第六十五話
やっと休日が取れたので約束通り笹森さんと待ち合わせ、出かけることとなった。
といっても笹森さんの漫画の締め切りがあるので待ち合わせは十二時にして一緒にお昼を食べることにした。
笹森さんが行きたいラーメン屋さんがあるらしい。
「すみません。本当にラーメンでいいんですか?」
「はい、ラーメン大好きです」
「良かった。一回入ってみたかったんですけど中々入るチャンスがなくて。友達と何か食べに行こうってなってもラーメン屋さんって行かないんですよ」
「そうですか」
「はい、だから今日楽しみで、楽しみで、お魚のおだしでできてるんですよ」
「そうですか」
可愛い。
食べるの大好きとか可愛すぎて。
毎日電話で漫画の話したりゲームの話したりしてたけど、やっぱり生はいい。
特に日中、明るい日光の元で会えるとか、本当に可憐な一輪の花過ぎて。
まあ空盛大に曇っているけど。
この可愛らしすぎる生き物がこの世に存在してることに全力で感謝の念を捧げたい。
マフラーもやっと返せたし。
「ラーメン食べたらアイス食べに行ってもいいですか?ちょっと歩きますけどイタリアン・ジェラートのお店があるんです」
「はい、いいですよ」
ラーメン屋は行列だった。
並んで何かを食べるというのは初めてだった。
向かい合わせの席が空いてなかったので隣に並んで食べた。
顔が見えないのが残念だったが、久しぶりに感じる暖かな気配に満足した。
ラーメンも美味かった。
無言で食べ、さっさと店を出た。
「お腹いっぱいですね」
「はい」
「少し歩きますよ、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「冬にアイス食べるの大丈夫ですか?」
「はい、一年中食べます」
「私もです。炬燵に入って食べるの美味しいですよね」
「はい」
炬燵か。
実家を出てから一度も入っていないな。
買おうかな、炬燵。
でも一人だしな。
笹森さんはラムレーズンとチーズケーキのダブル盛、俺は黒豆きなことチョコチップのダブル盛を頼んだ。
此処も向かい合わせの席が空いてなくて、並んで座った。
「あの、本当の所、竹宮さん引いてたりしません?」
「何がですか?」
「私のことです。あの、漫画、とか」
「何でですか?」
「あの日浮かれてて、でも考えたら恥ずかしかったなって。彼氏に自分こんなの描いてますとか言うの、何て言うか、自分はこう言う人間ですって、頭の中曝け出しているようなものじゃないですか」
「そうですか?」
「はい、本当は引いてたりしません?」
「しません、しません。寧ろ尊敬しています。あんな風に物語になっているものが書けるなんて凄いです。だって笹森さんが自分で考えてるんですよね?」
「はい」
「凄いですよ」
「そうですか?でも私一日中あの二人の会話想像してるんですよ。実際に声に出しちゃったりなんかして」
「凄いですよ。俺なんか二人組にすることすらできませんもん」
「ずっとやってきたので、いくらでも会話なら思いつくんですよ」
「それが凄いです」
「誰とも付き合ったことすらないのに、いつも誰かを恋愛させてるんです。妄想ばっかしてて」
「想像力があって凄いと思います。かっこいいです」
「どこがですかぁ」
笹森さんはただでさえ小さいのに、アイスを食べるたびに縮んでいってしまいそうだ。
白いタートルネックのセーターに丁寧に梱包された胸以外。
「あの、笹森さん」
「はい」
「少し歩くんですけど、俺の家来てもらえませんか?見せたいものがあります」




