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365日日替りアカウント  作者: 虫圭
3/28

1月3日

 高校来の親友に誘われた。

 何に、何処に、という訳ではないのだけれど、正月休みで暇をもて余していたらしい。

 親友は元々あまり家に居るタイプではなく、仕事でも外回りをしている時間が殆どだ。

 またプライベートでもやれボランティアだの、合コンのセッティングだの、とにかくアクティブなので家で丸二日ジッとしているのに飽きてしまったようである。

 とは言え、私にも特に行きたい所ややりたい事がある訳でもなかった。

 なし崩し的に近場の温泉まで足を伸ばし夜に私のお気に入りのご飯屋さんに行こうという話になったのだった。

 この歳になってお正月の三日から温泉とご飯しか行くところが思い付かないというのは、私のボキャブラリーの乏しさを改めて痛感してしまうけれど、ある意味無欲で日々の生活で満足している『幸せな人』であると言えなくもない。

 いや、満たされているという実感はあまりないのだけれど。


 何はともあれ。

 私と親友は、1月3日の朝から出発し地元から少し離れた所にある温泉に向かったのである。

 道中、年末の近況報告を交わす。

 普段からやり取りをしているので特に大きな報告は別にないのだが、話し始めるとお互い話は尽きないと言うか話のネタなんて無くても会話は止むことがなくて、高校で出会ってからもう随分な時間を一緒に過ごしてきたけれど、ちっとも飽きることない関係に不思議な気持ちになる。

『高校で知り合った友達は一生の友達になる。だから悪いことに引っ張っていくような連中とは友達にならないほうが良いぞ』と、私が嫌いだった高校一年生の時の担任は言っていたけれど、正しくその通りだった訳だ。

 ちなみに私の親友は、この担任の竹を割ったような率直な物言いが好感が持てる、とお気に入りだったそうで、そこは私と相容れない部分でもあった。

 そんなことを白熱して言い合ったあの頃が懐かしい。

 白熱していたのは私だけだったのだけれど。

 混んでいない道を車を走らせること一時間、ほんの少しだけ道に迷い(スマホのナビが私達を惑わせたのだ)温泉に辿り着く。

 しかし、そこは本来目的としていた温泉ではなかった。

 何故なら本来行きたかった温泉は年末にリニューアルのために一時休業に入ってしまっていて(何故年末に閉めるのか)、他の温泉に行くしかなかったのである。

 私を惑わせたナビを使う羽目になったのも、行ったことのない場所に行かなくてはいけなくなったからだった。


「ここ、良いね」

「むしろこっちの方が良い」

「うん、そう思う」


 これが感想。

 小ぢんまりとした日帰り温泉で、宿泊施設すら併設されていない場所だったが、佇まいと温泉の雰囲気、そして海沿いというロケーションが、私と親友を満足させた。

 展望露天風呂なんて小洒落たお風呂もあって、視界に広がる海を一望できた。

 一望できたところでそこには海しかなく、それも水平線には雲がかかっていて特に見るべきものも感動を誘うものも無かったけれど、展望露天風呂という開放感、いや解放感に拍車をかけるには十分な立地だったと言える。

 それに、まだ正月休みの人も多いだろう日にとても空いていたというのも大きなプラスポイントだった。

『のんびりする』という私が温泉に求めるものをちゃんもクリアしていたのは僥倖だった。

 ただ一つ、一つだけ『むむむ』と思ったのは、とても寒いという、どうしようもないことだった。

 真冬、展望露天風呂、海沿い、寒気に寒気を重ねたようなそのロケーションは、お風呂から上がった直後の火照った身体を瞬く間に冷ましてしまう驚異的な力があり、室内に戻るまでの僅かな時間に露天風呂で受けた恩恵の全てを台無しにしてしまったのだった。

 結局室内の湯船にまた暫く浸かってから、「少しのぼせてきたね」なんて言いながら上がる結果となった。

 図らずもメリットとデメリットを丸々体感できてしまったのだ。

 大体一時間くらい、普段湯船に浸からない私にしてはけっこう長く入ったほうだったのだけれど、浴場に居る間もずっと親友と何か他愛ないことを話続けていた。

 それこそ一瞬で湯冷めしてしまうような寒気ですら会話のネタの一つでしかなくて、「寒い! 頭だけ超寒い!」なんて笑いあったりした。


 あ、あと、お風呂から上がって食べた売店のアイスがとっても美味しかった。

 市販のアイスだったのだけれど、昨今のコンビニでは珍しくなってしまった百円くらいやつで、良い意味で安っぽくて「この昔っぽい雰囲気が良いよね」なんて、お互いのアイスをシェアしながらパクパクと平らげてしまった。


 車内に戻っても温泉のことや安っぽいアイスのことを褒めたり、露天風呂がひどく寒かったことを思い出してまた笑った。

 たったの一時間程度のことだったのに、なんだかとても素敵な時間を過ごした気がした。

 実際そうだったんだと思う。

 きっと私一人で訪れてもこんな時間の過ごし方にはならなかっただろうけれど、親友と二人なら次もきっと素敵な時間になるのだろうと思う。

 だからまた、此処に二人で来ようと思った。

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