第八十二話
「私、大学は京都だったんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。美大滋賀にないので。でも国立とは全然違うとこなので、すれ違ったりもしてないでしょうけど」
「そうだったんですか」
「でも近くまで行ってみたことあるんですよ。豆大福買いに」
「あー、ありますね」
ああ、その頃もし今のような身体だったのなら、認識していなくても視界の端にでも入っていたら拡大して永遠に眺めていることができたのに。
女子大生笹森さんを。
「美味しいですよね、あそこの豆大福。食べました?」
「いえ、いつでも食べれるなと思っていたので食べたことなかったです」
「そういうものですよね。漫画だったらきっと私達すれ違ってますね」
「そういうものですか?」
「はい。でもその場合別れてからのシーンになりそうですよね」
「別れたのにわざわざすれ違うんですか?」
「別れた後も、付き合ってすらいなくても、何処にいても好きな人の姿を追い求めるのは王道ですから。BLでは鉄板」
「笹森さんの漫画では大概受けの人が探していますよね」
「私多分受けが、攻めのことを凄く好きで面影を探してしまうって展開が好きなんですよ。だから新藤さんの弟でも出そうかなって思ったりしてたこともあるんですよね。鹿島新藤さんの顔滅茶苦茶好きだから、それだけでぐらぐらしそうじゃないですかー」
「確かに本人には言いませんけどカッコいいカッコいい言ってますよね。心の声で」
「受けが攻めにベタぼれって言うのが好きなんです。かっこよすぎって思ってて欲しい」
「自己投影してたりします?」
「ないですね。何回も言いますけど、新藤さんと付き合いたくありません。付き合うなら白井です」
「そうですか」
「でも、凄いですね、竹宮さん」
「何がですか?」
「受けとか攻めとか何の躊躇もなくさらっと言うから」
「躊躇することですか?」
「あんまり大っぴらに言えないかなと」
「寧ろそんなに読んでもいない自分が語っていいものかそう言うのは躊躇われますが・・・」
「数じゃありませんよ。面白いって思ってくれているんですよね?」
「はい。こんなに面白かったんだって、これからいっぱい読めるなって、もう勉強はしなくてもいいし、時間はいくらでもあるので、楽しみです」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「だから笹森さんが面白かった漫画全部教えて欲しいです。アニメも、ゲームも」
「はい」
笹森さんが面白いと言ってくれた漫画はどれも面白かった。
天下の大将軍になったり、ピアニストになったり、甲子園を目指したり、バスケットに夢中になったり。
一生懸命自転車のペダルをこいだり。
本当に不思議なんだけど、彼らがこの世に実在しているかのように感じられる。
そんなはずはないのに。
こんな世界を教えてくれたのは紛れもなく笹森さんで。
だからだろうか。
笹森さんと同じものを読んでるんだと思うと嬉しくなる。
何を読んでいてもそこに笹森さんを感じる。
これが面影を探すということなのだろうか?
だとしたら俺は笹森さんにおける理想の受けと言うことになるが、まあいいか。
だって好きな人にベタぼれという事実に受けも攻めもないもんな。




