり、結局のんびりと付けていた堀田よりもあとにつけ終わった。


 試合は葵高校対鉛華高校。葵高校は赤で、鉛華高校が白である。

 審判と時計係は2コートで試合をやってないチームが行うこととなっている。

 Tコートの審判は榛名大付属が務める。


 武田が「整列」のと声掛けをし、それに応じ開始戦まで進む。

 相手校も一人が整列の声掛けをし開始戦まで進む。


「相互に礼!」


「「お願いします!」」


 礼をし挨拶をした後拍手をしながら後ろに下がる。そして、先鋒と次鋒のみが立って残る。


 全員が試合場から出た後、先鋒は互いに2歩ほど入り互いを見ながら礼、そのまま3歩で開始戦まで進み蹲踞。


「はじめ!」


 練習試合が始まった。






 □






 中堅戦が終わり武田が戻ってきた。


「お疲れ様です。ナイスファイトでした。」


「ありがとう雀間君。君と堀田がカウンタータイプだったからかな?相手も警戒してくれて崩しやすかったよー。ありがと」


 仏のような笑みで武田は朱祢にお礼を言った。


「いえ、そんなこと...俺は何にもしてませんし」


 そんなお礼の言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 それもそのはず、先鋒の堀田は1分内でコテ2本をとり試合をつけた。

 だが朱祢は、紙一重でかわしながら相手を動かせる作戦を取ったのだが、相手は冷静に打つ時だけ打ってくるタイプだったので、朱祢の作戦は失敗。途中で作戦を切り替えて待つ方法にするも、それを逆に利用されて小手面で応じられ、相手にメン1本の1本負けで終わった。


 朱祢は結局何にもしていない。朱祢自身の成長にはないか足しになるものはあったのかもしれないが勝利には貢献していない。ほめられることなどひとつもしていないのだ。

 それに、例え武田の言うことが本当だったとしても、朱祢としては嬉しくない。


「そんなことないよ。流石に2連続でカウンタータイプが来れば相手チームもこっちがカウンターを主に使うチームだと思うだろうしさ」


「そうでしょうか」


「そう思うよ僕は」


 武田は2年の中で後輩のことを一番よく見てくれている先輩である。

 2年の中で武田はいじられるポジションにあるのだが、それを自身でネタにするときもあるし、雰囲気を悪くさせないようにと心掛けているように見える。

 さっきもシメてやろうといったものの本気で怒っているようには見えなかった。


「ほら、近野の試合始まってるよ、見ないと」






 □






「君と堀田がカウンタータイプだったからかな?相手も警戒してくれて崩しやすかったよー。ありがと」


 それが本当だったとしたら俺にとっては不都合すぎるな


 外の会話を聞いていて近野はそんなことを思いながら、何をしようか考えていた。

 近野もどちらかというとカウンタータイプなのである。

 朱祢と違って自分から攻めても行けるが相手にカウンターだと最初から思われているのは少々厄介である。


(まあ、でも関係ねっか。やりたいようにやろ)


 相手が自分のやり方を知らないほうが負けにくいし嵌めやすくて面白いのだが、こっちを警戒している相手を堂々と潰すというのもなかなか気持ちいのではないか。

 負けてもそんなに痛みもない。


 楽しければそれでいいだろ。


 そんなことを思いながらいつも過ごしている。


(大学受験のための勉強とか、テストとか、それ以外のことは楽しくないとやってる意味がないだろ)


 試合中も一生懸命やる必要はない。とりあえず楽しければそれでいい。楽しくなければやる意味がない。

 そんなことを思っていると


(うおっと)


 相手が面を打ってきた。それを首をかしけて避ける。


(早く打ってきすぎだし、警戒してるってのウソなのかよ)


 虚ろな目で相手を見つつ、どう料理しようか迷う。


(まずは、ちょっといじってやるか)


 小手をわざと開ける。

 相手はあまりにもわざとらしい動作に一瞬動揺を見せる。


(いいリアクションだぜ!)


 近野はその一瞬をつき、相手の竹刀を払いそのまま面を打つ。


「メンあり!」


 普通に一本入った。


(よっっっっっわ)


 心の中で相手を毒づきながら開始戦に戻る。


「2本目!」


 試合が始まってすぐにまた近野は小手を開ける。

 だが、相手は動いてこない。動揺もしている様子はない。

 その様子をみて竹刀をもとの位置に戻す。


(流石にだよな。ま、また動揺したらそれはそれでつまらないしこっちのが正解だよお相手君?)


 相手を完全にバカにし、ヘラヘラとした態度で試合を続ける。

 相手の頭に血が上りやすくするためというのもあるがほとんどは楽しんでいるからである。


 近野は、勝利を求めない。

 ただそこにあるのは個人的に楽しいか楽しくないかである。


「ちょっと近野!技をいっぱい出してけよ」


 外から声が飛んでくる。


(じゃあ言われた通り、技を少し試すか)


 近野は少しうるさいと思いつつ技を出すことにした。

 技と言っても試したいものばかりである。


 突きと逆胴、担ぎ面を適当に打っていく。

 ちゃんと狙うが打つタイミングはまるであっていない。

 どのタイミングで打つのがいいか考え試しつつ、相手への嫌がらせをしつつ自分自身の楽しさを保っていく。


(次は開けた瞬間をみて小手面うつつもりだろ?)


