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違和感がありました

話が動き始めます。

 変わらぬ景色を横目に歩き続けて三日。

 やはり何もなく勇者たちと歩いていた。

 しかしそれももう終わりそうだ。


「そろそろ近いぞ。気配が大きくなってきた」

「気配?」

「ああ、精霊がね。ちょっと騒いでるんだ」

「精霊?お前そんなのもあるのか」

「まあね。接してみると意外と可愛いよ。ほら」

「いや見えねえよ」


 空に指を指しているクレイが俺に見えない精霊への感想を求めてくるがそんなことをされても困る。だって、見えないのだから。

 本当にそこにいるのかも怪しいがクレイの反応的にいるのだろう。


「あれ、見えないの?一応目を凝らせば見えるはずなんだけど」


 クレイがそう言ったのでもう一度目を凝らしてじっくりと見てみれば小さな光の粒のようなものがクレイの周りをふわふわと舞っていた。

 もしかしてこれが精霊だろうか?


「その光の粒のようなものが精霊か?」

「光の粒?ああ、君にはそう見えるのか」

「そう見えるって、じゃあ人によって見え方が変わるのか?」

「そうらしいね。僕には羽の生えた子供が浮かんでるように見えるし、セシリアやフーラは鳥のように見えるようだし、シリカには僕が見ている姿と似たようなものが見えるらしい。多分、魔力の量に比例して見える姿が変わるんじゃないかな」

「ふーん」


 俺は何となく魔力量は小さそうだ。

 おそらくクレイもシリカも魔力量は大きいだろう。片や勇者、片や魔法使いだ。

 それにセシリアもフーラもおそらく俺が見ているものよりも鮮明にその姿を見ている。

 基準は分からないがおそらくその形をはっきりと見ることが出来ればその分魔力は高くなっているのだろう。


 だから魔力量はこの中では多分一番魔力量が少ないのだろう。

 まあ、魔力量を比べるのもおこがましいかもしれない。


 しかし、魔力の量は人以上にあると思っていた。召喚魔法は思いの外魔力を消費するのだ。

 その召喚獣を維持させるのは魔力を与え続けていなければならないからだ。俺はかなり長めに召喚し続けても魔力を尽くすことは無かった。


 いや、勇者たちと比べたらだ。多分一般人よりかはあるだろう。

 それに、それを気にしても仕方ない。

 今はそんなことは問題ではない。


「それでその魔族はどれぐらい近いんだ?」

「歩いて3分ぐらいかな」


 近くのトイレの場所を答えるようにあっさりと言ったが、そこまで近いというのになぜそこまで軽い反応なのかが不思議だ。


「近すぎないか、それは」

「そうだな、どちらにしてもすでにこちらの動きもばれている」

「本当か?」


 だとしたら奇襲も効かず、もしかしたらあちらから何か仕掛けてくるかもしれない。

 出来ればばれない方が好都合だというのに厄介な。

 それなのにクレイはやはり顔色を変えていない。むしろ、余裕を滲ませているようにも見える。


「ああ、ちと気付くのに遅れた。相手方はすでにこちらに気付いているがあちらから襲ってくることは無さそうだ。ただ、まあ臨戦態勢は取っていそうだけどね」

「で、どうするの?」


 シリカはとりあえずといった風にクレイにそう聞いた。

 セシリアはセシリアでニコニコと微笑みながらクレイの方を見ているし、フーラは……何だろう、眠そうだ。

 戦闘前だというのにこのパーティーは驚くほどに緊張感がない。

 俺の方も何だか気が抜けてきた。

 色々と焦っている自分が酷く滑稽なのではないのだろうかとすら思えてきた。

 いや、実際経験で分かるのだろう。

 その証拠にクレイはニヤッと口角を上げて言った。


「もちろん、正面から行くさ」


 なるほど、これは頼もしい。

 絶対な自信を持っている奴はちゃんとした経験を積んでいる。たまに自分の力を過信しているような奴がいるが、クレイはそうではないだろう。

 勇者という称号に酔っているような奴ではないだろう。俺は人の見る目はあまりないかもしれないがそれだけは何となく分かった。それが勘違いの結果だとしたらそれは俺の責任だ。どちらにしろ文句は言わない。


