第二十七話
神尾と別れ橋を渡り信号を待つ。
この信号を渡ればキャッスルロード。
真っ直ぐ歩けばちーちゃんさんのいるパティスリー・シエルがある。
キャッスルロードは国立科学研究所を見に来た観光客向けのお土産屋さんが多いので、この時間になるとほとんどの店が閉まっている。
営業しているのは夕飯を食べれるような店だけだ。
パティスリー・シエルは七時閉店だが、店内はブラインドが降りているがまだ灯りは付いている。
店の前に毎日出ている可愛らしい絵が書かれたブラックボードが仕舞われてて、ああ、もう閉まってるんだなと実感する。
でも久しぶりに見た、暖色系の店の外観。
何だかとても暖かくてさっきまでちーちゃんさんがここで働いていたのだということが伝わって来た。
しみ込む。
ああ、帰って来た。
帰って来たんだ。
暫く店を見ていたらとんでもないことが起こった。
そう、これはとんでもないことだ。
疲れすぎて可笑しくなったのかと思った。
店の裏口からちーちゃんさんが出てきたのだ。
ちーちゃんさんは店の裏口を出て、信号を渡るためだろうか、俺のいるケーキ屋の前の通りまで出てきて、店の前に突っ立ってる俺に気づいた。
拙い。
不審者だと思われるだろうか。
閉店したケーキ屋の前に棒立ちの大男。
「あの、もうお店閉店ですか?」
取りあえず喋る。
通報されても国立科学研究所の名前を出せば大丈夫だが、俺はちーちゃんさんとはお客さんと店員さんでまだいたい。
この関係をずっと続けたい。
ちーちゃんさんの中で変質者認定されたくない。
「はい、申し訳ありません。七時閉店ですので」
ちーちゃんさんはお店にいる時に比べると小さな声で言った。
ちーちゃんさんはトートバッグのショルダー部分を両手で掴んでいる。
その様子に俺はちーちゃんさんを怯えさせていることに気づいた。
まあ、そりゃあそうか。
百九十近い男が店の前に突っ立ってんだもんな。
そりゃあ怖いよな。
うん、怖い。
「じゃあ、また来ます」
「申し訳ありません、お待ちしております」
「はい」
ちーちゃんさんは髪を下ろし、黒いコートに白いマフラーをしている。
暖かそうだ。
ちーちゃんさんが寒さに震えることなく生活できているのかと思うと嬉しい。
そしてコート姿可愛い。
街灯あって良かった。
感謝してもしきれない。
一か月分の店でのちーちゃんさんは無駄にしたが、こんな可愛いちーちゃんさんを見れるなら、一か月北海道遠征も悪くないかもしれない。




