第八十七話
クリスマスイブを明後日に控え俺はいつも通りの業務に従事しているが、笹森さんは俺とクリスマスと正月三が日を一緒に過ごしてくれるため年内に原稿を仕上げるべく苦しい戦いを繰り広げている。
少しでも役に立ちたいと思うが俺は漫画になるような面白い経験を今まで生きてきて一度もしていないので休憩時間に社員食堂で取りあえず水野の前に座ってみた。
「水野、何か漫画みたいな話はないか?」
「唐突すぎない?話の前後がまるで見えないんだけど」
昨日電話で笹森さんは原稿がまるで進まないと言っていた。
おまけに間の悪いことに遊びに来た同業者の友人に勧められたアニメを見てしまい原稿の手は止まるわ、二次創作の虫は騒ぐわで、今笹森さんはケーキ屋にも行かなくてはならない、真っ白な原稿を埋めていかねばならない、ゲームは蘭ちゃんさんがメインのイベントではないがそこそこしなければならない、ネットでエマリン同人誌を漁りたい、自分でもエマリン同人誌描きたいと、やることが多すぎて、もういっそ七人に分裂したいとか言い出した。
七人に分裂したら二人くらいは貰ってもいいだろうかと思ったが言わないでおいた。
エマリン同人誌は来年多分出すと言っていたので、買いますねと言ったら買わなくていいですから、今度DVD持っていくので一緒に見てくださいと言われた。
一人で見ていると正気が保てない気がするらしい。
「水野、クリスマスに八千代さんから何を貰うんだ?」
「面白い話はいいの?」
「ああ、いい」
「服買ってもらうけど、毎年」
「服か・・・」
残念ながら俺は服に興味がない。
というより自分に興味がない。
昨日も笹森さんにクリスマスに欲しいものを聞かれたが、まったく思いつかなかったので、笹森さんのお部屋にあるものが欲しいですと言った。
今思えば部屋にあるものと言うことはその部屋に必要と言うことになる。
それはつまり長い間大掃除のたびに捨てられることなく笹森さんに選ばれ続けた極上の品と言うことになるのではないか?
それをプレゼントしろとは。
図々しい。
俺はこんなに図々しい人間だったのか。
もう笹森さんの部屋の写真だとか、部屋での笹森さんの映像だとかそう言うのでいいのに。
漫画描いている動画は約束通り送ってくれたが、右手とパソコン画面しか映ってなくて、流石にこれじゃないなと思ったが保存した。
部屋での様子と言うか、何着てるんだろうとか、そういうのが見たかったのだが。
ああ、でも泊まりに来るんだから明後日には見れるな。
笹森さんのパジャマ姿。




