第四十一話
「主席甘いもの食べないの?」
「食べない」
水野は台湾混ぜ蕎麦を食べ終わると立ち上がりデザートを注文しに行った。
俺はもそもそと胡麻ドレッシングをかけた山盛りにしたサラダを食べる。
「主席よく食べるよね。食べるの好き?」
「ああ」
「じゃあ、美味しいもの彼女と食べに行ったらいいんじゃないの?俺達そこそこお金あるんだし」
「美味しいものって?」
「それは彼女さんの好きなものでいいんじゃないの?」
何が好きかなんて知らない。
何も知らない。
知っているのは笹森千尋って名前とパティスリー・シエルってケーキ屋で働いていること、妹がいるってことくらい。
あれ、凄くないか。
一日で二個も彼女の個人情報が増えている。
凄い。
特に名前を知ったのは凄い。
「水野、取りあえず好きな食べ物を聞いたらいいのか?」
「別にそんなド本気で聞かなくてもいいと思うけど、食べられないものは聞いた方がいいんじゃない、アレルギーとかあるし」
「そうか」
「映画は?二時間くらい黙ってても平気だよ」
「映画って何を見たらいいんだ?」
「彼女さんの見たいものじゃない?」
「食事にせよ、映画にせよ、相手にばかり決めさせると言うのは卑怯じゃないか?」
「そう?だって食べたくないものは食べたくないし、見たくないものは見たくないでしょ?」
「ああ」
「でも、主席は何食べてもいいし、何見てもいいんでしょ?」
「ああ」
「じゃあいいんじゃないの、でもお寺本当にいいよ。ちーたんと付き合うまでは俺も全然興味なかったけど今は好き。静かだから余計な事喋らなくていいし、景色も綺麗だし、広いし」
「まず寺に行くんだな、そして口座番号」
「口座番号のことは一先ず忘れなよ」
「寺に行ったら重くないか?墓のこと考えているみたいで」
「奈良のお寺はお墓ないよ。主席考えすぎだよ」
「そうか」
「うん、主席金峯山行ったら?」
「きんぷせんじ?」
「吉野にあるお寺。主席の名前そこから取ったんじゃないの?」
「さあ、知らない」
「でも今冬だから蔵王権現見れないから、来年の春行ってみたら?桜が綺麗だし、葛餅も美味しいよ」
「葛餅は食べたい」
「葛餅好きなの?」
「嫌いな食べ物はない」
笹森さんは何が好きだろう?
何が食べられないのだろう?
聞きたいことが沢山ありすぎてどこから聞いていいのかわからないのが現状だ。
まず年を聞いていいのだろうか?
俺は笹森さんが年下でも年上でもどうでもいいが、笹森さんはどうだろう?
ああ、そういえば趣味も特技もないって言ってたな。
そこだけは一緒だ。




