第八十五話
笹森さんはミックスジュースを飲み干した。
「すみません。そう言われると思ってましたけど、一応聞いてみました」
「そうですか」
「じゃあ、食べたいものないですか?良かったら作りますよ」
「笹森さんがですか?」
「はい、こう見えてもお料理しますから、何でも言ってください」
「でも、悪いです」
「悪くないですよ。いつも奢ってもらってばかりじゃないですか。私の方が申し訳ないです。漫画も買ってもらってるし」
「それは俺が欲しいから買ったんです。笹森さんが書いてるんだと思うと漫画読んでるだけで、胸に迫りくるものがありますし」
「そうですか」
正直漫画一生懸命小さな手で描いている笹森さん想像するだけで興奮する。
机に胸乗っけて、紙胸で押さえてるのかな?
ああ、描いてるところ見たい。
「あの、図々しいんですけど、漫画描いてるところ見せてもらえませんか?」
「漫画ですか?いいですよ。でもパソコンで描いてるので持ち運びできないので、描いてるとこメールで送ればいいですか?」
「はい、お願いします」
やった。
言ってみるもんだな。
動画が増える、嬉しい。
あれ、パソコンで描いてるってことは胸で紙押さえてたりしないのか。
残念だ。
「それでクリスマスプレゼント済ますつもりですか?」
「だって本当に欲しいものないんです」
自分は何でもいいと言われたら困るくせに、相手にはしてしまうという、一番嫌な人間だ、これ。
でも、本当に欲しいものなんてない。
クリスマスを特別な日だと思ったことは今までなかった。
唯ケーキとばら寿司を食べる日、そんな認識だ。
プレゼントも何を貰って嬉しかったとかも特に思い出せない。
せっかく毎年用意してくれていたのに、プレゼントしがいのない可愛くない息子だったな。
まあ、国立科学研究所に入るという目標は達成できたからいいと思う。
俺のサイボーグ化は母の悲願だったのだから。
「じゃあ、せめて食べたいものないですか?」
「食べたいものですか」
「何でもいいですよ」
「あの、質問なんですけど、クリスマスって笹森さんのお家では何を食べていますか?」
「ケーキと骨付き鶏もも肉の焼いたのですかね。でも最近はもう面倒なので、うちは鶏のから揚げ食べてます。骨付きの鶏肉食べてたのは子供の頃だけですね」
「うち、クリスマスばら寿司食べてたんです」
「いいじゃないですか。ばら寿司好きです。」
「クリスマスに食べます?」
「うちでは、ばら寿司はお誕生日とひな祭りと子供の日に食べてましたね。クリスマスは食べたことないです」
「そうですか」
「ばら寿司食べたいんですか?」
「いえ、唯他所の家はどういうもの食べてるのかなって」
「竹宮さんのお家のばら寿司何が入っていました?」
「え?」
「蓮根とかたけのことか人参とか椎茸?」
「上に卵が乗ってたくらいしか思い出せないです」
「そうですか」
本当に食べさせがいのない可愛くない息子だ。
きっと嫌絶対何の表情もない顔で黙々と咀嚼していたんだろう。
母に申し訳なかった。
笹森さんに会えなかったらそう言う気持ちさえ持つことができなかったから、笹森さんには感謝してもしきれない。
このままじゃ貰ってばっかりだから、他にも何かプレゼントさせてもらえないだろうか。
「あの、私二十五日バイトお休みなんです」
「そうなんですか」
「それで、あの、二十四日なんですけど」
「はい」
笹森さんは空になったミックスジュースのグラスに目をやり右手の指先で触れた。
それだけで赤いストローがささった何の変哲もない透明なグラスがまるで命を吹き込まれた様に柔らかな光が溢れた。
笹森さんが魔法をかけたのだとわかった。
「竹宮さんのお家に、お泊りしても、いいです、か?」




