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アカネの道  作者: 西陽です。
第弐章 強者たち
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第捌話 俺は男だ!

 あの後第一次トランプ大戦「大富豪の部」が始まった。

 大富豪は白熱したゲームとなり何度も何度もやっていたらあっという間に泊まる民宿についていた。

 夕飯は上郷SAにより名古屋コーチンを使った親子丼を食べた。

 正直「サービスエリアなんか」となめていた朱祢だったが、一口食べた瞬間なめていてごめんなさい、と全力で謝罪した。

 それほどまでにおいしかった。

 鶏肉は、ひと噛みした力強い味の肉汁が噴出し口の中を旨味で支配する。その肉汁が鶏肉のパサパサとした食感を感じさせないようにしていた。流石は名古屋コーチンといったところか。

 玉子は、そのジューシーな鶏肉を優しく包み込んでおり、ふわっとしていてかつトロっとしている、なんとも不思議な食感だった。その玉子には鶏肉から出たと思われる肉汁とうまくマッチしたタレがかかっており、そのタレと玉子がご飯を食べる手を進めさせた。

 サービスエリアを舐めてはいけないなと朱祢は心からそう思った。

 民宿には最初お風呂を借りて寝るだけという形になる。


 で、今はお風呂の間の前にいる。

 前にいるのだが...


「ちょっと、他高校だけど女の子を男風呂に入れようとするのは容認できないんだけど」


 久能西高校の女子に絡まれていた。

 絡まれている理由は、葵高校の男子4人が女子一名を男子風呂に入れようとしてたからである。

 ちなみに女子一名というのは勿論、朱祢のことである。


「俺は男だっつの!」


 そんな朱祢の声も目の前の女子3人には届きはしない。


「え?あなた進んで男風呂に入りたいってわけ?」

「やだぁ、淫乱」

「不潔」


 それどころか朱祢に罵声を浴びせてくる。


「姫ちゃんは男なんだってー」


 堀田が説得しようとするも


「姫ちゃんって・・・」

「明らか女の子のあだ名じゃん」

「不潔」

「風呂でヤル気ね」

「ヤルわね絶対」

「不潔」


 逆効果だった。


「もうこれ以上紛らわしくするのはやめてください!」


「喚いてないでほら、あなたはこっち」


 女子3名のうち一人が朱祢の手を引っ張ろうとした。

 しかし手を引っ張る前に坂本が前に出てそれを防いだ。

 そして後ろから鍋田が言った。


「亜里華、流石にそれはまずい。」


「なに?あなたも卑猥なことしようっていうの?最低ね鍋田君」


 どうやら二人は知り合いらしい。


「やんねーよ。まずこいつ男だし。というかそいつも男だって散々いってんじゃねえか」


 堀田に変わって鍋田が説得を始めた。


「はぁ!?この子のどこに男成分があるのよ!?確かに胸は...だけど!この顔!この声!この髪!どう見たってどう考えたって女の子でしょう!?」


 説得しようとしても亜里華と呼ばれた女子の意見は変わらず口論は続くと思われた。


 すると


「うるさいんだけど」


 女風呂の赤い暖簾をくぐり仲野が出てきた。

 風呂から出たばかりなのか髪の毛には水気がありしっとりとしていて、少女をより艶めかしくしている。

 着ているのはピンクのラインが入ったグレーのジャージなのだが、少女の美しさが、そのシンプルなジャージを少し高級なものに見せている。

 そして何故かいつもより胸が大きく見える。


「ちょっとぉ千冬、あなたからも何か言って」


 仲野のことも知っている。ということは中学の同級生だろうか。


「亜里華どうし...」


 仲野は亜里華に返事をしようとしたが、その場を見て言葉をとめた。

 そして状況を理解し、しゃべりだした。


「亜里華、そいつ男」


 仲野が朱祢を指さし言った。


「え?」


「わかった?私まだ着替え途中だから」


 そういって仲野はまた戻っていった。


「・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・・・・・。」


 あまりにバッサリとした仲野の言葉にしばらく沈黙が双方を包んだ。


「あの、俺男風呂に入るね?」


 朱祢が最初に口を開き沈黙を破った。


「・・・どうぞ」


 それを聞き男風呂の青暖簾を続々とくぐった。


「じゃあ、俺が姫ちゃんのかわりに女風呂入る~!」


「入らないで!」

「やっぱり変態!」

「不潔!」


 堀田は女子3人の壁を越えられなかった。




 風呂場は民宿なのにも関わらず、かなり大きく作られていた。

 脱衣所は大人とほぼ同体格の男子高校生4人が使ってもかなり余裕があった。

 浴場もまるで銭湯のようであった。充分にリラックスして浸かれそうだ。


 朱祢はさっさと服を脱ぎ、まずは体を洗いにむかった。

 体を洗ってから入るのは当然だ。洗ってからでないと湯船に体の汚れが混じってしまう。

 当然のはずなのだが


「堀田。行っきまーす!」


 ガラガラガラピシャッ!