 体の力を抜いて腰を下ろしてエイレスを喚んだ。

 今回は最初から臨戦態勢だ。


「俺の方も準備は出来た」

「私も大丈夫」

「私もです」

「……私も」


 俺たちがクレイにそう言うとクレイは頷いて前を向いた。

 その顔はやはり動じてはいなくて、ただ真っ直ぐ前だけを見据えていた。


「じゃあ、行こうか」


 そしてクレイは歩き出す。

 俺たちはそれに合わせて歩みを進める。


 一歩ずつが歩くことで近付いているのかと考えると少しだけ震えてきた。

 もちろん、それは怯えではないし武者震いなんてものでもない。

 ただ、願いが叶ったための歓喜だ。


 敵はすぐそこだ。

 魔族はほぼ目の前だ。


「……いた」


 少し進んだ先、一人の男が立っていた。

 色黒な肌をして、精悍な顔だ。あまり、人間と姿と変わらない。

 しかし、一つ人間とは大きく違うものがある。頭にある角だ。

 二つあるその角が男の特異さを目立たせる。


 そんな男が顔に笑みを張り付けてこちらを向いている。


「おいおい、遅いじゃねえか。あんま、俺を待たせるんじゃねえよ」


 犬歯を口の中から覗かせて気だるげそうな声でそう言った。

 しかし、その顔は楽し気だ。


「勝手に待っていたのはそっちだろうに」

「馬鹿言え、そこらの雑魚たちを相手にするよりお前らとやった方が楽しいに決まってんじゃねえか」

「こっちとしてはそれで助かるんだけどね、面倒くさいよね。本当に君たち」


 クレイが呆れのような諦めのようなそんな溜息を吐いた。


「それで、呼びかけに応じたんだからとりあえず王国への術式は解いてくれよ」

「分かってるさ。どうせ、お前ら呼び出すためだけのもんだ」

「術式?」


 話の途中だったが思わず聞いてしまった。


「ああ、こいつは王国に定刻を過ぎれば爆発するような術式をあちらこちらに刻み込んだからな。ご丁寧にそれを解除してほしかったらここまで来いなんて手紙と一緒にさ」


 そう言えばなぜこいつらが魔族を倒しに来たのかを聞いていなかった。

 というかなんでこいつらは普通に話をしてるんだろうか?

 敵同士なのだからもう少し剣呑な雰囲気であるべきだろう。

 それがこんな風に話をするなんて違和感でしかない。


「お前もお前でなかなか楽しい奴だよな。別に俺のところに会いに来なくてもそっちでなんとか出来ただろ?」

「確かにそうだけどね。事実、そちらはもう解除し終わった」

「へえ、じゃあお前はなんでここに来たんだ?」

「決まってるだろ。お前を倒しに来たのさ」

「はは、そりゃあいい」


 何とも愉快そうに、どこまでも楽しそうに。

 そんな風に笑う男はクレイを一度じっくりと見て、セシリアから順に見渡していった。

 そうして最後に俺に目線を向けるとその男は首を傾げた。


「なんだぁ?おめえからおかしな気配がするぞ」


 指を俺に向けて指すとそう言った。

 眉間に皺を寄せて舐めまわすように俺を見た。

 そんな視線に耐えられなくなって身を捩る。一体なんだって俺がこんなやつに見られないといけないんだ。

 しかし、男はそれでも俺を見続けて30秒ほどで両手を上げた。


「はあ、さっぱりだ。お前、まさかとは思うが俺たち側の人間じゃないだろうな?」

「どういうことだ」


 そう言ったのはクレイだ。俺は話についていけず黙っていた。

 俺がこいつ側?

 一体何を言っているというのだ。


「なんだかな、こいつからは感じたことのある気配がするんだよ。喉元までは出かかってるんだがなどうにもそれが出てこねえ。それでも、妙に存在感がありやがるからな。だからこいつは俺たち側にいるんじゃないかって思ったんだよ」

「気配?」

「ああ。妙にお前の方にそれがくっついてやがる」


 全く心当たりがない。

 俺が魔族と会ったのはこいつで二度目だが、それでこいつの言う気配なんてものを感じられるか?

 そんなことを思ったがふと気付く。


 俺たちはなぜ黙ってこいつの話を聞いてるんだ?


 何なら隙ならいくらでもあった。

 大口開けて笑っているうちに攻撃でもすればよかった。

 別にこいつと律儀に話なんかしなくてもいい。


 そんなことを思えば先程の話なんか忘れて、体が動いた。

 腰からナイフを抜いて一直線に胸を狙う。

 体が思考を追い越して、ただ感情に赴くままに。

 しかし、それはその男の胸に刺さる直前で止まった。


「いいね。血気盛んで俺は嬉しいぜ。それでもちっとばかしそこの勇者よりも歯ごたえは無さそうだがな」


 胸を狙っていたナイフはその男の手によってさえぎられた。

 それに、そのナイフはその男の皮膚を軽く切っている程度だった。


 男は傷ついた肌を見て、笑った。


「俺はケリオスだ。てめえは?」

「……」

「無視かよ。悲しいねぇ」


 こいつの話なんかには耳を貸さない。

 どちらにしろもうやってしまったのだ。

 それにしても、さて。

 俺はこいつに勝てるのかね?

さてさて、次から頑張っていきましょう。

……ストックが、もう切れたけど。

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