第十八話
一週間だ。
もう一週間ちーちゃんさんに会っていない。
声なら毎日聞いている。
動くちーちゃんさんもいつもに比べたらささやかすぎるが毎日見れてはいる。
だがもう一週間生ちーちゃんさんを見ていない。
あの世界一可愛い顔を拝んでいない。
見ていない、見ていないんだ、俺は。
ちーちゃんさんが店を辞めたわけではない。
嫌、一週間ケーキを買いに行けてないのだから、辞めてしまったかもしれない。
俺のいない間に送別会が開かれ、花束を受け取り涙を浮かべ店を後にしたかもしれない。
無理。
想像で心が凍える。
永遠に嘆ける。
「うわ、何やってんの、あんた?」
俺が休憩時間に入ったため仮眠室のソファに飛び込みイヤホンを装着し、ちーちゃんさんの音声データを再生すると神尾がやって来た。
俺は両手で耳を抑え、イヤホンを絶対に死守する。
「何してんの?音籠るわけ?」
「ほうっておいてくれ」
ちーちゃんさんの声がする。
声しかしないけど。
動画はさすがに見れない。
他人に見られたらいくら身体の機能とはいえ言い訳できない。
ああ、誰かちーちゃんさんの声を液体化してくれないだろうか。
国立科学研究所の英知で。
そうしたら俺を原液のままそれにヒタヒタに浸して欲しい。
ちーちゃんさんが足りない。
圧倒的に足りない。
摂取したい。
過剰摂取したい。
声だけじゃ足りない。
会いたい。
生声が聞きたい。
誰か俺の静脈にちーちゃんさんを流し込んでほしい。
そうしたらたちまち俺は元気になって、このいつ終わるともしれない殲滅作戦とその事後処理に喜々として参加できるだろう。
誰でもいい。
今ちーちゃんさんはどうしている?
ちーちゃんさんの働いている「パティスリー・シエル」のホームページを見ても、この店地図と商品の写真しか載っていない。
個人情報の保護という観点から従業員の写真を載せられないのはわかるが、本当にお菓子の写真しか載ってない。
美味しそうだけど。
ちーちゃんさん。
ちーちゃんさん。
ちーちゃんさん。
「何やってんの、主席」
俺は声のした方を一瞥した。
水野悠里、俺と神尾の同期で三席。
他人に引かれない程度の丁度いいイケメンと言った顔で性格も特に面倒じゃない。
良かった、こいつが来たなら俺は神尾と話さなくてもいい。
任せよう。
俺はちーちゃんさんの声を聞くのに忙しい。
「ほうっておいてくれ」
「それさっきも聞いた」
「まあいいけど、主席、何聞いてんの?音楽?」
「音楽」
そうだ。
俺からしたら、ちーちゃんさんは音楽だ。