 いきなり浴場と脱衣所を隔てる扉が勢いよくあいた。

 そう思うと堀田が全力で走ってきた。

 足がつくたびにに少し水が張った床がピチャピチャとなる。


 そして堀田は湯船に向かって大ジャンプをかまし


 ザッパーーーーーーーーン。


 そのまま水しぶきをあげながら湯船にダイブをした。


「あっちいいいいいいいいいいいいい」


 勢いよくダイブした堀田が風呂のあまりの熱さに絶叫をした。

 風呂の細かいルールなど、この年の純粋な少年(バカ)には気にならない。

 朱祢はチラッと風呂の温度計を見たら42度だった。


 誰だこんなに上げたやつ


 そんなことを思いながら体をなるべく速く綺麗にして湯船へと向かった。






 □






 仲野千冬はサラシを巻いていた。

 先輩達から「うるさいからちょっと外確認して」と言われ、「なんで私が」と思いながらとりあえず、全裸で出ないようにパンツとジャージだけを着て外に出たのだが。


(あれは気持ち悪いな。なんか落ち着かないというか、胸とジャージの相性が悪いというか)


 そんなことを思いながらサラシを巻いていた。


 サラシは仲野が胸が大きくなり始めてからずっとつけている必需品だ。もちろんずっと同じものをつけているわけではないが。


 やつを殺すために無駄なものはすべて捨てる。

 仲野の家の自室にも筋トレ道具と布団と剣道雑誌と剣道のBDと教科書を置くための机ぐらいなものだ。

 本当は教科書もいらないのだが一応学生ということで教科書は置いてある(おいてあるだけ)


 だが、自分の体にあるものはさすがに捨てられなかった。

 仕方なく仲野がとった方法はサラシを巻いてできるだけ邪魔にならないようにするという方法だった。


「も~千冬ちゃん!そんなに強く巻いて」


「そうだよー。将来胸の形崩れてやばいことになるからね」


 先輩の村田 若葉(むらた わかば)田中 理恵那(たなか りえな)がドライヤーで髪を乾かしながら話しかけてきた。


(将来、か...)


 将来、という言葉にふと思いにふける。


 やつを潰したら...殺したらその先私はどうするのだろう?

 将来のこととかまるで考えもしなかった。

 将来のことを具体的に考えている高校生もいないとは思うが仲野は別格である。


 小学生のころから将来の夢などない。

 小学生のころから復讐に燃えてきた。殺す以外のすべてを捨て、剣道に熱心に取り組み、己の強さを主張してきた。

 そして今、復讐を果たせる一番近いところにいる。

 このチャンスを逃したらもう二度と復讐を果たすことなどできないだろう。


 だから今はいい。今は将来のことなど考える必要がない。


 殺すために無駄なものは捨てる。


 全てはあの男に復讐するために...