 相手の動きを大体でいいので予測する。

 相手はこっちが動くのを見て動けばいいのだから。

 多分もうカウンターだとは思わないだろう。


 ではここで小手を狙おう。

 できるだけ相手にわかるかわからないかぐらいで打てるといいんだがまあ普通に小手を打つか。


 やはり相手は小手面を打ってきた。


 小手と小手で相殺、そして余裕をもって相手の面を頭を動かすだけで避ける。

 一本入ると思ったんだろう、打った後手をあげて残心を取ろうとしている。

 だがしかし、当たっていなければ残心は意味がない。


 相手はただ腕をあげて寄りかかってくるただの阿呆にしか見えない。


 隙だらけの胸を思いっきり押し、体勢を崩させる。

 その状態で押すと腰から崩れうことがあり非常に危険なのを近野は知っている。


 だがそれは、油断した相手が悪い。


 相手が嫌がることをし自分は楽しくなる。

 自分はやりたいことをやり相手を操る。

 それが成功した時ほど気持ちいものはない。


 相手の体勢が崩れ、面が露わになる。

 そこに竹刀を振り下ろす。


「メンあり!」


 勝負が決まり近野は勝った。

 蹲踞をして戻る最中に相手の方を少しみた。


 とても悔しそうにしていた。そしてこっちに対して怒っているようにも見えた。

 相手は一生懸命戦っていたのに、バカにされたのが悔しかったのだろうか。

 それとも危険にさせたのを恨んでいるのだろうか。


(どちらにせよそれはお前自身が悪い。俺をそんな目で見るんじゃねえよ)


 ニヤニヤしながらそんなことを思う。


「お疲れ。ナイスファイトー」


 面を外している最中に朱祢が声をかけてきた。


「おー」


 適当に返事をする。

 実は近野はこいつのことが嫌いである。

 常に一生懸命で、弱いくせに負けず嫌いで、身長も低く、才能も何もない。そのくせ負けてとても悔しがる。そして相手を憎むこともない。自分が弱いからと反省し次に活かそうとする。


 その姿とてつもなく腹立たしくうざったい。

 常に一生懸命なところが特に苛立たしいのだ。


(こんなのに一生懸命やったところでなんか得すんのかよ)


 面をとり終わった近野は徐にスマホを取り出しゲームを始めた。


「波音先輩試合やってるけど...」


「だから?」


「え?」


「波音先輩だったら勝つでしょ。だから見なくてよし」


 正直他人の勝ち負けなんか、特に練習試合のやつなんか興味はない。面白味もない。

 だから、近野はゲームのイベントを進めるのであった。






 □






「んで?お前ら対戦結果はどうなんだ?」


 1日目が終わり、清田が聞いてきたので記録用紙を提出した。

 それを死んだようなめ目で清田が見ていく。


「鉛華に4-1で勝ち、榛名大付属に2-3で負け、星名に5-0で勝ち、河内東に1-3で負け、岐阜嶺山に0-5で負け。全体でみると2-3の負け越しか。まあがんばれ」


「適当過ぎません!?」


「それくらいしか言えることがないからだろう?頑張れよ」


 清田に厳しいことを言われ武田はとほほ、と落ち込む。


「そっちはどうだったんですか?」


「あ?お前らと同じとこのAが1校Bが2校、それ以外のBが2校の6校リーグで、全体的に見て3-2で勝ち越し、まあまあだな」


 まあまあと言いながらも清田はどことなく満足しているようにも見える。

 外で、しかも出来立てほやほやのチームでこれだけ語れば十分なのだろう。


「ただ、明日は強いとこが来るらしいからな、もしかして当たるかもだ」


「その、強いとこってのはどこですか?」


 朱祢は気になり質問をする。

 どうせ名前は知らないが興味がある。


「九州総合高校だ」


「「「「「九州総合!?」」」」」


 2、3年と坂本と鍋田がその名に驚いて声をあげる。


「ど、どこですか?」


「アカネ知らねえの!?前年度インターハイ優勝校だよ!」


「マジ!?」


 優勝校が来るのか。それをこの目で見れるとしたらいい経験になる。

 どんな奴らなのか前日から楽しみでわくわくが止まらない。






 □






「おい、遅刻するぞ。早うせれ!」


 助手席にいる、メガねをかけているちょび髭の男が大声を出している。

 急いでマイクロバスに24人の少年少女が乗り走り出した。


「遠征♪遠征♪楽しみばい♪」


 少年は、遠征がよほど楽しみなのかオリジナルソングを歌ってにこやかにしている。

 とても下手なリズムで自己流の歌を歌っている少年はスポーツ刈りをクールに決めてはいるものの顔が童顔の影響でかっこいい爽やかスポーツ系男子というよりは、いたずら小僧という印象を受ける。

 その隣にいる少年がとてもガタイが良く大人にも見えるため余計にその印象を濃くしている。


「遠征と言っても滋賀だろ。そんなに強い奴はいないだろ」


「別によかやろ?外に行くだけでわくわくするし」


「観光が目的かい」


「まあ、そうやなあ!」


 元気にそう答える。それに対して表情は変えずに丁寧に応じる隣の少年。まるで父親と息子のようにも見える。


「お前、その訛りなんとかならないの?今時変だぞ」


「別に変やなか!そういうのもたいがいにせれ!」


 バスの中でしゃべり続ける二人。その周りもおしゃべりでにぎわっている。

 そしてバスは滋賀へと進む。

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