第三十九話
コンビニで買った生姜焼き弁当を食べ、ペットボトルのウーロン茶を飲み、一息ついた。
色々なことが起こりすぎて本当に今日起こったことなのかわからず取りあえず何から始めていいのか考え風呂に入ることにした。
風呂から上がった後も自分の部屋なのにどこに座っていいのか身の置き場に困った。
どうしてしまったんだろう。
何もする気が起きない。
これはあれか。
満たされすぎてもう何もしなくていいや状態。
供給過多すぎて身体が付いていかない。
いつも点滴のように笹森さんを摂取していたからな。
こんな風に大量投与されると。
心臓が。
機械のはずの心臓が。
こんなことではダメだ。
付き合うんだから笹森さんと。
付き合う、笹森さんと?
どんな展開だ、これ?
取りあえず動画の保存だ。
大画面で見たらどうなるだろう。
昨日までは平気だったけど、今見たら死ぬんじゃ。
明日の自分の生存が疑わしい。
国立科学研究所がヒュドラ―の大群の襲撃を受け職員が一人死亡。
亡くなったのは竹宮吉野さんってことになりかねない。
それくらい俺は今後の人生において運を使いきった感はある。
恐ろしい。
怖くて今日の彼女を再生できない。
もし万が一さっきまでのが夢だったら。
長い壮大な俺の妄想だったのなら。
携帯を見て笹森千尋の名前を確認する。
ある。
履歴にも残っている。
勇気を出して再生をする。
音声なしで。
駄目だ。
可愛すぎて直視できない。
よく見てたな俺。
こんな雪の中に咲く一輪の儚い花を。
あ、マフラーだ。
笹森さんは白いマフラーをしている。
俺にかけてくれたマフラーだ。
俺はベッドに無造作に置いた彼女が貸してくれたマフラーを手に取る。
ああ、これだ。
早送りして彼女がマフラーをかけてくれたとこまでいく。
ああ、かけてくれている。
優しい。
巻き戻す。
何度見ても優しい。
染み込んでいく、溶けていく。
ああ、やっぱりいいな。
やっぱり好きだな。
この穏やかな空気感。
心臓が温められていく。
見たことないけど無声映画ってこういうのだろうか。
永遠に見てられるな。
ああ、でも付き合うってことは今までと違ってお店で見るだけじゃなくなるんだ。
それこそウルトラレアプライベートモード笹森千尋が見れるんだ。
慣れなければ。
この可愛さに、いじらしさに、可憐さに。
もう画面越しじゃない。
本物に会えるんだ。
俺は余りのことに眩暈がする思いで、ベッドに転がり、勇気を出してヘッドホンをしてスマホに入れた音声を再生し、転げまわりながら、足をバタつかせながら、最後まで通しで聞いた。