 ところで復讐とは別の話だが、将来の、それも胸の形など考えている余裕があるというと、この二人はずいぶんと甘っちょろい人生を生きてきたのだな。


 正直言ってこの先輩二人のことは嫌いである。

 隙あらば稽古中に手を抜く。まあ別にそれはいい。無視すればいいだけのことだから。

 稽古自体は男女混合なので本気でかかってくる相手は必ずいるのでそれを使って腕を磨けばいいこと。

 問題は部室で携帯をずっといじって部活の時間が短くなることだ。

 顧問が部活に遅れることは仕方がないとしてそのことをいいことにずっと部室で携帯をいじってる。

 そしてそれで部活が遅れる。


 何のために部活に入ったんだ。見ているだけで腹が立つ。

 丸山達がこいつらをしばらく待ってから部活を始める、というのが毎回である。


 今すぐこいつらだけでも引退してもらいたいものだ。よく耐えてるなー私。

 一応復讐以外の無駄なことは省きたいので関係は良くもなく悪くもないという感じにしてるのだが、この関係性自体かなり面倒くさい。


 まあ、こいつらでも大会ならば本気を出してくれるだろう。最後の試合だぞ?ただそれも負けると思うけどな。


 サラシも巻き終わりジャージをもう一度着て外に出ようとした。


「ドライヤーで乾かさないの?」


「すいません、どうしても見たいテレビがあるんで」


 勿論嘘だ。ここにいる意味がないから部屋に戻って寝ようとしているだけだ。

 風呂はいい風呂だった。なんか匂いが違ったがどこからか温泉を引いてきてでもしてるのだろうか。


 とりあえず朝練もあるらしいので寝るとしよう。






 □






 ここは葵高校の男子全員が寝ている部屋。

 時刻は午前4時44分。まだ朝の陽ざしも窓から差し込む様子もない。

 前日に丸山から


「5時から朝練らしいから15分前には起きるようにしよう」


 という提案があり、各々が携帯や置き時計の目覚ましセットしていた。

 そして今それが一斉になりだす。


 警告音、鳥の鳴き声、サイレン、なにかの歌


 朝の4時45分に一斉になりだした目覚ましがノイズとなり、部屋を占拠する。

 朝+音の暴走、即ちこれが示す答えとは


「「「「「うるせえ!!!!」」」」」


 各々が自分の時計に怒りながらの起床である。


 そんな中でも寝ていた武田はバケモノなのかもしれない。




 もうすでに男子全員寝巻から着替えて靴を履いて玄関の前に出ていた。

 部員のほとんどが激しい寝ぐせがついている。


 今外に出ているのは男子部員全員と仲野で残りは女子2人と顧問が来ていない。


 55分になりようやく女子2人と顧問が出てきた。


「おう、お前ら早いじゃないか」


「先生、男子全員揃いました」


「女子も全員揃いましたー」


 丸山と田中がその場で清田に報告した。


「オーケーだ。じゃあ、すこし歩くぞ」




 15分くらい歩いてゲートボールくらいできそうな広さの広場にきた。

 周りには田んぼ、田んぼ、田んぼ、山。

 民家は少し遠くにあり、少しぐらい声を出してもよさそうな環境である。


「じゃあ、とりあえず準備体操な」


「はい!じゃみんな竹刀もって体操ができる隊形になって」


 円を作りながら体操のできる隊形になる。

 円になることで他の部員全員を見ることができる。

 そうすることで竹刀の素振りのときお互い見ることができ気づけないことでも気づけるようになる。


 まずは竹刀を置き準備体操を行う。

 準備体操が終わったら素振りをする。


 剣道の素振りは、右足を前に出しながら振りかぶり、左足をひきつけた時に振り下ろす。


 素振りと言っても種類がある。

 上に大きく振り、地面すれすれまで振り下ろす上下素振り。正面に自分と同じくらいの相手がいると思い、その面が切れる位置まで振り下ろしすのが正面素振り。腰を落とした正面素振り、股割り素振り。限界まで踏み込む、踏み込み素振り。そして他と違い、跳躍しながら後退した時に振りかぶり跳躍しながら前に出た時に振り下ろす早素振り。


 この5種類が葵高校でやっている素振りである。

 それぞれ50本。計250本振る。


 その素振りが終わった後。


「よし、身近な奴と二人組になれ。あそこにあるポールをタッチしてここまで走れ。負けた方は罰ゲームとして早素振り50本な」


 いち早く組んで走る準備ができたペアがいた。

 仲野と鍋田だ。

 仲野が最初に並んだらそれを見て急いで鍋田が並んだのだ。


「はいよーいドン」


 顧問のやる気のない掛け声で仲野と鍋田が走り出す。


 2人とも腕は大きく振り、脚はかなり上がり走り方がとても綺麗だった。

「陸上部ですか?」と散歩している人に聞かれるのではないかと思うくらいに。


 どちらが勝ってもおかしくはなかったが、鍋田が勝った。


「ハァ...ハァ...」


 どちらも息が上がっている。


「なあ・・・雑魚・・・お前・・・速いな」


(仲野さんがほめた!?)


 仲野の言葉に朱祢は失礼だが驚いた。


「お前は・・・遅いな・・・」


「お前速いから、陸上部になったほうがいいんじゃない?」


 仲野がほめたと思ったがどうやら違ったようだ。


「そうだな。お前に剣道で勝ってから考えるよ」


「いや、今すぐ考えた方がいい。勝てるわけないから」


 仲野はそういって罰ゲームの早素振り50本をするため、自分の竹刀を取りに歩いた。

 鍋田は仲野の言葉が気に入らなかったのと朝で気分が悪かった為舌打ちをした。


 負けた全員の早素振りが終わった。

 あとは民宿に戻るだけだ。

 だが戻る前に顧問が驚きの言葉を言い放った。


「朝練、1時間早かったわ。わるい」


 その言葉に、部員全員が口を開けポカーンとしていた。

 顧問の全く謝っている気がしないその言葉に朝から気が抜けてしまった。

すまん。朝練の時間間違えてたの清田じゃなくて俺だよ。

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